米空軍がT-X提案要求書を発出

米空軍が(当面)最後の大物機種選定開始!
T-X compe.jpg年の瀬も押し迫った12月30日、米空軍が現在予定される中で最後で最大の機種選定案件である次期練習機T-Xの提案要求書(RFP:request for proposals)を企業に発出し、総額1兆8千億円以上とも言われる機種選定が本格始動しました
次期練習機T-Xは、50年以上使用している420機のT-38後継として350機の調達を予定し、20年間に亘って毎年1000億円以上の調達運用経費が絡む大型契約で、米国外の企業も交えた4チームが参戦すると言われています。
同機は米空軍が取り組む調達改革の試金石とも言える調達事業で、空軍長官が掲げる「早い段階からの企業との情報共有」、「コストと性能のトレードオフを精査」等々の指針に沿い、通常より1年近く早い2015年3月に要求性能案が公開されました。
その後、企業とじっくりやりとりして検討した後に今時の提案要求書が決定・発出され、2017年秋に企業と機首を決定し、2022年から納入を開始、2024年度中には運用体制が確立可能であることが条件となっています
12月31日付DODBuzz記事によれば
米空軍参謀総長Goldfein大将は、「より実戦的で素晴らしい訓練を提供し、第5世代機への操縦者の意向を円滑にして訓練時間を削減するため、我々はこのT-X選定を厳正に正しく行わなければならない」と声明を発表した
●更に、「導入が進む5世代機の能力を最大限活用する出来るかは、T-X導入による高等操縦者訓練計画の成否にかかっている」と表現した
T-X  Boeing3.jpg●また米空軍教育訓練コマンド司令官Roberson中将は、「第5世代機の導入が進めば進むほど、(現有の練習機で訓練したパイロットの技量と必要な技量との)訓練ギャップが拡大し続けている」と危機感を訴え、T-X導入の重要性を主張した
●提案要求書には、最初の5機導入から始まる製造計画や維持整備体制の立ち上げ支援計画、地上訓練システム、訓練計画処理システム、維持整備のための装備や部品への要求が含まれている
9月13日に「ボーイングとSaabチーム」が、候補となる新設計の機体を公開し、なかなかかっこ良い機体が軍事メディアの話題を集めている
他にも「T-X」へは3チームの参戦が予期されており、「Northrop Grumman/ BAE」は新デザイン機を提案予定である。「Lockheed Martin」は韓国空軍が使用している韓国製T-50の改良型T-50Aで参入する方向で、「Raytheon, Leonardo and CAE」もM-346を改良した機体T-100で競争に参入する見込み
今後様々な関係者の思惑を含み、4チームに絡む米国、韓国、スウェーデン、イタリア等の各国や企業が動くと思われますので2015年3月公表の要求性能やその背景をご紹介した当時の記事から振り返ります
米空軍次期練習機T-Xの要求性能と選定の流れ
(2015年3月18日公表)
●このT-X調達は、James米空軍長官が掲げた調達改革の最初のケースとなるもので、「早い段階からの企業との情報共有」、「コストと性能のトレードオフを精査」等々の狙いがどのように実現されるのかに注目が集まっている
T-X trainer.jpg●公開された100項目以上の要求性能に基づき、同年5月10日までに希望企業が参加を申し出る。その後、申し出た企業と細部のやりとりを経て、最終的には2017年秋に企業と機首を決定し、2022年からの納入開始
●米空軍教育訓練コマンドは「従来の装備調達に比し、10ヶ月も早く要求性能を公開した。これは企業とのより深くオープンな意見交換を行うためである」と述べ、2026年~45年の間の運用を想定し、その間年間360時間の飛行を前提として稼働率80%を求めている
米空軍は「off the shelf」航空機に拘らないことから、「Boeing/Saab」や「Northrop Grumman/ BAE」は新デザイン機を提案予定である
具体的な特徴的要求項目
100項目以上の要求性能の中で、特に強調されているのは「sustained G」と「simulatorの信頼性・有効性」と「sustainment」の項目である
●また、老朽化したT-38練習機では出来ない戦闘機及び爆撃機操縦者に必要な訓練が出来ることが求められている
●エンジンの燃費はT-38より1割以上の改善が要求され、空中給油装置も要求。外装PODは「weapon systems support pod」と「travel pod」のみ
●米空軍はまた、多様な空対空・空対地の兵器発射・投下を模擬出来る「switchology:スイッチアクション?模擬」が可能なことも求めている
その他の関連事項
T-X trainer2.jpg●米空軍作戦部長は議会で、「T-Xは将来Aggressor任務を果たすに十分なスペース、パワー、冷却機能等を有しているが、要求性能ではAggressor任務を求めてはいない」、「F-16が同任務を最も効率的に実施している中、T-Xの使用を考えるのは時期尚早だ」と説明した
●米空軍省の調達担当次官も、将来のある時点でAggressor任務をT-Xに期待する事はありあるだろうが、要求性能値はそのオプションを妨げないものとなっていると語った
●米空軍からの企業への質問には、「将来の能力拡張や変更に関し、どの程度オープンで柔軟か」や「レーダーやリンクや防御システム等の将来改修の阻害要因」が含まれている
●一方で米空軍教育訓練コマンドは「拡張性」要求には懸念も示し、「要員養成訓練が可能なことが重要であり、拡張性は必要だが、適切な費用対効果の範囲内でだ」と語った
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4チームの提案機種については、DODBuzzの他、Defense-News記事も紹介していますので、細部にご興味のある方は基記事を原文をご覧下さい
Defense-News記事→http://www.defensenews.com/articles/new-t-x-request-for-proposals-tees-up-major-fight-among-defense-primes
T-X  Boeing2.jpg米空軍は、コストと性能のトレードオフを見極めるため、時間を掛け慎重に企業群と意見交換を行ってきました。
そしてこの手順を踏むことで、結果発表後に敗者による「不服申し立て」や「訴訟」が起こらないよう最善を尽くしています。しかし練習機は世界中に候補機が存在し、参加者全員が納得する選定は至難の業です
既に現時点でも、米軍事メディアは選定の「ドロ沼」化を予想しており、新政権、特に国防副長官や調達担当次官や空軍長官の舵取りに注目しています
T-X関連の記事
「ボーイングがT-X候補発表」→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-16
「T-X要求性能の概要発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-23-1
「シミュレーターが重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-21
「次期練習機は2年凍結?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-19
「米空軍T-38練習機の後継争い」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-01-30
「ボーイングがT-38後継を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-18
「T-38に亀裂やトラブル多発」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-20-1
悪夢のKC-46A選定どろ沼
「KC-X最終決定 泥沼終結か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25
次期練習機や長距離スタンドオフ兵器等が対象
「米空軍の調達コスト削減戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-01-19

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