独駐留米軍削減でドイツのNATO核任務に影響は?

独Spangdahlem基地から伊へのF-16移転や
英から独への給油機やオスプレイ移転中止は
有事の戦力分散及び増強基地確保の点で評価されているが

Spangdahlem AFB.jpeg13日付Defense-Newsは、7月29日にエスパー国防長官が明らかにしたドイツ駐留米軍1.2万人削減・移転計画の概要に関し、F-16航空団の伊移転や英国から独への航空戦力移転中止は、有事に独Spangdahlem基地を戦力分散及び増強基地として使用できる点で評価できるとの専門家意見を紹介しつつも、
約20発ともいわれるドイツ国内保管のNATO用戦術核兵器と、その管理部隊(第52 Munitions Maintenance Group)の扱いは、ドイツ世論が核任務からの離脱を望む傾向があることから、より大きな米独関係やNATO問題に発展する可能性があると指摘し、ドイツ空軍の同戦術核運搬用トーネード戦闘爆撃機の後継選定にも影響を与えると今後の注目点を指摘しています

ドイツはNATO加盟国として、米国が提供する戦術核爆弾B-61を自国航空機で投下する任務(伊、蘭、ベルギー、トルコと共に)を担っており、現在はトーネード戦闘爆撃機がこの任務を担っていますが、老朽化から2025年までに後継機導入計画をまとめる必要があり、独は93機のユーロファイターと、45機のFA-18とEA-18Gの3機種を混合して後継機とする方向で検討中で、この場合FA-18が戦術核搭載機の「跡継ぎ役」だとの報道が出たりしている中での動きです

13日付Defense-News記事によれば
Spangdahlem AFB2.jpeg●F-16部隊の移転細部計画は今後国内外の様々な利害関係者との調整を経て煮詰められる予定で、欧州米空軍は細部未定としながらも、7月末の会見でエスパー国防長官はF-16部隊のイタリアへの移転について、黒海地域に近いところに移転することで、NATOの南東正面での「dynamic force employments」やローテーション派遣をより実行しやすくなると説明していた
8月6日に退役したGoldfein前空軍参謀総長は退任直前のインタビューで、自身がSpangdahlemの飛行部隊長及び基地司令官として2002年から勤務した経験も踏まえ、「F-16飛行部隊が移転した後には、豊富な燃料貯蔵、広大な駐機スペース、航空機整備施設が残ることから、RamsteinもSpangdahlemも将来的に極めて重要な施設であり、必要不可欠だ」と語っている

Spangdahlem AFB3.jpeg元欧州米空軍司令官のFrank Gorenc氏も、余剰施設が残るSpangdahlem基地の可能性に触れ、中国やロシアを相手に考える場合、航空アセットや人員を分散して生き残りを考える必要があるが、NATO東側面の防御に、同基地の広大なスペースや施設は極めて重要な役割を果たすだろうと述べ、「米本土からの増強戦力投入が基本構想だが、増強戦力を受け入れるインフラや場所が必要だ」、「米国や西側諸国からの戦力増強を防ごうとするプーチンに平手打ちを与えるべく受け皿が必要」とドイツ基地の重要性を説明している
更に、2019年にSpangdahlemを拠点に実施されたF-15E展開演習を振り返り、「所属するF-16部隊と米本土から展開したF-15E部隊を同時に活動させることができた余裕がある」、「同基地には多くの投資をしてきた」、「当時F-15E部隊はテントや仮設施設で2週間演習に参加したが、F-16部隊が移転した後は飛来戦力を余裕で受け入れ可能となる」とも元司令官は語っている

戦術核兵器B61の扱いに注目が集まる
Büchel Air Base.jpeg話題のSpangdahlem基地から約50分ほどの距離に、約20発の戦術核兵器B61を保管するBüchel空軍基地があり、核兵器を管理する米空軍第52弾薬維持管理群の第702弾薬支援隊が所在している
ドイツはNATOの「nuclear sharing」ドクトリンの対象国(伊、蘭、ベルギー、トルコと共に)で、トーネード戦闘爆撃機(電子戦も担う)が必要時この基地から戦術核を搭載して出撃する計画となっている

しかし、CSISのRachel Ellehuus研究員は国防省で欧州NATO・政策を2018年まで担当した経験も踏まえ、米空軍F-16航空団が移転することで、独との共同訓練や意思疎通の機会が減り、米独の政治関係が緊迫する中で、ドイツ国民に不人気な「nuclear sharing」からドイツが撤退する可能性も否定できないと懸念している
Büchel Air Base2.jpeg同研究員は、「F-16部隊の移動が、独の核任務離脱に直結するわけではないが、核任務反対派に油を注ぐことにはつながり、世論の米国への信頼感にも影響し、トーネード後継選定における複雑さを増す可能性は十分にある」と分析している
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イスラエルとUAEの国交樹立へ、との大きなニュースが入ってきましたが、米国の主要同盟関係が怪しい状態は当面続きそうです

Goldfein前空軍参謀総長も元欧州米空軍司令官のFrank Gorenc氏も、Spangdahlem基地からのF-16航空団移転にどれほど前向きかは不明ですが、それが決定事項であるなら、その中で最善を尽くすことを考えようとの軍人らしいコメントです

日本が猛暑とコロナで「脳死」状態にある中でも、世界は動いていますので、ちまちまと考えていきましょう

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「国防長官が1.2万名削減計画を発表」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-30
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「独トーネード90機の後継争い」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-28
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「戦術核改修に1兆円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-20
「F-35戦術核不要論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-16
「欧州はF-35核搭載型を強く要望」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-22
「F-35核搭載は2020年代半ば」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-23-1
「F-35は戦術核を搭載するか?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06

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