5日、米空軍作戦部長のMark Kelly中将が米空軍協会ミッチェル研究所で講演し、中露の「short of war」や「グレーゾーン」段階での巧みな振る舞いに対応し、米国もアプローチの見直しが必要だと語りました。
また一方で、グレーゾーンから明確な紛争状態に至った場合、今後の紛争は経験したことのない混迷の中で行われることが予期されることから、意思決定にするレベルの情報入手と意思決定伝達のC2能力が極めて重要になると語りました
中国の南シナ海での振る舞いやロシアのクリミア半島での動きを指して、「グレーゾーン対処」の重要性を指摘するのは9月5日の米海軍トップリチャードソン大将と同じアプローチで、(今頃になって)米軍内にもその重要性が浸透してきたようです
今後の戦いの厳しさや混沌(chaos)については、統合参謀本部のCIOも前日4日に、ABMS導入の重要性を訴える立場から説明していますので、若干視点は異なりますが併せてご紹介しておきます
5日付米空軍協会web記事によれば
●同等レベルに「近い」相手との競争から、「同等レベル」の相手との争いに備える必要性が生じており、米空軍は訓練、機動展開、戦闘のすべてで対応を再考しなければならなくなっている
●そしてその際、C2能力の維持と、厳しい情報収集環境にあっても意思決定に資する状況把握ができる能力が極めて重要になる
●近年、情報分野は他に比して最大の拡大分野にあり、特に電磁スペクトラムは以上最高に混雑し競争が激しくなるだろう。我々はその中で、級数的な混迷と質の高い情報収集に努めなければならない
●またこのような中露との競争への対応要領を、相手が「short of war」や「グレーゾーン」で増々アグレッシブになる中で、米国は再考しなければならない
●このような脅威に対処するため、米国はより迅速に準備期間無しに対応できなければならず、また本格紛争に発展した際は、現在の単一ドメインC2モデルから、相手が追随できないようなドメイン間を埋めるC2に発展できなければならない
●空軍の作戦センターは海軍や陸軍の作戦センターと結ばれていなくてはならず、縦割り体制は排除しなければならない
●また全てのC2ノードが敵の脅威にさらされると認識のもと強靭で無ければならず、被害発生時は相互に補完できなければならない。相手は米軍がどれほどC2に依存しているか把握しているのだから
4日付記事:脆弱なJSTARSがなくてもネットワークで
4日、米統合参謀本部のCIO(chief information officer)であるBradford Shwedo空軍中将が、AFCEA(軍用通信電子協会)で講演し、1991年の湾岸戦争で活躍したJSTARSのような脆弱なアセットは将来の脅威下では期待できないため、複数の情報ソースをネットワークで結んで運用するABMS(Advanced Battlefield Management System)で残存性を高めると語りました
●同中将は、「米空軍の情報組織である第25空軍のように、NSAなど他の情報機関と継続的にevil chat roomsでコミュニケーションを取るアプローチを想定している」と説明し、また「子供たちがネットを通じて世界中の相手とゲームを楽しんでいるように」リアルタイムのネットワークで目標情報を識別追尾したいと表現した
●そして、「例えば悪者が無人機カメラによる光学偵察を恐れて偽装網で覆った隠れ家に逃げ込むかもしれないが、全てのドメインの偵察から逃げられるとは限らない。電磁波信号や他の手法からのデータを融合していれば、悪者の発見率や致死率はより高くなるだろう」と説明した
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「short of war」や「グレーゾーン」の重要性を語る部分と、被害状況下の混迷環境を乗り切るC2や状況把握能力の必要性を訴える部分の関係がよくわからないのですが、従来から危機感のある中露との本格紛争に向けた備えの必要性に、グレーゾーンへの備えの必要性が新たに積みあがったと解釈しておきましょう
そして2つの異なったレベルの争いに対し、シームレスで対応できなければならないとの主張と理解しておきましょう
「米海軍トップ:グレーゾーンに備えよ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-11
被害状況下への備えを訴える
「妨害に強い衛星通信」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-12
「海兵隊司令官:被害に備えよ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-16
「米海軍将軍:妨害対処を徹底する」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-21
「空軍OBも被害対処を重視」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-23-1
「被害状況下で訓練を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-23