10日付Defense-Newsが、米空軍による次期制空機の検討が2017年に一つの山を迎えるだろう(could be a decisive year)との記事を掲載しています。
まぁ、中身を見ると、そんな簡単に早期に結論が出そうな問題ではありませんが、種々の検討が開始されている様子を紹介していますので、一つの事象整理記事としてご紹介しておきます
「次期制空機の検討」とご紹介しましたが、米空軍は「PCA(Penetrating Counter Air)能力検討」と呼び、「第6世代戦闘機とは呼ばない」とか「単一アセットで制空を獲得するようなイメージを持ってはだめ」との注釈付で語られることが多く、「次期戦闘機検討」でも実質OKだと思うのですが、回りくどい表現になっています
もう一つ不明確なのは導入時期で、PCA検討の上位検討である「Air Superiority 2030検討」責任者の准将は、2028年の初期運用態勢IOCも実現可能な目標時期と語り、従来の重厚長大で鈍重な調達計画で2040年代までずれ込むことは受け入れがたいと8月に語っていました。
しかし今日の記事は、「米空軍はmid-2030sまでに導入したいと計画している」と表現しており、まだ様々な見方や思惑が交錯している様子が伺えます
10日付Defense-News記事によれば
●PCAにどのような特性や性能を求めるかを検討する要求性能検討AOA(analysis of alternatives)は、来年1月から18ヶ月間の予定で米空軍戦闘コマンドACCの「air superiority core function and next-generation air dominance working groups」で開始される予定である。
●同作業チームを束ねるThomas Coglitore大佐は、将来の脅威に対応するための作戦機コンセプトをまとめる任務を帯びており、調達戦略や開発リスク低減を担当する米空軍マテリアルコマンドの作業チームと協力して検討を進めている
●これら米空軍内の作業チームとは別に、外部有識者を中心として構成される「米空軍科学諮問評議会:Scientific Advisory board」も、鍵となる技術、つまりセンサー、兵器、ステルス性、対抗装置等々の技術を吟味して提言する役割を担っており、2017年7月に米空軍長官に結果を伝え、同12月に報告書を提出することになっている
●いずれにしても、PCAの要求性能検討AOAは、米空軍の能力と将来脅威環境を見据え、将来制空機にどのような性能が求められるかを吟味するものであり、Coglitore大佐は9日、2018年6月に作業チームの提言をまとめると語っている
●同大佐によれば作業チームは5分野に分かれており、「新技術の評価」「選択肢別のコスト見積」「技術の効果評価」「作戦コンセプト」「脅威と想定シナリオ」の5つである
●最終提言がどのような形式になるかは未定だが、同大佐は、「suppression of enemy air defenses」を重視した「counter-air作戦」に秀でた航空優勢獲得アセットの要求性能を予期していると言及している
●また同大佐は、米空軍はmid-2030sまでにPCAを導入したいと計画していることから、迅速な開発と調達が至上命題だと認めている。このためACCチームはリスク管理が専門のマテリアルコマンドのチームと緊密に連携している。
●米空軍はこれまでに、最新のソフトやエンジンや兵器やセンサーに加え、特に自律化自動化とレーザー兵器がPCAにおいて期待される技術だと示唆している
●米国防省関係者は、海軍と空軍の共同開発計画を望んでいないようだ。ケンドール次官が最近語ったように、F-35の様に海空海兵隊の共同開発にした場合、主契約企業が1社になってしまい、競争原理の観点から望ましくないと見ている
●一方で、海軍と空軍が双方の計画について意見交換を積極的に行い、共通化できる兵器や装備を追求することで価格低下に貢献する努力の重要性は強調されている
//////////////////////////////////////////////////
上記記事では表現されていませんが、これまでのPCA議論では、「速度や機動性より、航続距離や搭載量を重視」とか、「空中戦用より、Sensor Nodeのイメージ」とか、「人間の判断を最大限サポートする能力」とか、「iPhoneを支えているようなネットワーク環境が必須」とか、いろいろ言われています
このPCA議論を通じ、将来の脅威環境や最新技術動向を学ぶことは大変重要ですが、これは米軍の作戦を前提とした議論であり、極めて脆弱な第一列島線上にある我が国の関係者は、日本の戦略戦術環境を忘れ、米国と同じ土俵で議論してばかりでは困ります・・・
PCA関連の記事
「ケンドールが航空機投資を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-25
「Penetrating Counter Air検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08
「2030年検討の結果発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-02
くたばれ日本の戦闘機命派
「大局を見誤るな:J-20初公開に思う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-02
「F-35の主要な問題点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
「F-3開発の動きと日本への提言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
空自OBに戦闘機を巡る対立
「織田邦男の戦闘機命論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-06
「広中雅之は対領空侵効果に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-18-1
「小野田治も戦闘機に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-05