50年間放置してきた「付け」に今から対処中
15日付米空軍協会web記事が、1960年代から使用されている米空軍ICBM基地の施設に対し、使用開始から50年を経て初めてオーバーホール修理が開始され、今後8年間かけて全てのICBM発射施設が点検修理されると報じています
修理対象はICBMミサイル自体では無く、発射施設、弾頭保管施設などが対象で、サイロ内のICBMを取り除いてからしっかりと保守整備を行うようです。
また8年かけて一通り修理した後も、8年サイクルで全施設に継続してオーバーホール(PDM:programmed depot maintenance)を行う事にしたそうです
これまでどうしていたのかが気になりますが、どうやら故障箇所が判明すれば修理する方式だったようで、計画的な施設等の維持計画も無く、壊れるまで使う方式だったようです。
一朝有事の際に即応態勢が求められる装備なはずですが、組織全体の関心の低さから、また厳しい予算の中で全てを後回しにされ、放置プレーされていたわけです
8年前にこのブログを開始する直前に、「核爆弾と知らないうちに爆撃機に搭載して米本土を横断しちゃった事件」や「核兵器部品を誤って輸出しちゃった事件」等が連続発生し、米空軍長官と空軍参謀総長が同時更迭される事態となり、核兵器運用部隊への各種てこ入れが始まりました。
米空軍の核兵器運用部隊(ICBMと爆撃機部隊)を一つにまとめて管理監督するため、「GSC:Global Strike Command」を編制したり、ICBMや核兵器運用幹部の人事管理やキャリアパスを見直したり、頻繁に国防省首脳が訪問したりしましたが、「長年誰も顧みず、見捨てられてきた部隊や兵士」で「関連施設は老朽化が激しく、勤務員が士気を保つのが困難なレベル」と空軍首脳が認めるほどの部隊の惨状は、一朝一夕に改善するのが困難なレベルに達していました
「部隊監査時の士官による集団カンニング」や「定期的な技量確認試験時の問題漏洩」などの不祥事がその後も続き、ICBM部隊指揮官が空軍長官に対し面と向かって「ここ数年で多くの高官が部隊を訪れ、この部隊が重要だと言って帰ったが、予算面で何の変化も無い」と痛烈に非難するなど、核兵器運用部隊の荒廃振りは、無人機操縦者コミュニティーの惨状や性的襲撃事案の継続続発と並び、米空軍から統合参謀本部議長が生まれない理由の一つと言われています
そんな中でも米空軍は最近、ICBM発射基地の警備警戒用ヘリ「Huey」の後継機選定作業を開始し、提案要求書をまとめる最終段階にあり、70年代から使用しているICBM「Minuteman III」の後継検討にも最近着手しています
また5月に入って空軍参謀総長とGSC司令官は、今後10年間に亘り、全国防予算の5%を核抑止分野に投資すると明らかにし、核兵器運用部隊を忘れない姿勢を示しています
前置きが長くなりましたが、遅ればせながら50年の空白の後に開始されたICBM施設のオーバーホール修理PDMの様子をご紹介します
15日付米空軍協会web記事によれば
●米空軍Materiel CommandのPawlikowski司令官(女性大将)は、8日の週に3箇所のICBM発射基地を全て訪れ、10日には60年代に運用開始後初めてのオーバーホール修理PDMが終了間近の「Malmstrom空軍基地」を訪問して勤務員を激励した
●同基地の他のICBM発射施設や、ワイオミング州の「F.E. Warren空軍基地」やノースダコタ州の「Minot空軍基地」のICBM発射施設は、今後8年間かけてオーバーホール修理PDMを受ける
●同司令官は、従来は故障発生まで使用するスタイルだったが、米空軍の航空機に使用されているのと同様のオーバーホール修理PDMモデルを、ICBM発射施設にも適用すると説明した。
●一方で現状について、使用開始から40年手つかずの部品も存在し、交換用部品が製造中止で存在しない事態も発生しており、PDM要員が発射施設を訪れて修理するだけで無く、対処要領を検討する必要があると厳しい現状を同司令官は明らかにした
●PDMでは、部隊全体の即応態勢が維持できるように順番に修理対象ICBMサイロを割り当て、ICBMを発射サイロから取り出し、発射施設内部の各部品やケーブルを分解して取り外し、摩耗や腐食を確認しつつ交換する作業が行われる。
●最初のPDM対象サイロでは多くの困難に直面しているが、以降のサイロPDMに向けたノウハウの蓄積や要準備事項のリスト化に役立っており、8年サイクルのPDM全体計画にもフィードバックする事項が明らかになっている
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「今後10年間に亘り、全国防予算の5%を核抑止分野に投資する」とは、両空軍大将が連名で投稿した5月12日付「Politico」で明らかにした事項のようです。
→http://www.politico.com/magazine/story/2017/05/12/why-the-us-is-right-to-invest-in-nuclear-weapons-215132
「5%」が多いのか少ないのか判別不能ですが、以下の関連過去記事で縷々ご紹介してきたように、核兵器の維持管理更新はとってもお金がかかる事業です。
勢いで核武装だ!!!叫ぶ前に、色々考え、お勉強した方が良いと思います。国際社会での負のコストも含め・・・
米軍「核の傘」で内部崩壊
「屋根崩壊:核兵器関連施設の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-23
「核戦力維持に10兆円?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-09
「国防長官が現場視察」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-18
「特別チームで核部隊調査へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-27
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
「米核運用部隊の暗部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-29
NPR(核態勢見直し:Nuclear Posture Review)
「トランプ政権NPRの課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
「2010年NPR発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-07
「NPR発表3回目の延期」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-02
「バイデンが大幅核削減を公言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-19
米新政権の国防予算を考える
「規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
戦術核兵器とF-35記事など
「戦術核改修に1兆円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-20
「F-35戦術核不要論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-16
「欧州はF-35核搭載型を強く要望」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-22
「F-35核搭載は2020年代半ば」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-23-1
「F-35は戦術核を搭載するか?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06
ICBM後継に関する記事
「ICBM経費見積もりで相違」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-26
「移動式ICBMは高価で除外」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-16
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
オハイオ級SSBNの後継艦計画関連
「次期SSBNの要求固まる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-2
「オハイオ級SSBNの後継構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25-1
「SLBMは延命の方向」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13