26日、米国の貿易問題を裁定する独立機関ITC(International Trade Commission)が、カナダの航空機製造企業をダンピングで訴えていたボーイングの申し立てを満場一致で「却下」し、併せてボーイングを支持してダンピング課税292%を命じた米商務省決定の執行停止を命じました
本件は、カナダの航空機企業Bombardierが政府補助金を受け、不当な低価格で米デルタ航空に中型旅客機CS100を75機売却したとボーイングが訴えたものですが、ボーイングがCS100クラスの旅客機を販売しておらず競合関係にないことから、トランプ大統領の保護主義姿勢を示す典型的事例として話題になっていた案件です。
また、当該カナダ機が英国内(アイルランド)の工場で製造されていたことから、英国首相も米国に課徴金見直しを働きかけるなど、トランプ保護主義の象徴として国際的な反対運動に繋がり、欧州企業エアバス社がBombardier社のCS100部門を配下に置き、エアバス社の米国内工場で製造して課徴金を免れる「ウルトラC」対抗策まで打ち出していました
更にボーイングの訴えを契機に、ボーイング製FA-18購入を検討していたカナダ政府が検討見直しを公言し、中古のFA-18を豪州かの購入を検討すると打ち上げ、一枚岩の同盟関係だった米カナダ関係の泥沼化を招いていました
そんなこんな中で、ITCによる「4-0」満場一致裁定ですので、興味本位でご紹介しておきます
26日付Defense-News記事によれば
●26日のITC裁定を受け、Bombardier社は直ちに、「法治制度、競争、革新における勝利である」とのコメントを発表した。
●CS100機購入を予定していたデルタ航空も、「ITCの裁定を喜びを持って受け止めている。この裁定は、米航空会社と米国民による素晴らしいCS100旅客機へのアクセスを妨げようとした、ボーイングの反競争主義を拒絶したものである」とコメントを出している
●一方のボーイング社は、「落胆している」とし、「不正な補助金とダンピング価格」から受ける被害を今後とも取りまとめていくと声明を出した
●ただし約150名乗りのCS100旅客機の競合機種をボーイング社は製造しておらず、何の影響も受けないはずだとデルタ航空は主張している
●ちなみに昨年10月、Bombardier社はCS100シリーズ計画の株式をエアバス社に提供し、関連本部機能はモントリオールに残しながら、第2の製造ラインをアラバマ州モービルにあるエアバス社の工場に設置する(これで米国内生産にして課徴金を逃れる)事にしていた
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トランプ大統領就任後、米カナダ関係はNAFTA(北米貿易協定)や木材輸入を巡って悪化し、旅客機ダンピング認定問題が「火に油」だったのですが、先日のダボス会議におけるTPP復帰を示唆するトランプ発言以降、バノン氏がホワイトハウスを出てから風向きの変化が・・・との見方もあります
ITCによる裁定が最終決定なのか、まだまだボーイングが粘って泥沼が続くのか不明で、カナダのFA-18購入もどうなるのか関連も不明ですが、トランプ保護主義の今後も含め興味深いところです
FA-18に関しては、F-35に対する疑念から「時間稼ぎのために」購入検討を開始した経緯がありますので、F-35の泥沼がある限りどうしようもありませんが・・・
米国とカナダの航空戦争
「カナダが中古の豪州FA-18購入へ!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-10
「米加の航空機貿易戦争に英が参戦」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-09-16-1
「第2弾:米カナダ防衛貿易戦争」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-04
「5月18日が開戦日!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-20
「痛快:カナダがF-35購入5年延期」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-23