米国防省予算案:相殺戦略の技術革新予算は確保か

2018 budget.jpg23日、米国政府の2018年度予算案がメディアに公表され、様々な形で報道され始めています。全般には、国務省の海外援助予算が1000億円以上削減されている事が目立つ以外は、国防省予算に関してはオバマ政権時の方針のほぼ延長と捉えられています。
これは予算策定過程が1年以上前から開始されており急な変更が難しいこと、また種々の戦略文書見直しが現在実施中である事から来ています。
また政府予算案に関しては、議会の重鎮:マケイン上院議員(上院軍事委員長)が、議会に提出された以降に大幅な修正を行うと予告し、政府案を「我々の課題への対処に不適切で、現行法制からして違法な部分もアリ、議会に到着次第却下される部分もある」と明言しており、様々な分野で山あり谷ありが予想されています
特に、2011年の予算管理法(BCA:強制削減を規定した法律)が定めた基準額を「$54 billion」も国防省予算案がオーバーし、かつ非国防分野の海外援助予算が大きく削減されている原案は修正必至と言われ、国防費削減と非国防費増額の程度が議会での注目だと専門家は指摘しています
Mattis44.jpg国防予算に関するトピックとしては、帳尻あわせの穴埋めになりがちな弾薬購入予算に関し、対ISIS重視の視点からマティス長官が増額を強く主張して盛り込まれているとメディアが紹介しています。その他、引き続き国防省として基地の再編閉鎖(BLAC)を要求しています。
本日は様々な視点がある中、Work副長官らが前政権時から対中・対露のため精力的に取り組んできた、「第3の相殺戦略」や国防省SCO(戦略能力緊急造成室)関連予算など、研究開発方面の予算の状況を中心にメディア報道からご紹介します。
メディア的には、将来の戦いへの投資より目の前の戦いを優先したとの表現になりますが、暫定的に留任しているWork副長官の努力で、研究開発や民間技術取り込みもそれなりの扱いを受けているようでちょっと安心しました
23日付Defense-News記事によれば
2018 budget2.jpg●2017年度予算と比較し、2.3%の増の「$13.2 billion:約1.5兆円」を、国防省の「RDT&E Science and Technology」に要求している。これには「$2.2 billion」の基礎研究費と、「$3.1 billion」のDARPA予算が含まれている。
技術開発分野では、「semi-autonomous:半自律化」計画が(第3の相殺戦略など)国防省の技術革新を牽引する予算として大勝利を収めている
●Will Roper室長が率いる国防省SCO(戦略能力緊急造成室)の働きを昨年12月にWork副長官が高く評価し、関連予算増を予告していたように、昨年度から約300億円増の「$1.2 billion:1300億円」が要求されている
●国防省によれば、SCOは3つの分野を重視することとなっており、それは「ドメインをまたいで機能発揮するシステム開発」、「有人と無人システムのチーム編制」、「商用の一般技術や設計の迅速取り込み」の3分野である
●シリコンバレーやボストンに設置されている最新技術取り込み出張所(DIUx:Defense Innovation Unit-Experimental)予算も約50億円要求され、来年度はプロトタイプ製造から本格製造にシフトする装備にも着手する
米海軍予算案では
2018 budget3.jpg米海軍トップが訴えていた艦艇数増強(355隻体制)を体現するような予算案とはなっておらず、前政権時代の計画通り年間8隻の建造計画(空母1、攻撃原潜2、イージス艦2、沿岸戦闘艦1、補給艦とサルベージ艦各1)予算案である
●航空機予算は、F-35C型が2機減の4機、海兵隊型B型は計画通り20機、FA-18は14機維持、E-2D早期警戒機は5機。P-8哨戒機は1機増の7機
オスプレイMV-22は6機維持、大型無人海洋哨戒偵察機MQ-4は3機。ただし無人輸送ヘリMQ-8Cは3機の予定からゼロとなり、調達終了となる。海軍用のトマホーク巡航ミサイルは100発、SM-6は125発。
艦艇等運用経費と維持整備修理予算はほぼ横ばい。航空機整備予算は若干のアップ
米空軍予算関連では
2018 budget4.jpg米空軍全体では、本年度の「$171 billion」から「$183 billion」に上昇している。装備品調達経費も、部隊運用と維持整備経費も少し増額されているが、研究開発&試験評価予算が「$20.2 billion」から「$25.4 billion」に大幅増加していることが最も際立っている
●個別事業では次期制空機(PCA:Penetrating Counter Air)検討が、伸びが最も大きな事業で、検討が深化するにつれて「$21 million」から「$295 million」増加している
F-35は昨年計画時より2機増の46機を要求、ICBM迎撃ミサイルのGBSDへの予算も100億円増額B-21次期爆撃機の予算も1.3から$2 billionに増加トランプ大統領が難色を示している大統領専用機「Air Force One」についても昨年から80億円増加の「$434 million」が積まれている
●無人攻撃機MQ-9も16機、空中給油機のKC-46Aは15機、次期練習機T-Xも計画通り。しかし全般に装備品調達は停滞しており、前政権時代からの流れに変化は無い。特に輸送機のC-130Jはゼロである。
●一方でA-10やU-2の全廃案は含まれておらず、同じく早期退役が噂されているF-15Cも引き続きレーダーや電子戦装備の能力向上、更に機体の構造部材の延命措置予算も計上されている
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米陸軍予算案も全体として約8000億円アップの「$166 billion」案となっています。
2018 budget5.jpg冒頭説明の繰り返しになりますが、マケイン議員の「ちゃぶ台返し予告」あり、CSBAのハリソン研究員の「国防費削減と非国防費増額で妥協点を見いだす交渉となる」予想もあり、予算管理法による強制削減枠の話もあり、政府予算案レベルの右肩上がりは当てになりません
トランプ大統領の国防予算6兆円増宣言も、どこへいったのかしら状態です。まだまだこれから様々な分析がメディアや専門家から為されると思いますが、その参考の一つに供します
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「規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
「新政権と相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04
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