26日付Defense-NewsがAFP配信記事で、話題のレールガン開発の状況を紹介しています。あまり新たな情報はありませんが、今後も話題に上る新兵器開発ですので、ご紹介します
レールガンは、従来の大砲とは異なり、電力で形成する強力な磁界で金属の飛翔体(HVP:hyper-velocity projectiles)を音速の7倍程度にまで加速して打ち出し、その運動エネルギーで目標を攻撃する兵器です。
飛翔体は誘導可能で、完成時の想定では、ミサイルよりも安価で大量に艦艇等に搭載できることから西太平洋地域で兵站への負担が少なく、敵からのミサイル等の同時大量攻撃対処や、多数目標を短時間に攻撃可能なことが利点と考えられています
一方で懸念として、レールガンと飛翔体の摩擦に耐えられる砲身の開発や大電力の確保などが依然残され、開発費が膨らんで国防省内や議会でも批判的な見方が広がりつつ有り、同時に従来の大砲や砲弾の技術進歩で、レールガンと同程度の威力が得られる見通しが得られつつある状況があります
26日付Defense-News記事によれば
●レールガンは画期的な技術で有り、火薬や炸薬で砲弾を射出する代わりに、電磁力で銅合金のレールから金属飛翔体を射出するものである。
●飛翔体の後部に付いた4つのフィンにより、飛翔体を目標に誘導可能で、敵艦艇、無人機、更に弾道ミサイルなどの目標を飛翔体の膨大な運動エネルギーによって破壊する
●究極的な目標として、研究者達はレールガンから音速の7.5倍の速度で飛翔体を発射し、射程距離100nmを目指している
●米海軍研究所のレールガン計画責任者Tom Boucher氏は、「火薬を使用する火砲は既に成熟しているが、レールガンはまだ始まったばかりである」と語っている
●レールガンからは誘導可能なHVPが射出されるが、HVPは従来の5インチ砲からも射出速度は遅いが発射可能である。米海軍は通常砲弾より優れたHVPを、(5インチ砲を備えた)艦艇全体に配備したいとの思いも持っている
●HVPは1発約520万円になる見込みで、従来砲弾よりは高価だが、トマホークのような誘導ミサイルが1発1億円以上することを考えれば遙かに安い
●現在、レールガンを使用するには25メガワットの電力が必要で、更に発電機や関連収納スペースを考えると、搭載できる艦艇は多くない。米海軍は供給電力に余裕がある最新のステルス駆逐艦「USS Zumwalt」への搭載を望んでいる
●開発の中では、飛翔体を押し出す莫大な摩擦で、数発発射しただけで砲身がダメになる問題が生起しており、研究者達は数千発の連続発射可能な解決に向け取り組んでいる
●Boucher氏らは問題解決に楽観的で、10年以内には戦線配備が可能になると見込んでおり、「進歩を続けており、我々の開発状況を見てもらえばそれが明らかだ」と自信を示した
●同兵器には陸軍も関心を示しており、戦車への搭載を検討している。しかし現時点では電力量不足が制約となっている。
●しかし米陸軍参謀総長は、レールガンとレーザー兵器を遠くない未来に導入することを構想しており、「陸上戦闘を根本的に変革するかも知れないタイミングに近づいている」と表現している
一方、5月2日Work副長官はレールガンに関し
●我々がこれまで取り組んできたことの一つは、新政権が活用して敵に優位な位置を確保できるであろう多くの異なるオプションを準備することである。
●例としてレールガンだが、当初我々は主要な開発領域だと考えたが、試験を進めるうちに「従来型の炸薬型高性能砲弾:powder gun with a hypervelocity round」でも同様の効果が得られる事が判ってきた。それも開発や試験などの経費が不要な形で。
●私は新政権に言うだろう。あなた達にはこのような選択肢がある。レールガンと炸薬型の両方に投資する事も可能だ。もし新政権がレールガンが欲しいと言ったらそう進むだろう。我々は成功の準備をしてあげるのだ
●私は政権移行の中核になろうと考えており、私自身が政権移行チームと直接話をし、我々がこれまで追求してきたことや、なぜそれらを追求してきたかを説明する。そして新政権に彼らが選択できるようにする
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AFP配信記事なこともあり軍事的突っ込みは不十分で、まんぐーすも補足解説できませんが、おおよその状況は以上のとおりで、HVPを既存の5インチ砲で活用する方向に落ち着く可能性も相当あると思います
ところで・・・・
陸自OBが陸自生き残りにレールガンを主張
6月13日付のJBpressに、前東方総監の渡部悦和氏が「中国を震え上がらせる秘密兵器、レールガンの実力 飽和ミサイル攻撃に対処でき、南西諸島防衛にも最適」との論評を投稿しています。
レールガンはすごい威力&性能なので、陸上自衛隊が装備して南西諸島に配備すれば、(海自や空自が中国の飽和ミサイル攻撃で機能喪失した場合にも、)極めて有効な戦力として日本版A2AD網が構成できるとの御主張です
平時の領空や領海の警戒に出番のない陸自としては、平時のながーーーい中国とのつばぜり合いに出番のない陸自としては、有事の強靱性を訴えるしかないのですが、レールガンとはお目が高い!
しかしWork副長官が5月に言及しているように、HVPを5インチ砲に使用しても、それなりの効果を発揮できることが明らかになり、レールガンへの更なる研究開発費への旗色が悪いことを考えれば、期待の持ち過ぎは危険でしょう・・・
エアシーバトル好きと言われ、番匠氏と共に退官に追い込まれた渡部悦和氏のご活躍には期待しますが、ちょっとレールガンには要注意かも・・・と思いました。
地上部隊にA2AD網を期待
「ハリス大将も南シナ海で期待」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-06
「陸自OBが陸自で航空優勢と」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-12
「中澤大佐の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10
「CSBA:米陸軍をミサイル部隊に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「陸軍トップがミサイル重視検討発言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-17
「森本元防衛大臣の防衛構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05
第3の相殺戦略を次期政権にどう申し送る?
「Work副長官が3つの視点で申し送りを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04