11月21日、米空軍研究所AFRLを所掌する米空軍Materiel Command司令官Arnold Bunch大将が記者団との朝食会で講演し、今年4月に発表された米空軍の「new science and technology strategy:新科学技術戦略」で明らかにされた、同戦略の柱の一つである「先進的で前衛的な道を切り開く新しい研究開発プログラム(vanguard programs)」として、3つの分野を選定したと語りました
この「vanguard programs」は、米空軍研究所AFRLの資源配分を再整理し、全体の2割のAFRL資源を投入し、AFRLの知恵を組織横断的に抽出して短期間に成果を得ようとする試みです
選ばれた3つの分野は、「無人機ウイングマン機:Skyborg wingman drone」、 「兵器の群れ行動制御:a weapon swarming project」、「新型GPS技術研究衛星:an experimental satellite effort(NTS-3)」で、デモ試験を来年から始める勢いの分野もあるようです。
22日付米空軍協会web記事によれば
●Materiel Command司令官Arnold Bunch大将は、選ばれた3分野には近い将来のプロトタイプ試験や実験を確実に前進させるための資金が確保され、「それら過程を経て装備化されることを米空軍が予期したものである」と説明し、
●また「将来のgame changersとして、米空軍の戦い方や作戦を大きく革新すると我々が信じる分野である」と表現した。選定は、米空軍研究所と米空軍の将来戦検討部署で候補を絞り込み、米空軍首脳の了解を得る流れで行い、今年の秋に決定したと説明した
選ばれた3つの分野の概要
SKYBORG
●有人の戦闘機や他の航空機に随伴し、戦闘空域でISRや攻撃を行う無人機で、人工知能AIを搭載した機体が自身で状況を判断して任務を遂行するイメージ
●9月にWilliam Cooley空軍研究所AFRL所長は、Kratos社のXQ-58A ValkyrieがSKYBORG候補の一つだが、他にも候補が存在すると説明している
GOLDEN HORDE
●6月に米空軍報道官が、Eglin空軍基地の兵器専門家たちが、敵を混乱させるために既存の兵器を群れとして使用する「自立制御:autonomy」の検討していると紹介していたが、あくまで人が事前に指定した目標群にのみ対処する「交戦規程を徹底させたセミ自立」を狙うものである
●AFRL報道官は「ネットワーク化され、共同して機能し、セミ自立な兵器が、敵をリアルタイムで把握して対応し、敵の反応に応じて最大の効果を発揮して任務遂行を可能にする」と群れ制御技術(GOLDEN HORDE)を説明した
●そして「我の状況の変化にも柔軟に対応し、例えば共に作戦予定の他編隊の離陸が遅れた場合、互いにネットワーク上で連携を取り、先行編隊が遅れた編隊を待って同時攻撃を作為する等の自律的な行動も期待できる」とも説明した
●また「攻撃プランが機能しないと判断した場合は、事前リストの中から次善の目標を捜索し、最善の兵器を再選択し、行動ルートを変更して任務を遂行する」ような可能性も説明した
●AFRL報道官は補足して、「GOLDEN HORDEのデモ試験時には、装備化された際に前線で使用するであろう部隊兵士の参加を得て、現場の要望や運用思想に沿った形に技術が成熟するような配慮を重視する」と述べ、「この技術は航空アセットだけでなく、地上や水中装備の群れにも応用可能なものとなる」と説明した
●2020年の夏には「巡航ミサイルの群れ」の初度試験を予定し、2021年夏には他の兵器も組み合わせた試験を狙っている
NTS-3
●NTS-3(Navigation Technology Satellite 3)は、米軍の作戦運用から社会生活全般を支える重要アセットとなっているGPSシステムを、より各種妨害に強いシステムにするための衛星搭載技術研究である
●静止軌道に打ち上げられた衛星によって、地球の特定エリアに継続的で一定な「PNT:positioning, navigation, and timing」サービスを提供し、アンテナ制御によって妨害に強い仕組みを実現する狙いを持っている
●以前の報道によれば、2020年代初めに最初のNTS-3衛星を打ち上げ、最終的には9個の衛星で米空軍にサービスを提供する計画である
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William Cooley空軍研究所AFRL所長(空軍少将)は、別の重要な側面として、PEO(program executive officer)を指名して調達戦略にも早期から関与させ、装備化段階になって「ちゃぶ台返し」が起きないように意志疎通を図っていくと強調しています。
この「vanguards」推進は、あくまでも米空軍研究所の資源の重点投資ですが、米空軍全体の意思決定として選ばれた分野であり、米空軍の将来の戦い方(2030年代)を支える重要分野と考えてよいでしょう。
NGAD(次世代制空)の話でも、資源の優先配分とか、似たような議論になっていましたから、NGAD関連の記事と併せてご確認ください
同戦略発表から5ヶ月たっても重点分野が決まらずモヤモヤしていた9月末の記事
恐らくお金がなくて重点分野を絞らざるを得なかったのでしょう・・・
「5か月経過も米空軍の先進集中開発項目(vanguard)未定」
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-30
迷走?米空軍の次世代制空NGAD検討
「米空軍が次期戦闘機検討でギャンブル」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-05
「戦闘機族のボスがNGAD予算を危惧」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-21
「PCA価格はF-35の3倍?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-15
「秋に戦闘機ロードマップを」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-22
「PCA検討状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-12
「次期制空機検討は2017年が山!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-12
「次世代制空機PCAの検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08
「CSBAの将来制空機レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-15-2
「NG社の第6世代機論点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-17
「F-35にアムラーム追加搭載検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-28
欧州の戦闘機関連話題
「英戦闘機開発にイタリアも参加へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-11
「独仏中心に欧州連合で第6世代機開発」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-07-2
「独の戦闘機選定:F-35除外も核任務の扱いが鍵」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-02-01
「独トーネード90機の後継争い」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-28