2日、米空軍協会機関誌が6月30日に32年間の勤務を終えて退官する米空軍次官Lisa Disbrow女史へのインタビューを行い、様々な側面から米空軍の現状と課題に迫っています。
Disbrow次官は、22年間の空軍士官勤務を大佐で終え、その後国防省や空軍省勤務を経て、今年1月からはHeather Wilson空軍長官が議会承認されるまで臨時空軍長官を務めていました
様々な視点から語っていますが、弾薬不足、F-35調達、宇宙ドメイン対処の視点から本日はご紹介します
弾薬の全力調達は数年続く
●対ISIS作戦による精密誘導兵器や弾薬の大量消費により弾薬備蓄量が大幅に減少しており、米空軍は、2018年度予算案に弾薬調達予算の大幅な増加を盛り込んだ。しかしこれは弾薬大量調達の始まりに過ぎない。いつまで継続するかは「国防戦略見直し」等の結果を待つことになる。
●現在米空軍は、精密誘導兵器の製造企業に最大限の弾薬製造と供給を依頼しているが、備蓄量を回復しするまで数年間続く大量発注の始まりに過ぎない
●各種の精密誘導兵器等全般の消費量や備蓄量を見ながら、また企業の製造能力や部品や原料調達能力を把握しつつ、企業と共にどうすれば最善な生産ができるかを継続検討している
●今現在の戦いだけでなく、今後5年から10年先を見つめつつ、どのような将来紛争ニーズがあり、現在の消費がいつまで続くかも推定しながら製造優先順位や資源配分を考えている。いつまで最大製造態勢が継続するかは分からない
F-35調達ペースが上がらない
●2018年度予算案でF-35が46機しか要求されていないことが話題となっているが、これは装備近代化と、現在の体制維持や人的戦力確保の間の予算バランスから総合的に判断したものだ
●年間60機調達ペースにする必要性は十分理解しているが、現状での限界である。(注:予算枠のため漏れた重要項目リストに、米空軍は14機のF-35を含めている)
●調達ペースを上げることは単純ではなく、入手にリードタイムが必要な部品や製造能力の限界もある。(実際、前国防省F-35室長Bogdan中将は、製造ペースアップの最大の障害は、部品製造企業の生産能力だと語っていた)
●言うまでもなく予算管理法による強制削減の恐れや歳出規制枠が、将来予算見通しを困難にしていることも大きな障害だ。米空軍の総調達機数1763機に変更がなく、同時に調達ができないことから、国防省全体でF-35製造については議論すべきだ。
宇宙ドメインを空軍から切り離す議会議論に関し
●宇宙アセットの要求や調達を迅速化するため、議会が宇宙ドメインを空軍から切り離すアイディアを持っていることは承知しており、その検討をすることに異議はないが、今は組織よりも能力ギャップを埋めることに集中すべきだ
●敵対国の宇宙能力強化は、米国より早く進んでおり、能力ギャップを埋めることが喫緊の課題である。特に宇宙状況把握(space situational awareness)の能力強化が重要分野の一つである
●2017年度の予算法で議会から求められている宇宙政策ガバナンスに関する報告書に引き続き取り組んでおり、国防省や米空軍に対する議会からの宇宙政策の効率や効果に関する批判も承知しているが、米空軍も緊急調達室の拡充や他の調達プロセス改善に取り組んでいる。
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他にも、航空宇宙作戦センターのサイバー対策強化事業で「Northrop Grumman」に依頼した長期事業がうまくいっておらず、事業を中断して緊急見直しを開始したことを等を説明しています。
弾薬備蓄量減少の実態は決して表に出ない極秘事項でしょうが、米国が北朝鮮相手に強気に出れない背景に、精密誘導兵器などの弾薬不足も大きなボトルネックになっているのでは・・・と邪推する次第です。
F-35の部品製造がボトルネックなのは以前から明らかで、Bogdan中将も「航空機増産の歴史的限界は年5割増なのに、3倍増の計画になっている」とめちゃくちゃな計画を認めていました
いずれにしても、32年間、お疲れさまでした・・・
関連の記事
「精密誘導爆弾の不足」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-03
「米国の弾薬を当てにするな!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-21-1
「F-35の主要課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17