ボーイングが米空軍次期練習機T-X候補を発表

TX-Boeing.jpg13日、米空軍の次期練習機T-X候補に名乗りを上げる「ボーイングとSaabチーム」が、候補となる新設計の機体を公開し、なかなかかっこ良い機体が軍事メディアの話題を集めています。
次期練習機T-Xは、50年以上使用している420機のT-38後継として350機の調達を予定し、20年間に亘って毎年1000億円以上の調達運用経費が絡む大型契約で、米国外の企業も交えた4チームが参戦すると言われています。
同機は米空軍が取り組む調達改革の試金石とも言える調達事業で、空軍長官が掲げる「早い段階からの企業との情報共有」、「コストと性能のトレードオフを精査」等々の指針に沿い、通常より1年近く早い2015年3月に要求性能が公開され、企業とじっくりやりとりして検討した後、2017年秋に企業と機首を決定し、2022年からの納入開始の計画となっています
今後様々な関係者の思惑を含み、各国や各企業が動くと思われますので、その「序章」として「Boeing-Saab候補機」を簡単にご紹介し、2015年3月公表の要求性能を当時の記事から振り返ります
Boeing-Saab候補機について
T-X  Boeing3.jpgボーイングのPhantom社長のDarryl Davis氏は、性能や候補機に投入された新しい具体的技術について細部への言及を避けつつ、華やかな音楽と照明の中で登場した「T-X候補機」が既に2機存在すると語った
2つの垂直尾翼により、より良い機動性を獲得し、かつ軽量化を図った。エンジンはGE製のGE-404エンジン1台
グラスコックピットを採用し、オープンソフトで機体と地上訓練装置とでデータの共有が可能
●要求性能にはないが、翼下に各2カ所の搭載ポイントを設けた
空中給油の受け口(receptacle)を搭載するスペースを確保
米空軍は「high G」や「high angle of attack」性能をインセンティブ項目に指定しているが、「Boeing-Saab候補機」はコスト削減の視点からも、機体性能値を細密に設定している
T-X  Boeing2.jpg●外観からは判らないが、先進的設計と製造工程を取り入れている。細部には言及しないが、道具を使用せず機体組み立てが可能(enable Boeing to assemble the aircraft without any tools)である
●これも細部には言及しないが、キャノピー製造や3-Dプリンター活用により、機体製造時間の短縮を図った
●BoeingとSaabの製造分担については言及がなかったが、関連技術はボーイングのFA-18とSaabのグリペンから採用しているとのこと。脚はF-16のものをそのまま活用
●Boeing-Saabチームは計画的な宣伝を行っており、8月にwebサイトを開設し、正式一般公開となる9月19日からの米空軍協会の航空宇宙サイバー総会に向け、その1週間前にこの様な記者発表を行った
他にも「T-X」へは3チームの参戦が予期されており、「Northrop Grumman/ BAE」は新デザイン機を提案予定である。「Lockheed Martin」は韓国空軍が使用している韓国製T-50の改良型T-50Aで参入する方向で、「Raytheon, Leonardo and CAE」もM-346を改良した機体T-100で競争に参入する見込み
Boeing社による13日公表映像(8分半)
(冒頭にCM映像が流れることがありますが、その後にT-X登場です)

米空軍次期練習機T-Xの要求性能と選定の流れ
(2015年3月18日公表)
●このT-X調達は、James米空軍長官が掲げた調達改革の最初のケースとなるもので、「早い段階からの企業との情報共有」、「コストと性能のトレードオフを精査」等々の狙いがどのように実現されるのかに注目が集まっている
T-X trainer.jpg●公開された100項目以上の要求性能に基づき、同年5月10日までに希望企業が参加を申し出る。その後、申し出た企業と細部のやりとりを経て、最終的には2017年秋に企業と機首を決定し、2022年からの納入開始
●米空軍教育訓練コマンドは「従来の装備調達に比し、10ヶ月も早く要求性能を公開した。これは企業とのより深くオープンな意見交換を行うためである」と述べ、2026年~45年の間の運用を想定し、その間年間360時間の飛行を前提として稼働率80%を求めている
米空軍は「off the shelf」航空機に拘らないことから、「Boeing/Saab」や「Northrop Grumman/ BAE」は新デザイン機を提案予定である
具体的な特徴的要求項目
100項目以上の要求性能の中で、特に強調されているのは「sustained G」と「simulatorの信頼性・有効性」と「sustainment」の項目である
●また、老朽化したT-38練習機では出来ない戦闘機及び爆撃機操縦者に必要な訓練が出来ることが求められている
●エンジンの燃費はT-38より1割以上の改善が要求され、空中給油装置も要求。外装PODは「weapon systems support pod」と「travel pod」のみ
●米空軍はまた、多様な空対空・空対地の兵器発射・投下を模擬出来る「switchology:スイッチアクション?模擬」が可能なことも求めている
その他の関連事項
T-X trainer2.jpg●米空軍作戦部長は議会で、「T-Xは将来Aggressor任務を果たすに十分なスペース、パワー、冷却機能等を有しているが、要求性能ではAggressor任務を求めてはいない」、「F-16が同任務を最も効率的に実施している中、T-Xの使用を考えるのは時期尚早だ」と説明した
●米空軍省の調達担当次官も、将来のある時点でAggressor任務をT-Xに期待する事はありあるだろうが、要求性能値はそのオプションを妨げないものとなっていると語った
●米空軍からの企業への質問には、「将来の能力拡張や変更に関し、どの程度オープンで柔軟か」や「レーダーやリンクや防御システム等の将来改修の阻害要因」が含まれている
●一方で米空軍教育訓練コマンドは「拡張性」要求には懸念も示し、「要員養成訓練が可能なことが重要であり、拡張性は必要だが、適切な費用対効果の範囲内でだ」と語った
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練習機は比較的参入が容易で、「候補機種」が世界中にあり、今回も韓国やスウェーデンやイタリア企業が既に米企業と組んで参戦する方向にあります。
その中から「誰からも文句を言われない」選定をするのは大変困難な作業になります。特にこの様な大きな「金」が動く機種選定だと・・・
T-X trainer3.jpg今後、応募企業と「意見交換・情報共有」を行い、非公開の細部要求性能を「費用対効果」や「実現可能性」を踏まえて定め、最終的な「提案要求書:RFP」は年内には米空軍から参戦企業に発出され、2017年秋に最終決定の予定だそうです
軍需産業政策を担当する米国防省の役人の立場なら、米国企業の関与が大きく、なおかつ多くの米企業の共存共栄が図られる機種であることが望ましいのでしょうが・・・
次期練習機や長距離スタンドオフ兵器等が対象
「米空軍の調達コスト削減戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-01-19
T-X関連の記事
「T-X要求性能の概要発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-23-1
「シミュレーターが重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-21
「次期練習機は2年凍結?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-19
「米空軍T-38練習機の後継争い」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-01-30
「ボーイングがT-38後継を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-18
「T-38に亀裂やトラブル多発」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-20-1
悪夢のKC-46A選定どろ沼
「KC-X最終決定 泥沼終結か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25

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