約3兆円を伝統アセットから連接性へ
Wargameを経て連接性重視が効果大と確信
軍種間の予算シェア論争には加わらず
27日、シンクタンクCNASのイベントでGoldfein米空軍参謀総長は、2021年度予算案取りまとめに当たってエスパー国防長官とも相談して決めた4つの重視テーマを説明し、特に就任以来強調してきた「統合の連接性・データ共有の迅速性、指揮統制の円滑化」予算に、伝統的な空軍アセット予算を犠牲にして資源を投入する決定を行ったと語りました
同参謀総長は、徹底的なシュミレーションwargamesとその分析の結果、伝統席な航空アセットを増強するより、連接性を高めたほうが効果的だとの結論に至ったと語り、「2030年を想定したWargameで「連接性」を改善することで、やっと機能するようになった」、「勝つことが出来た」と語って予算案の方向性の正当性を説明し、更に連接性以外の3つのポイントにも触れています
2021年度予算案の4つの重視テーマとは
—Inter-service connectivity for “the joint fight.”
—Investment in space operational capability
—Investment in stand-in and standoff capabilities
—Investment in logistics
聴衆のメディアからは、最近米海軍トップが行った「陸海空軍の予算シェアを見直すべき」、「海軍はかつて38%だっと」等の発言や、これを受け陸軍長官が「米陸軍は24%程度しかない」「地域コマンドから最も要求が多いのは陸軍戦力だ」等と語った件について質問があったようですが、「その議論には加わらない」と大人の対応を見せ、大きな考え方について国防長官の了解を得ていると述べるに留めています
27日付米空軍協会web記事によれば
●27日、CNASの「fireside chat」で空軍参謀総長は、当日の朝にエスパー長官と「素晴らしい会談」をして2021年度予算案の方向性について同意を得たと述べ、米空軍予算案の方向について4つの重視事項を示して説明した
●まず同参謀総長は、現在と近未来のリスクは甘受する覚悟で航空アセット予算から約3兆円を捻出し、将来の戦いにおける勝利に大きく貢献する軍種内及び軍種間の連接性向上に投資することにしたと説明した
●そしてそのような結論に至った過程で、徹底的にwargamesをやって分析を行い、センサーとシューターの連接を、米空軍内だけでなく統合レベルで改善することが、多くのプラットフォームを購入する事よりも寄与度が高いとの結論に至ったと述べた
●同参謀総長は具体的に、「強度の強い厳しい環境でのwargamesを長くやっておらず、最近再開した結果は良くなかった」、「しかし2030年想定で、米空軍が提案する連接性改善を行った米軍で戦ったところ、我々は勝利した。我々の提案が機能したのだ」とwargamesについて語った
●米空軍の提案した伝統的アセットの「犠牲」部分については、国防省やホワイトハウスからの押し戻しによって多少妥協したが、ほぼ原案通りだと同大将は説明した
●他の3つの重視事項についても同参謀総長は触れ、宇宙について、「宇宙で互いに戦った場合、勝者はなく、双方が大きな損失を被る」とwargamesの分析に触れ、「宇宙で米国を攻撃した場合、相手も大きな被害を受けることを知らしめ、相手を抑止しなければならない」、「級数的に新たな宇宙防御力を増やし、巨大で撃たれ強い宇宙ネットワークを構築して、相手の攻撃を難しく効果を低下させる」と予算施策の方向性を説明した
●またwargamesの結果、現状の突破型やスタンドオフ型のアプローチが良く機能しなかったことから、「stand-in and standoff capabilities」を強化する投資を盛り込んだと説明した
●4つ目の「兵站:logistics」に関しては、米軍のリーダたち皆が「我々にアクセスの自由はもはや存在しない」点で意識を共有していると述べ、2021年度予算では「兵站能力強化とその防御確保」を重視すると述べ、「勝利するために移動することを目的とする」事をスローガンに、米空軍は戦線への移動に際し「足跡を消す:less footprint」方向を目指すと表現した
軍種間の「縄張り争い」に関する質問に答え
●米海軍人トップと陸軍長官の間で行われた軍種別予算シェアに関する発言の応酬については、誰かの発言に応酬を繰り返すのは時間の無駄だと語り、「そのような中には加わらない」とコメントするにとどめた
●また、米陸軍が超超音速兵器開発について、「米陸軍は、(現在は米空軍の専従任務である)航空阻止やSEADや敵地深くへの攻撃も可能になるだろう」と表明したことに関しては、「軍種間の役割を定めた1948 Key West agreementを議論することにはやぶさかではないが、予算議論に結びつけない範囲でだ」とコメントし、
●予算内で可能なら重要な任務兵器が重複することは悪くない、と述べる一方で、発見・識別・追尾・撃破の流れの中で、撃破部分だけ議論されるのは不適切だと述べ、更に陸軍の長射程攻撃力がB-21爆撃機の調達削減に可能性については、核抑止やNPRの観点から影響は受けないとコメントした
●宇宙軍との関係については、結婚か離婚かと問われることがあるが、空軍と宇宙軍は信頼と自信によって共存していると述べ、また2つが離れて米軍の任務遂行はできない関係だと言及した。一方で、宇宙軍は成長の余地があり、自身の文化を育てる必要があるとコメントした
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「exhaustive analysis and wargames:徹底的なwargamesとその分析」の結果、次世代制空機(PCA、第6世代戦闘機というと怒られます!)はどの様な扱いになったのでしょうか?
昨年11月、米空軍の戦略計画部長が次世代制空機NGAD検討は急がない(急げない)と講演していましたが、参謀総長の強い思いが背景にあったものと考えられます
日本では、自衛隊出身の国会議員も旗を振って、「日の丸戦闘機再び!」と叫びながらF-2戦闘機の後継議論が行われていますが、どのように日本の軍事環境を分析し、戦闘機の役割を位置付けているのかも良くわからない中で、とっても心配です
Goldfein米空軍参謀総長が、様々な抵抗勢力を抑えつつ、自らの信念を貫き、伝統的アセット(恐らく戦闘機や爆撃機)予算を削減してまで、統合運用に資する連接性を追求している真摯な姿を目にすると、足元がとっても寒く感じる今日この頃です・・・
迷走(?)又は意思決定先延ばしの次期制空機PCA
「次期制空機検討は急がない、急げない」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-19
「米空軍が次期戦闘機検討でギャンブル」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-05
空軍参謀総長の信念とRoper次官補の行動力で推進中
「初の統合「連接」実験演習は大成功」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-23
「空軍資源再配分の焦点は連接性」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-08
「マルチドメイン指揮統制MDC2に必要なのは?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-24
米陸軍の目指す長距離攻撃能力
「射程1000nmの砲開発」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-26-1
「射程1000nm砲の第一関門」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-15
2021年度予算案を巡りドロドロの争いの予感
「米海軍トップが予算シェア見直し訴え、陸軍長官が反発」
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-16
日本を含む西太平洋地域の現実
「西太平洋の基地防御は困難」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-23
「欺まんで中国軍を騙せ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-21
「嘉手納基地で防空・航空機避難訓練」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-15