3月21日、ロッキード社の空母艦載無人機計画担当であるRob Weiss研究開発部長が記者団に対し、同無人機要求性能の詰めを米海軍が行っているが、これまでの海軍とのやりとりから、ISRや攻撃任務に対する優先順位は大きく後退し、空中給油任務に焦点を当てたものになりそうだと語っています
初の空母艦載無人機となる「MQ-25A Stingray」は、当初ステルス性を持って厳しい防空網を突破する攻撃&ISR機とのイメージで基礎研究が開始され、2006年のQDRではUCAS(Combat Aerial Vehicle)と表現され、B-2爆撃機を小型にしたような技術デモ機X-47Bが空母への離発着試験に成功した2013年7月10日は、「歴史の転換点」と報じられたほどでした
しかしその後、予算の制約か職を失う海軍パイロットの抵抗からか、ステルス攻撃機だったはずがISR任務機に変更する話が海軍内で進み、2014年春にはFA-18の代わりに空中給油任務を担わせようとの話が台頭してきます。
米海軍は、中東での酷使によりFA-18の機体疲労が急速に進み、空中給油任務が約3割を占めるFA-18の負担軽減が優先だと説明し、予算的にもISRと攻撃機能の同時追求には耐えられずリスクも高いと主張しました
しかし、この海軍案には中露に危機感を強める議会や国防省高官から強い反対意見が噴出し、2014年7月には海軍RFP(提案要求書)に待ったをかけ、国防長官室OSDを中心に練り直すことになりました。
予算の強制削減と暫定予算が続く中でOSDによる見直し検討は長期間にわたり、残念無念ながら、2016年春には偵察&攻撃機(UCLASS)に空中給油任務を加えたCBARS(Carrier-Based Aerial-Refueling System:空母ベースの空中給油システム)に方向転換になりました
その後、候補となる4つの企業と技術的可能性等について意見交換しながら、企業に示すRFP(提案要求書)を煮詰めてきた米海軍ですが、最後の最後になって、空中給油優先の方向にあるようです。
米海軍は、FA-18酷使や予算等を理由に、いくらでも攻撃&ISR機能後退を言い訳するのでしょうが、その根底にあるのは「操縦の職を奪われたくない」とのパイロット根性にある事は隠せません・・・
21日付米海軍協会web記事によれば
●3月21日、ロッキードのWeiss氏は、米海軍がCBARS要求性能の見直しを行っているが、その方向性から提案を予期されている4つの企業全てが、設計のやり直しを迫られるだろうと記者団に語った
●そして同氏は、最新の情報では、米海軍は更にISRや攻撃性能の要求を削減縮小していると説明し、「ここ半年で変化が見られ、最終的なRFPは完成していないが、後のISRや攻撃能力付加はあり得るが、空中給油機としての要求に大きく焦点が絞られている」と語った
●なお同社は、Northrop Grumman、General Atomics、Boeingと、初の空母艦載無人機の受注に向け機種選定で争うことになるが、記者団へのプレゼンの中で、(ステルス性を大きく犠牲にした)空中給油用タンクが翼からぶら下がった機体イメージ図(最初の図)を使用していた
●そして「仮に米海軍の要求が、厳しい防空網内でのISRや攻撃であったなら、給油タンクが翼にぶら下がるようなイメージ図にはならなかった」とブリーフィングしていた
●今や米海軍は、主力FA-18の飛行時間の25~30%を空中給油任務に使用しており、代替の空中給油機を可及的速やかに投入したいとの思いが海軍内で強まっているのかも知れない
●昨年Weiss氏は、将来のISRや攻撃任務適応を見据え、米海軍はステルス形状の機体を追求していると示唆していたが、昨年夏に米海軍航空軍司令官のShoemaker中将は、長時間飛行が求められるISR任務と燃料搭載量確保が必要な給油任務の両立に、各企業が苦労していると示唆していた
●しかし21日のWeiss氏の発言が示す最新の米海軍要求方向からすれば、4つの参戦企業全てが「flying wing形状」から「wing-body-tail形状」での提案に向かうと考えられる。
●ちなみに、ロッキードとノースロップは「flying wing形状」を構想していた模様で、GAとボーイングは「wing-body-tail形状」に近いイメージを持っていたと米海軍協会は記憶している
●なお、本計画では、米海軍がUCLASSデモで開発した地上操縦装置やデータリンク装置を機体に提供する事になっており、この装置についてはほとんど変更ないようである
●昨年時点では、昨年4企業に公開されたRFP原案を元に協議がもたれ、最終的なRFPは2017年夏に発出され、2018年に選定結果が明らかになる予定だと企業関係者は語っていた
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米空軍の次期爆撃機B-21計画で、いつの間にか「無人機オプション」が葬られたのと同様に、米海軍の空母艦載無人機計画でも、いつの間にか「突破能力を持つ攻撃機構想」は「将来の発展性」を経て、闇に葬られるのでしょう・・・
空中給油任務を付与した時点で、「ISRや攻撃任務」との並列が困難なのは目に見えており、予算やFA-18酷使の実態はあるにせよ、無人機を活用する意気込みや姿勢が米海軍に欠けている点は、後世の戦史家が厳しく指摘することになるでしょう・・・
MQ-25A関連の過去記事
「CBARSの名称はMQ-25Aに」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-17
「UCLASSはCBARSへ?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-02
「UCLASS選定延期へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-05-1
「米海軍の組織防衛で混乱」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-01
「国防省がRFPに待った!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-07-12
「関連企業とRFP最終調整へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-19
「会計検査院が危惧」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-10
「X-47B空中受油に成功」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-05
「なぜUCLASSが給油任務を?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-02-1
「哀愁漂うUCLASS議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-17
「UCLASSで空中戦?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-24
「UCLASSの要求性能復活?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-14
「夢しぼむUCLASS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-21
「米海軍のNIFC-CAとは?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-26
「脅威の変化を考えよう」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
米空軍の次期爆撃機B-21の現状
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-20