全ての国防長官が挑んで多くが道半ばで頓挫も
大統領選を前にして2021年度予算で可能なのか?
全ての困難を知りつつ、あえて挑む長官に敬意を表し
27日、エスパー国防長官が軍需産業関連団体で講演し、将来の米軍に必要な装備を前線兵士に届けるため、古いコンセプトに基づき続いている事業や装備計画を見直すことに自らが先頭に立って取り組むと明言し、陸軍長官時代に200もの諸計画や装備開発を見直し、より重要な分野に約2兆8000億円を振り向けた手腕を米国防省全体に応用する意気込みを明らかにしました
歴代の国防長官が何らかの形でこのような「レビュー」に取り組み、多くが利害絡みの議員や軍需産業やホワイトハウスなどに阻まれてきた「死屍累々」の茨の道ですが、陸軍長官就任前にレイセオン社のチーフロビイストとして「魑魅魍魎:ちみもうりょう」の世界を知り尽くしたエスパー長官が、「言うは易し、行なうは難し」を知りながら取り組みを決意したその「意気込みと男気」に敬意を表し、ご紹介したいと思います
まぁしかし、エスパー長官の発言に対する軍事メディア記事には、多方面の専門から「極めて難しい」、「忘れたほうが良い」、「関係方面からの激怒や議論紛糾を念頭に」などの悲観的なコメントが並んでいますが、「長いプロセスが必要だろう。でも将来の戦場のために」と語るエスパー国防長官の思いを伝えずにはおれません・・・
28日付Defense-News記事によれば
●27日、エスパー国防長官はSENEDIA会議で講演し、国防省全体で2021年度予算に向けて取り組み始めた各種装備関連プログラム見直しについて、その対象は「fourth estate(約30個存在する国防省は以下の・・Agency)」だけでなく、対中路に備えた将来への投資を阻害している旧態然としたプログラムからの資金抽出も含むものとすると決意を語った
●同長官は「fourth estateを取り掛かりとして、将来技術へ投資する資金を見つけ出す使命を私は帯びている」、「私の使命は、既に将来的な価値を失ってしまっているプログラムを見つけ、ほかの緊要で戦闘能力向上に通じる能力強化へ資金を流れを変えることである」と語った
●米国防省は8月2日に、2021年度予算編成に向け、国家防衛戦略NDSの遂行に向けた業務精査を行うため、国防省全体で取り組む「開発計画プログラム見直し」を指示する文書を臨時副長官名で発出したが、この文書はエスパー長官の強い思いから出された文書だといわれている
●同文書は「どんな改革のアイディアも、細かすぎるとか、大胆すぎるとか、異論がありすぎると言って検討を避けることはない。既存事業の必要性を精査し、その資源配分を見直し、他の必要な分野に振り向け可能な資源を見つけ出すことに焦点を当てる」と目的等を示している
●また同長官は「国防省勤務のプロたちは、次の戦いで勝利を収め、わが国の兵士を無事帰還させることだけに動機付けられている」、「軍需産業界には現存システムの改良による前進を目指す傾向があるが、将来のニーズ対応して適応していく行くことが、軍需産業基盤の強靭さを築く一番の道である」と取り組みの意義を説明した
●エスパー長官は、陸軍長官時代に200もの諸計画を見直し、約2.8兆円の予算を他の優先度の高い事業に振り向ける方向性を打ち出したが、その際、陸軍省内で夜遅くまで関係者を集めて「night court」と呼ばれた検討会を重ねたことで知られている。
●記者団から、今回の見直しは大規模な「night court」と呼んでよいかと問われた長官は、「皆さんがそう呼びたいのなら、私はかまわないよ」と答え、「見直しは長い道のりになる。私は今、毎週90~120分間を本件の公式な会議に当てており、これを繰り返し続けて道を切り開きたい」と決意を語った
米メディアはこの長官の意欲を斜に構えて報じ
複数の専門家の意見を紹介
●エスパー氏が陸軍長官時代に方向性を決めたはずの見直しも、既に議会の抵抗にあっている。例えばCH-47ヘリの能力向上計画の停止を陸軍は決断したが、2020年度予算の議会審議の過程で、フィラデルフィア工場の雇用削減が地元議員を反対工作に走らせ、下院は陸軍が不要と考える予算計上の方向に動いている
●大統領選を控え、政権の誰もが軍事プログラムを中断して有権者の支持を失うようなことをしたくないし、有意義な「見直し」を遂行したなら、大統領選挙後まで待つ必要がある
●エスパー長官は、細かな削減・再配分による些細な効率化には成功するかもしれないが、仮に主要な兵器計画の中断や、基地の閉鎖や、利権の排除を長官が望んでいるなら、諦めたほうが良いと思う。企業側は自社関連のプロジェクト中止の動きが見えたら、すぐに議員を動かして阻止に動き出すからである
●「fourth estate」関連の見直しは既にかなりの部分で手をつけられており、今から合理化や経費削減に結び付けられる範囲は限定的ではないか
●大統領選挙の結果にもよるが、2021年はエスパー長官にとって大きな決断をする最後で最高のチャンスとなる可能性はある。当時のゲーツ国防長官はF-22生産を中止させることに成功したが、ロッキードに対してはF-35計画を守るためだと説明し、早い段階からその考えを共有することでその道を開いており、参考になるかもしれない
●(強引な手法だが、)当時のラムズフェルド国防長官がコスト削減のため基地の再編閉鎖に成功した際は、関連法案に賛成しなければ、何の基地閉鎖準備や対策を行なうことなしに、一方的に基地閉鎖を行なうと議員達を脅して強行した経緯がある
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マティス国防長官という大きな存在が去った後で、Shanahan氏のゴタゴタがあり、エスパー氏にとっては突然舞い込んできたような国防長官のポストです。
それでもそれが運命なんだと受け止め、最善を尽くそうとするその姿勢に頭が下がる思いです
ふと、2015年3月に当時のデンプシー統合参謀本部議長が母港の高校生に語った言葉を思い出しました
●歴史や時代の流れが、人を見つけ使命を与えるのだと思います(history will find a person)
●もし君たちが、自身の人生設計を自分のものとして、何者にも影響を受けずに実行していけると考えていたなら、それは冗談にもならない間違いです
●歴史や時代の流れが人を見つけ使命を与えるのだから、君たちや君たちの家族や国家の代わりにそれを与えるのだから、君たちは備えていなければなりません
●「Keep the doors open. Don’t do anything stupid to close them」—常に扉を開けておきなさい。それを閉ざすような馬鹿なことをしないように
「夢」追求のメッセージだけでなく
→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-21
「Esper長官の略歴」
→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-20