1月にまとめたEWレビューを副参謀総長が語る
4月に紹介したACC司令官とは少し異なる切り口で
18日、Stephen Wilson米空軍副参謀総長がDefense-News単独インタビューで、2018年から特別チーム(ECCT:Enterprise Capability Collaboration Team)が1年がかりで取り組み今年1月にまとまった「電子戦レビュー」が示す方向性について語りました。
同レビューの内容については公になっている部分は少なく、今年4月16日に空軍戦闘コマンド(ACC)司令官が講演で内容に触れたところ、記者団から追加情報を求める声が殺到して大騒ぎになりましたが、米空軍側は講演内容以外については答えられないとの姿勢で終始一貫しており、それ以後、追加情報を耳にすることはありませんでした
「電子戦レビュー」は同副参謀総長が2017年に打ち出し、2018年にDavid Gaedecke准将をトップとする前述ECCTを組織して検討させ、2019年1月に結果が米空軍首脳に報告されたもので、米空軍の電子戦取り組みは「あまりにも縦割りで進められ、顕在化している新たな脅威に対応できていない」と厳しく指摘している模様です
米空軍に限らず、末尾添付の電子戦関連記事をご覧いただければわかるように、911以降、米軍が対テロ作戦に20年近く集中し、約20年間にわたり電子戦を片隅に追いやって過ごした結果、今になってロシアや中国の電子戦能力に直面して「米軍全体が呆然と立ちすくんでいる」状態にあります
そんな中での米空軍電子戦レビューに関する貴重なお話ですので、まず4月のACC司令官講演の概要から復習し、後にWilson米空軍副参謀総長インタビューをご紹介します
復習:ACC司令官Holms大将の講演(4月16日)
ECCTが提言した主要な3点や関連事項について説明。提言を実現する具体的な時期や要領等については言及せず
●まず電磁優位確保の責任者を空軍司令部におく
—空軍司令部内に「EMS Superiority Directorate」を設け、将官をトップにつけ、空軍内のEWの優先投資事項を見極めさせる
—担当範囲には、無人デコイのMALD、F-15CやF-15E搭載のEPAWSS電子戦システム、ALQ-131電子自己防御装置、光電赤外線センサーF-35のEOTS、先進スナイパーポッド等々があるが、サイバー攻撃やサイバーモニターシステムが所掌範囲かは不明
●次に、バラバラな電磁優位活動を一つの組織に融合
—米空軍内の電子戦取り組みをまとめるマルチドメイン組織を設置し、ソフト開発などを集約する。本組織は迅速な脅威への対応を実現するため、「machine-to-machine」認知連鎖や適応をリアルタイムで追及し、勝利のため連携した「分散型システム:distributed systems」を敵電子優位システムを撃破するために展開する
●更に、米空軍内の電子線魂を再活性化
—米空軍司令部の電子戦部門長を先頭にして、米空軍全体に電磁優位魂(EMS warrior ethos)を醸成するため、空軍全体を対象とした教育訓練プログラムを構築する。なぜなら情報作戦は電子戦担当者だけでなく米空軍全兵士が関わる戦いだからである
—米空軍のEWに関わっていた者は、10年以上にわたり、米空軍の電子線活動が縦割りで、中露の脅威に対し不適切な状態にあると不満を訴えてきた
●その他、電子専用機で1999年に退役したEF-117のような機体を導入するつもりはないと述べ、「米空軍は今、分散型システム(distributed systems)を追及している」と説明。一方で、突破型の電子攻撃プラットフォームを将来導入する可能性について否定せず、次世代制空のためのシステム検討の中で吟味されると表現
Wilson米空軍副参謀総長インタビュー
●空軍司令部A5/8内に専任「Directorate」設置
—空軍内でバラバラに行われている検討をまとめるため、米空軍司令部A5/8内に専任「Electronic warfare Directorate」設置し、トップにECCTを率いたGaedecke准将をつける
—この新部署は、空軍内メジャーコマンドと他軍種との連携を図り、空軍内と米軍全体のEW事業の整合を図る。装備品の視点だけでなく、各階層に対し今後必要になる膨大な規模と量の教育訓練を統制し、クロスドメイン作戦に欠かせない電磁スペクトラム戦を支配する基礎を確立する
●EWシステムを柔軟ソフト更新対応に変革
—新たなEW脅威が特定されたなら、迅速に対応ソフトウェアーを再プログラムして対応できるようなEWシステムへの更新を推進する。めまぐるしく変化する脅威に対応するハードをここに作成していたのでは敵に対応できないので、迅速なソフト更新で対処可能な体制とシステムを構築する
—認知EW(cognitive EW)の世界に入ろうとしている。AIを搭載したEWシステムで、敵の出方を前線で把握して、前例の無い敵EWにも迅速に柔軟に対応する体制を目指す
●ソフト重視姿勢を多様な取り組みに拡大
—米空軍は上述の「software-centric approach」を拡大して多用なEW計画と連携して推進
—依然として多様な部署の多様な関係者がバラバラにEWに取り組んでおり、これらの相互連携を増すことで大きな改善効果が期待出来る。互いに学んで、より大きな学びを。
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4月のACC司令官講演と重複する部分も多いのですが、少し表現を変えたり、視点を変えて表現する副参謀総長の表現から「電子戦レビュー」を想像していただきましょう。
約20年間、電子戦を真剣に扱ってこなかったとなると、少尉に任官してから大佐に昇進するまで電子戦に真摯に取り組んでこなかったということで、基本的な知識や行動パターンも身に付いていない根本的なレベルの問題です
ですから「教育訓練」を多様な階層レベルで大規模に行う必要があるということです。教える人もいないのが現状かもしれません。
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「電子戦検討の状況は?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-13
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「EA-18Gで空軍の電子戦を担う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-08
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「MALDが作戦可能体制に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-08-29-1
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「東欧中東戦線でのロシア軍電子戦を概観」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-09-1
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