11日、新しい米空軍参謀総長David Goldfein大将が予備役支援団体で講演し、4年間の任期の中で取り組みたい重視目標3つを明らかにしました。一部はこれまで断片的に語られていたことで、依然として具体的な取り組みが見えない部分もありますが、問題認識や背景にある課題に言及していますのでご紹介します
同大将は前任者から7年も若返り、米空軍内に多数先輩が残っている中での船出ですが、「Air Superiority 2030」構想の実現やF-35調達機数問題など、様々な課題に直面することが明らかです。
戦闘機中心の空軍改革は、戦闘機操縦者にしか出来ませんからぜひ頑張って頂きたいのですが、語られる「問題認識や背景にある課題」からは、深刻な組織内の状況も伺えます。
11日付Defense-News記事によれば
●11日、米空軍関係者にとって大きなイベントである米空軍協会年次総会を約1週間後に控えたこの時期に、米州軍協会の総会でGoldfein米空軍参謀総長は3つの重点目標を明らかにした
●3つとは、指揮統制の迅速性追求、編制単位部隊(又は飛行隊)のあり方再検討、そして統合作戦に向けた空軍リーダーの育成の3つである
●同大将はこの3つに関し、それぞれを担当する3名の将軍を1週間後の米空軍協会年次総会で紹介する予定である。
●また、3つの課題に関してそれぞれ短い書面を発表する予定で、同大将は意気込みを「これらを前進させる。今後4年間の重点事項として取り組む」と語った
指揮統制の迅速性追求
●米空軍内をよりネットワークで結び、データを共有し、スマホがアプリを使用して共有データを迅速に処理して快適なサービスを提供するように、敵よりも早く判断して敵に優位を与えず、我に優位に作戦を進められるような指揮統制システムを目指す。
●このため、「より広範囲にopen architectureシステム」を使用する事が考えられると示唆
●例えば、カタールのアルウデイド基地の連合航空作戦センターでは、宇宙から人員救助等々まで様々な関係者が、それぞれ独自のシステム端末を使用して業務を行っており、各システム間をつなぐ装置が無ければ、各分野のチームがデータを共有出来ない状態にある
●共通の作戦システムで運用される必要があると考える。同作戦センターを「iPad」のように考え、自由にアプリが使えるようにしたい。共有が可能なようにフォーマットされたデータ形式で情報を共有し、人工知能や機械語や自律システムが活用可能になるイメージである
●同大将はどのように米空軍がその様なシステムを開発するかに言及しなかったが、「Air Superiority 2030構想」でも「Data to Decision」迅速化が謳われており、今年の春から多様なデータを「クラウドのような仕組み」に現有技術で投入できないか検討が始まっている
●「Air Superiority 2030」のリードしたGrynkewich准将も、「iPhoneのように様々なアプリを活用できるように」との表現で情報共有や活用を説明している
編制単位部隊(又は飛行隊)の再検討
●米空軍組織の基礎となる単位である「squadron:編制単位部隊又は飛行隊」の再検討が、将来に向けた変革の道を開く。現在の体制に人員や資金を投入するアプローチでは無い
●21世紀に与えられた任務に基づき、「squadron」のあり方を見直し、正規兵と州軍と予備役とをミックスしたり、文民と外部委託の新たな大きな役割を検討したり、パートタイムな勤務形態を導入等々を検討する
●ベトナム戦争に操縦者として従軍した父の話によると、当時は一つの任務の計画開始から事後反省会まで5時間で完結していた様である。しかし現在の最新F-16での任務では、同様のサイクルに15時間かかっている。
●この時間増加には、任務急増と技術の飛躍的進歩、更に人員削減が背景にある。特に技術進歩では、4世代機では変化がハード導入に伴ってゆっくり段階的だったが、今や軽易なソフトの換装で容易に速いペースで次々と訪れる。これにより仕事量が級数的に増加している
●また情報管理の厳格化が進み、少数の高官クラスだけが扱える情報やデータが増え、処理時間が増える傾向にあることも背景にある
統合作戦に向けた空軍リーダーの育成
●米空軍は、どのように統合作戦で役立つリーダーを育て、どのように他軍種と協力して行くかを、考え直す必要がある。なぜなら主要な5つの脅威、露中イラン北朝鮮と過激派組織が、航空戦力の封じ込め(contain an air element)を行う可能性が高いことも一因だ
●米空軍は統合のリーダー育成に尽力し、統合作戦に入り込み、支援するだけでなく作戦をリード出来るようでなければならない(so that we can step in, and not only support, but lead any of those operations)
●そのために、士官教育のより早い時点で統合教育や訓練開始を考えることになろう。現在の空軍兵士は、最初の10年間、戦術レベルの職域教育や訓練に取り組むだけで、他軍種と関わるような経験を得られない環境で過ごしている
●より早い段階から、統合作戦計画や作戦遂行に接し、必要な考え方を体得できるような経歴管理についても検討が必要だろう
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「指揮統制の迅速性追求」は馴染みのある問題意識ですが、「Squadronのあり方を見直し」や「空軍リーダーの育成」にはこれまで語られなかった切実な問題意識が感じられますし、世界の空軍が共通して有する大きな課題であろうとも感じます。「脅威の変化」の最前線にある日本は、もっと感じなければ・・・と思うのですが・・・
特にGoldfein大将が、「統合作戦に入り込み、支援するだけでなく作戦をリード出来るようでなければならない」とまで表現するあたりは、米空軍の各組織が、「飛んでいれば幸せ」「作戦全体なんか知らない。言われたことをこなすだけ」「どうせ前線に出るのはほんの一部でしょ・・」等々の文民化・サラリーマン化の傾向を見せている事を示しているのかもしれません
また統合の会議で、どうせ空軍の作戦基盤は弾道・巡航ミサイルで早々に撃破されるだろうから、我々は当てにしていない・・・と陸海海兵隊から言われているのかも知れません・・
Goldfein参謀総長が担当将軍を発表する米空軍協会の航空宇宙&サイバー会議は19日から開催され、例のごとく、「JAAGA」の皆様も参加されるようですので、的確で迅速で判りやすい報告をお願いしたいものです。
Goldfein米空軍参謀総長の考え方
「迅速にピクチャー共有を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-21
「新空軍参謀総長をご紹介」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-27
将来の制空アセットに関する検討
「Penetrating Counter Air検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08
「2030年検討の結果発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-02
「軍事痴呆症JAAGAの非戦闘機命派OB」
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-18-1