20日シンクタンクCAPが、米国防省が現在行っている「NPR:核態勢見直し」に関する討論会を行い、基調講演を行った下院軍事委員会の中心メンバーである民主党のAdam Smith議員は、戦略無きママ予算だけが増大していく核兵器近代化の現状に警鐘を鳴らしました。
例えば、限られた予算や将来の抑止を考えれば、またサイバー空間や特殊作戦の重要性が増す中、核抑止の3本柱維持が今後も効率的なのか・・・などの論点を提示し、これまでと同様の方向性を持った戦略では、予算面でも、抑止効果面でも、国防任務を果たせないと危機感を訴えました
この講演を伝える報道によれば、この考え方は同議員だけにとどまらず、民主党の上院と下院両方の主張らしく、今後のNPRの論点とも思われますのでご紹介します
21日付米空軍協会web記事によれば
●上院と下院の民主党議員は、トランプ政権により行われているNPRでの全核戦力の更新や近代化に対し、こぞって懸念を表明した
●20日、CAP(Center for American Progress)で講演したAdam Smith下院議員は、このまま行けば国防費は、2018年度予算案の70兆5000億円から、 軽々と年間100兆円を超えるだろうと警鐘を鳴らした
●そして同議員は、核兵器近代化の最大の課題を、戦略の欠如、と表現した。そしてこの分野では常に予算不足が叫ばれるが、一方で国防省は何を優先すべきかについて決定できないでいるとも語った
●具体的に同議員は「仮に65兆円規模の国防予算だけ認められても、米国は国家として国家安全保障ニーズを満たす行動をする必要がある」と語った
●国防における効率性を追及するとすれば、核戦力の近代化分野は、最も明確に予算を節約できる分野である。そのためには、より良い抑止戦略を持つ必要があり、そうでないとロシアとの軍拡競争に引き戻されるリスクがあると述べ、
●より焦点を絞った抑止戦力により、核兵器量を削減しつつ、信頼のおける抑止体制を確立できると同議員は語り、個人的には、3本柱がいまだ有効なのか検証が必要だと確信すると説明した
●そして「個人的な意見だが、核抑止の3本柱が今も有効なのか検証する必要があると考えている。本当にICBMは必要なのか?」と付け加えた
●更に同議員は、バランスの取れた抑止戦略の下では、伝統的な軍事分野への予算配分と合わせ、サイバー戦や特殊作戦能力への投資が含まれるだろうし、同盟国等の力を米国の安全保障に活用することも重要だと主張した
●同議員は、抑止戦略や今次のNPRにとって極めて重要なのは、予算規模にフィットしつつ安全保障目的を達成可能な「限定的な核抑止戦略の在り方」だと訴えた(あわせて、民主党としての考え方だと語った。多分)
●一方上院では、22名の共和党議員が連名の書簡を米国政府に出し、NPRでは一般公開可能なバージョンも作成し、また米国の伝統的姿勢である究極的な核兵器廃絶へのコミットメントを明示すべきだと求めた
●更に同書簡では、現在米国が批准している軍備管理の条約をNPRは順守しなければならないと強く求め、更に「新たな核兵器の要求を拒否せよ」「米国は軍備管理と不拡散分野で世界のリーダーであり続けるべきだ」との表現も含まれている
推定される国防省のNPR姿勢
●3月にPaul Selva統合参謀本部副議長は、「核抑止の3本柱全てを近代化することが統合参謀本部の最優先課題だ」と語り、その理由を「米国の存亡にかかわる唯一の脅威が核兵器だから」と説明している
●また6月には John Hyten 米戦略軍司令官が議会で、「核抑止3本柱の近代化を、どの分野であれ遅らせてはならない。近代化を遅らせれば、他国との競争についていけないと懸念している」と証言している
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前オバマ政権に代表される米国民主党の典型的な考え方ですが、現在のトランプ政権のドタバタ具合からすれば、共和党政権内にも民主党の考え方に似たスタンスの議員は、相当数存在すると推定いたします
老朽化著しい核兵器や関連施設の更新や近代化には、ざっくり「130兆円」が必要と言われているようですから、一言いいたくなるのは当然でしょう・・・
重要だと思うのは、このブログでも繰り返しご紹介してきましたが、サイバーや宇宙など新たなドメインが、一般国民を巻き込んで影響力が大きく、匿名性があり、いつどこから攻撃を受けたか迅速な特定が困難な特性を持ち、核兵器による抑止が有効なのか?・・・という点です。
更に、このサイバーや宇宙や特殊作戦を絡めて、限られた予算内で、どのような国家としての抑止戦略を持ち、その中で核抑止を位置づけ、NPRで表現するかということです。
日本では未だに議論をする環境が整わない分野ですので、米国の議論動向で今後もお勉強いたしましょう
21世紀の抑止概念を目指す
「米戦略軍も新たな抑止議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-11
「21世紀の抑止と第3の相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-03
「相殺戦略特集イベント」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-29-1
「期限を過ぎてもサイバー戦略発表なし」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-25
NPR(核態勢見直し)関連
「マティス長官がNPRに言及」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-15-1
「トランプ政権NPRの課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
「2010年NPR発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-07
「NPR発表3回目の延期」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-02
「バイデンが大幅核削減を公言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-19
米新政権の国防予算を考える
「規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
ロシアのINF条約破り
「露を条約に戻すためには・・」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-20
「ハリス司令官がINF条約破棄要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-29
「露がINF破りミサイル欧州配備」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15
「ロシア巡航ミサイルへの防御なし」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-06
戦術核兵器とF-35記事など
「戦術核改修に1兆円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-20
「F-35戦術核不要論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-16
「欧州はF-35核搭載型を強く要望」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-22
「F-35核搭載は2020年代半ば」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-23-1
「F-35は戦術核を搭載するか?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06
ICBM後継に関する記事
「初のオーバーホールICBM基地」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-15
「ICBM経費見積もりで相違」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-26
「移動式ICBMは高価で除外」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-16
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
オハイオ級SSBNの後継艦計画関連
「次期SSBNの要求固まる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-2
「オハイオ級SSBNの後継構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25-1
「SLBMは延命の方向」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13
「RAND:中国の核兵器戦略に変化の兆し」
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-19
三浦瑠璃女史の北朝鮮と核持ち込み
→http://lullymiura.hatenadiary.jp/entry/2017/04/24/000359