米空軍の操縦者不足対策の話題2つ

幕僚勤務なしキャリア管理のその後
50年ぶりの初級操縦課程シラバス変更試行へ

Airforce pilot.jpg度重なる海外派遣や家族に厳しい生活環境の航空基地勤務を嫌うなどして、米空軍パイロットの民間航空会社への流出がなかなか止まらず必要なパイロット数の1割から2割と言われる2000名不足している現状を打破するため、継続勤務ボーナスなど給与改善から勤務地での子弟学校レベルの改善などまで、米空軍は様々な対策を行っていますが、状況悪化は足踏みでも、改善までいかない苦しい状況が続いています

そんな中、米空軍が取り組む状況打開策から、2つの話題を取り上げます。一つは、2018年から輸送コマンドが開始した「幕僚勤務なきキャリアパス制度」又は「”fly-only” track」を、同コマンドがこれ以上拡大しない(これ以上募集しない)と表明したこと

Airforce pilot2.jpgもう一つはパイロット養成コースを効率化・迅速化する検討の一環として、安価な簡易シミュレータ導入などによって、単独飛行までの教官同乗飛行時間を劇的に削減する新たなカリキュラム試行に夏から取り組むとの発表があったことです。

パイロット流出は、これまでの米空軍組織の根本を揺るがす事態ですので、組織の様子を観察する重要な視点として、この問題への取り組みを、比較的細かくフォローしているところです。そんなフォローの一環としてご覧ください

“Fly-Only” Trackを拡大しない宣言
Miller MC.jpg2月27日、米空軍輸送コマンド司令官であるMaryanne Miller女性大将は、前任のCarlton Everhart司令官が2018年から試行的に導入した、司令部等での幕僚ポストに付かず、前線飛行隊のパイロットとしてのみ勤務するキャリア管理「Aviator Technical Track (ATT)」(俗称:”fly-only” track)の募集を、以後は行わないとmilitary.comとのインタビューで述べた
「幕僚勤務なきキャリアパス」を希望しなかった操縦者にその理由を調査したところ、「興味がない」や「初めての制度への不安」との回答が多く、ATT制度への応募者若干名(only a handful of applicants)の中から、これまでに僅か2名がATTコースを選択しているところだ

Miller MC2.jpgMiller輸送コマンド司令官は、「もう、この試行制度への受け入れは行っていない」、「この試行を拡大するつもりはないし、今後興味もない」と厳しい表現でインタビューに答えた
●また同コマンド報道官は、「試行的な取り組みであり、現時点で、本制度を利用している2名への本制度適用期間の終わりはない」、「彼ら2名が希望すれば、ATT管理から外れて、幕僚職や指揮官職に応募することも可能である」と説明した

別の話題で、輸送コマンド司令官は、配下部隊の海外展開の形態を、911事案以前に一般的だった飛行隊ごと丸ごと展開する「squadron deployment model」形態に、2019年8月から戻したと説明した
この形態は911事案以前に一般的だったが、海外派遣頻度や増加し、期間が長期化する中、「飛行隊丸ごと燃え尽き状態」となる問題が発生したことから、各飛行隊から数名づつを差し出して海外派遣部隊を編成する方式に変更していたところである

50年ぶりに初級操縦課程カリキュラム変更試行へ
Wills2.jpg3月12日、初級操縦課程を持つ第19空軍司令官のCraig Wills少将は米空軍協会機関紙とのインタビューで、米空軍として取り組んでいる新たな操縦者養成コース検討「Pilot Training Next initiative」で得られた教訓を元に、新たな実験的カリキュラムを組み立て、2020年夏以降にスタートする初級操縦コースから試行で流してみると述べました
●同司令官は、新たな実験的カリキュラムの特徴を「student-centered learning:学生中心の教育法」と表現し、カリキュラムに各学生を当てはめる従来方式ではなく、各課程学生が持つ能力をに対応した課程教育を目指すと説明した

●更に司令官は「新カリキュラムで進める中で、学生のスキルやタレントを見極め、各学生に焦点を当てた課程プログラムを考えていく」、「今は、得てすれば、全ての課程学生を同じ道に引きずっていく傾向がある」と表現した
もう一つの「Pilot Training Next」の教訓として、安価な「off-the-shelf部品」を活用したシム訓練装置「immersive training devices:没入型訓練装置」の使用があると同司令官は述べ、

従来のシム訓練装置は1台30億円程度するが、この簡易的な装置は100万円以下程度で、もちろん従来型のような十分な機能はないのだが、「Pilot Training Next」では極めて大きな訓練効果を生んでいると説明した
Webb.jpg●そして例えば今年1月に開始したコースでは、通常ソロ飛行までに10-15回の教官同乗飛行を行っているところ、上位2名の学生は僅か4回の同乗飛行の後、ソロ飛行に進んでいる状況を示し、その劇的な改善をアピールした

●空軍教育訓練コマンド司令官のBrad Webb大将は、「学生中心の教育法」の説明に際し、この「immersive technologies:没入技術」と「必要な情報への早期アクセス」を鍵として、同コマンドでは米空軍教育法改革を検討していると語っている
●最終的に初級操縦課程の実験的新カリキュラムは固まっていないが、Wills少将は「パイロットを、如何に効率的に早期に育成するかが課題であり、その背景には操縦者不足がある」、「基本的に操縦教育課程は50年以上変わっていないが、航空機や作戦運用コンセプトが変化する中、パイロット育成法も変化しなければならない部分があるはずだ」と述べ、新たな取り組みの重要性を強調した
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パイロット不足への取り組みに関しては、末尾の過去記事に細部があるように、様々な対策が試みられており、「身長基準の緩和」などの対策まで含めた試行錯誤が続いています。「幕僚勤務なきキャリアパス制度」の話が出た際は、組織全体を考えない「運転手的な操縦者の出現」を危惧し、「世も末」と米空軍の状況を心配しましたが、さすがに踏みとどまってくれました

F-22hardturn.jpgただ大きな流れで見れば、「軍隊と一般社会の遊離」の問題であり、特に西側社会では非常に厳しい戦いが続くでしょう。特に最近のリベラル思想というか、左翼思想の広がりで、軍隊への人気は下がる一方でしょうから

ミクロで見れば、パイロットの代表格である戦闘機パイロットの魅力低下が大きなマイナス要因です。戦闘機乗りが夢見る空中戦は、ベトナム戦争を最後に戦いの中の偶発的事象となり、前線での戦闘機の役割がなくなりつつあるのが明らかで、この人気低下に拍車をかけています

先日の米空軍協会主催の航空戦シンポジウムで、SpaceXのイーロン・マスクCEOが、「戦闘機の時代は終わった」と真正面から語り、米空軍戦闘機パイロット族のリーダー格であるACC司令官Holmes大将も、特に太平洋戦域で、従来型戦闘機のニーズはないかもしれないと語っていたくらいですから・・

ACC司令官がついに言及
「従来戦闘機のニーズは必ずしも生まれない」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-28
輸送コマンドで驚きのキャリアパス試行
「世も末:幕僚勤務無し管理検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-09-20
米空軍パイロット不足関連
「5年連続養成目標数を未達成」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-19
「採用の身長基準を緩和」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-18
「操縦者不足緩和?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-12
「操縦者養成3割増に向けて」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-21-1
「下士官パイロットは考えず」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-19-3
「F-35操縦者養成部隊の苦悩」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12-3
「下士官パイロット任務拡大?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-22
「仮想敵機部隊も民間委託へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-09-1
「さらに深刻化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-10

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