4日付Defense-Newsがイスラエル支局長執筆の記事を掲載し、米国が中東でのイスラエル軍事力優位を維持するために拒んできた、イスラエル以外へのF-35売却につながるF-35能力等の説明をUAEに対して行う方向に変化しつつあると報じています
あくまでも米国が拒んできた、2011年からUAEが要請しているF-35ブリーフィングの実施について検討することに合意した程度の段階ですが、イスラエル人支局長の記事はUAEに好意的な視点で書かれており、対ISISで米国に協力し、米軍戦力の常駐を受け入れているUAEをはじめとする中東産油国に冷たくすると、ロシアや中国製兵器に市場を奪われるよ・・・と助言するような内容になっています
またイスラエルの軍事技術優位維持政策に関しても、イランの脅威がイスラエルや湾岸産油国共通の脅威となりつつある中、再考を促すようなニュアンスも感じられる記事となっています
仮にこれから前向きに話が進んでも、UAEにF-35が渡るのは10年後だと言うことですので、イスラエルへの義理は十分に果たしたことになるでしょうから、対イランにF-35がUAEに行くのかもしれません
4日付Defense-News記事によれば
●まだ最終的な決定はなされていないが、F-35売却に向けた重要な第一歩である非公開情報を含むUAEへのブリーフィングを検討することになり、オバマ政権が固執したイスラエルの軍事技術優位維持政策からの変化を示唆するものとなりそうだ
●トランプ政権も米議会が命じるイスラエル軍事技術優位施策の堅持を主張しているが、5月に明らかになった米UAEの国防協力合意では、今後15年間にわたり両国の関係強化を進める意向も示されていたところである
●匿名の前米国防省幹部は「イエスと言ったわけではないが、事態が落ち着いてくれば、その方向に向かうだろう」と述べ、サウジ・UAE・バーレーンらがカタールと外交断絶して地域情勢が複雑化しているが、これが落ち着けば対イランに向けたトランプ新戦略が動くだろうと語った
●特にUAEは、1992年の湾岸戦争から米主導多国籍軍に参加し、同国内に数千人の米軍人を駐留させ、米空軍第380派遣航空団を受け入れている国である
●まずUAEは、サウジのようにイスラエルと国境線で接することがなく、またUAE空軍はイスラエル空軍が参加する多国間演習に参加し、最近では3月にギリシャで行われた演習や米ネバダ州でのRed Flag演習にも参加している
●例えUAEにF-35提供で合意したとしても、UAEに機体を手渡すまでの時間を考えれば、イスラエルは10年間以上は中東でF-35を独占することができる。
●イスラエル国防省はコメントを避けたが、個人的に関係者は、当初UAEに限定し、他の湾岸諸国に広く提供するようなことがなければ、イスラエルが反対するとは考えにくいと語ってくれた
複数の研究者の見方
●ワシントンDCのユダヤ系シンクタンク研究者も、「UAE同盟国でもないし友人でもないが、UAEがF-35でイスラエルを攻撃する事態を恐れることは、あまりにも非現実的だ」と語っている
●また米UAE関係の研究機関研究者は、「UAEは米国の姿勢に欲求不満を示している。米国はイスラエル対アラブ諸国の構図で見ているが、UAEはイスラエルをそのようには見ていない。だからイスラエル技術優位を基礎とした米国の判断を理解できない」と語っている
●米UAE国防協力合意について同研究者は、米国は長期にわたっているUAEとのパートナー関係のメリットを熟慮し、この合意をF-35や他の最新兵器だけでなく、共同開発や特殊部隊協力などに発展させるべきと主張している。ちなみにUAEは、米国FMSの最大の対象国の一つである
●そして「UAEは単に安全保障に関するカスタマーではなく、湾岸地域や広く中東全域の安全保障のプロバイダーであることを考慮すべきである」と訴えている
●仮に米国が従来の制約を課すのであれば、今年年初にUAEがロシアとMig-29ベースの第5世代機開発に合意し、Su-35購入にも関心を示したように、また米国が攻撃型無人機を売却してくれない中、中国製無人機を購入したような方向に向かうと、米UAE関係の同研究者は警告している
●しかし同時に同研究者は、UAEは依然として米国製兵器を望んでおり、その訓練や維持支援を希望していると強調している
●別の研究者は、サウジが米国主導の軍事演習にイスラエルとともに参加することが公になれば、サウジのイスラエルへの懸念を払しょくできるかもしれにと述べており、「そうすることでサウジへのF-35輸出の道が開けることにつながる」と見ている
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繰り返しになりますが、この記事が、Defense-NewsのBarbara Opall-Rome というイスラエル支局長によって書かれた記事であることに注目です。イスラエル側からこのような見方が提示されることが目を引きます
同女性支局長は1988年から米イスラエル関係をフォローしているベテランで、対イランに向かう中東の雰囲気を察しているのでしょう。
対ISIS後を中東の行く末を見据え、どこに精力を注ぐべきか、対ロシアを含め米国はどの方面に力を入れるべきかを示唆した記事と言えましょう
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