6日付Defense-News記事は、トランプ大統領が米軍の航空機や艦艇の大増強をぶち上げている一方で、予算の強制削減法(予算管理法)や暫定予算(CR)態勢に何ら変化の兆しがなく、米海軍部隊は槍の穂先を担う海軍攻撃機の2/3が部品不足や整備未完で飛行不能状態にあると実情を指摘しています
また、艦艇修理費の削減により空母や潜水艦の定期修理期間が延伸したり、操縦者の飛行訓練時間が不足したする事態が常態化し、そんな悩ましいペンタゴンや司令部勤務を命じられた士官の転勤拒否率もうなぎ登り状態にあることも紹介されています
また、新政権下でマティス長官が2017年度予算の修正案を提出することになっている一方で、そのお金はほとんど全てが艦艇や航空機の増強ではなく、目の前の稼働率を確保するための修理費や部品費に投入されル実態も紹介しています
オバマ政権8年間の「強制削減態勢」がもたらした傷は如何にも深く、トランプ大統領の威勢の良いかけ声がむなしくペンタゴンや米軍現場に響く惨状を、安保関係者はまず把握する必要がありましょう
6日付Defense-News記事によれば
●通常の状態でも、米海軍の航空戦力の非稼働率は、定期整備等のため2割から3割程度はあるが、現在は52%が非稼働状態にある。
●そして戦力発揮の最先端にあるFA-18の非稼働率に至っては、何と62%に達している。62%の内訳は、27%は大規模定期修理に入っているためだが、残りの35%は単に部品が入手出来なたために飛行不能の状態に置かれて居るのだ
●米海軍艦艇の修理費も不足している。米海軍は、長期間を要する艦艇建造を削減/中断すると取り返しが難しく、また造船所の人員や技術基盤の態勢維持のため、整備維持費を削減しても艦艇建造に予算を優先配分しており、整備維持費へのしわ寄せが大きくなっている
●2017年度予算でも、本来であれば必要な14隻の艦艇定期修理を2018年度に先送りする決定を行っている。14隻には、潜水艦1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦6隻、揚陸艦修理艦2隻、揚陸艦1隻、掃海艦3隻が「含まれている
●この様な修理先送りは、やり残し修理の蓄積を招き、また修理延期により艦艇等の痛みも進むことになり、結局実際の修理期間が延伸する悪循環に陥っている。
●例えば最近では、空母の定期修理が少なくとも3年、潜水艦に至っては4年以上必要な状態に至っており、潜水艦「Boise」は潜水不能なレベルにまで艦の状態が悪化している。海軍幹部は現状の暫定予算状態が続けば、今年更に潜水艦5隻が同様の状態になると危惧している
●9年連続で暫定予算(CR:continuing resolutions)が続き、前年ベースの査定が続き、新規事業予算枠が確保できない中のやりくりにより、例えば兵士の移動旅費確保も難しくなっており、2017年に入ってからの移動が、前年より15000件減っている状態である
●(この様な困難な部隊運用の中、)ペンタゴンや司令部勤務への移動を拒否する操縦者が増加しており、司令部等への移動を拒否するものの比率が、2013年には17%であったが、2016年には29%にまで急増している
新政権の動きに期待できるか?
●トランプ大統領は強制削減の言及である「予算管理法」の撤廃を主張していたが、何時、どのようにこれが実行されるのか明らかになっていない
●1月31日にマティス国防長官が、今後の予算関連の時程を「three-phase計画」をMemoで示し、まず2017年度予算の修正案を3月1日までに大統領府に提出、第2段階として5月1日までに2018年度予算案を大統領府に提出することを命じている
●更に第3段階として、新政権が議会への提出を義務づけられている「National Defense Strategy」を作成し、「FY2019-2023」の国防計画をまとめ、その中で「新たな米軍の戦力規模」を明らかにする事としている
●今週は4軍の副参謀総長が下院と上院の軍事委員会に出席し、各軍種の現状を説明して当面の追加予算を要望することになるだろうが、長期的な話にはならず、残された2017年度5ヶ月間で穴埋めすべき予算確保を訴えるだろう。
●米海軍で言えば、新造艦の予算ではなく、緊急に必要な艦艇の維持整備費でアリ、航空機の部品調達予算の話になろう。米海軍高官の言葉を借りれば「我々の最優先事項は即応態勢確保だ。航空機を飛行させ、艦艇や潜水艦を海に送り出し、水兵を訓練して使えるようにする予算が問題なんだ。新たな装備の話する余裕はない」なのである。
///////////////////////////////////////////////
当分はトランプ大統領による「大統領令」騒動が続きそうですが、地に着いた視点で新政権の動向を見守るため、改めて米軍部隊の現状を米海軍を例にご紹介しました。
米国全体で大規模な財政出動を行うような「前振り」があり、その流れの米軍艦艇や航空機の増強計画ぶち上げだったと思うのですが、「足もと」がこの状態ですから「落としどころ」が見当たらないのかも知れません。
副参謀総長グループの発言にも注目ですが、「足りない足りない」と予算増額発言ばかりでは疲れるので、少しは政策や戦略を語って欲しいものです。
それから、ハリス太平洋軍司令官あたりにも、そろそろ対中国発言を期待したいモノです
米新政権の国防予算を考える
「規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
「新長官と第3の相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-19
「次期政権と相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04