3月30日、Work副長官がワシントンポスト紙主催のイベント「Securing Tomorrow」に」で「third offset strategy」について語り、露中が対象だと明言し、核戦争に発展する以前に紛争にケリを付ける技術優位だと位置付け、宇宙における取り組みや「Deep-learning」を活用した情報分析等について言及しています
「third offset strategy」について、米国防省で交換幹部または連絡官として勤務する他国の軍人(?)が、あまりに多様な取り組みが乱立して進められており、「全体の戦略が不明確だ」「何が対処すべき課題なのか整理できていないのでは」と疑問を投げかけるエッセーを投稿しているようですが、まだまだ同戦略について把握できていないので、チマチマ取り上げたいと思います
30日付米国防省web記事によれば
●カーター国防長官は同戦略をロシアと中国に焦点を当てたものにしたいと考えており、イランや北朝鮮やISIL等に対処することは国防省の他の施策に含まれる
●米国防省は潜在的競争者との問題対処に、戦車対戦車、航空機対航空機、ミサイル対ミサイルのような対決で解決を図ろうとはしていない
●本戦略は我々にとって大国との戦争計画ではなく、包括的な安定達成や先制攻撃の誘因削減を目指すもので、仮に紛争に発展した場合でも核の敷居を超える前に終結させる事を狙いとするものである
●この戦略の目的は、将来の敵と戦う技術や、組織や作戦やコンセプトを見定めることであり、その大部分は現存の技術を新しい画期的な形で活用するために、その様な技術を見極め、発展させ、導入することである
「Deep-learning」による公開情報活用
(人工知能による自動学習能力の活用)
●「Deep-learning」機材を使用してISILの行動等の理解を深め、その撃滅のための目標選定に活用することに確信を持って取り組んでいる
●シリコンパレーの企業を訪問した際、2014年にマレーシア航空機がウクライナで撃墜された事件を、本技術を用いてSNS上の公開情報で試したところ、同航空機の離陸写真、シリアルナンバーが写ったロシア軍地対空ミサイルの写真や、同ミサイルが撃墜地点エリアで打ち上がる写真、同ミサイル発射機が現場から立ち去る写真(関連ミサイルが発射機にない状態)を時系列でリアルタイム分析して見せてくれた
●この「Deep-learning」技術は、存在する情報の関連性を明らかにして分析官を支援できることから、その将来性に大いに期待している
自立化システムは海空が先
●自動化した地上車両が様々な地形を克服するまでには時間が必要だが、その前に無人機の編隊構成機が実用化できるだろう。米空軍は無人機型F-16とF-35編隊に「Loyal Wingman」構想として取り組んでいる
●また水上及び水中無人機や、空中から無人機が前線に物資補給するだろう。アフガニスタンでは既にデモを行っており、当然のように実現するだろう
●ただし、無人システムに委任することはあっても、意思決定まで無人システムに委任することはない。サイバー戦や電子戦のように、状況の推移が人間の意思決定時間より早い場合を除いては
宇宙システムの分散と小型多数化
●従来米国は宇宙が聖域だとの前提で、巨大で高価で、あまりにも高機能で極めて脆弱な宇宙システムを考えてきたが、今後は機能をより小型のシステムに分散し、敵攻撃から回避する燃料を持たせる
●宇宙関連で本戦略の最初の取り組みは、カーター長官が統合省庁等横断型宇宙作戦センターJICSPOC(Joint Interagency and Combined Space Operation Center)と呼ぶ施設で、脅威の動向とどうアセットを回避させるかを意思疎通し判断する
●国防省は、サンフランシスコの企業「Planet Labs」が考案した革新的な地上監視の小型衛星「doves」システムにも取り組んでいる。口径40cm反射望遠鏡を搭載した150個の衛星網で地表全体を監視する構想だ
●太陽同期軌道を周回する150個の衛星は、1日に「10 terabytes」の情報を提供可能で、その情報を「Deep-learning」を活用して分析して地球全体の動向を把握する
●民間技術を生かした分散システムにより、敵対者による同時多数攻撃でも150個の小型で分散配置された衛星を攻撃することをより困難にし、前線兵士の支援を確実に出来る
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囲碁の世界チャンピオンを圧倒した「Alfha-GO」というコンピュータが話題になりましたが、その強さの秘密がこの「Deep-learning」技術でした。
コンピュータに人間がプログラムして作業をやらせるだけでなく、コンピュータが情報を取り込んで自ら学ぶような仕組みで、「休み無く、疲れることなく学習を続ける」事が可能なようです
アイディア乱立で訳がわからない・・・と揶揄されている「Third offset strategy 」ですが、カーター長官とWork副長官コンビには、今後も期待したいと思います
Third Offset Strategy関連の記事
「空軍研究所で関連研究確認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-07
「慶応神保氏の解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26
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