7日、米国政府の各種施策を検証する団体POGO(Project on Government Oversight)が、1月に米国防省試験評価部長(Director of Operational Test and Evaluation (DOT&E))が発表した事業評価レポートのF-35部分の概要を紹介しています。
POGOは特にF-35を厳しくフォローする団体で、その執念は「東京の郊外より」の100倍はありそうです
また米国防省試験評価部は、1983年に米議会により設置され、米国防省内にありながら外部監視機関と同様の役割を果たす事が求められており、これまでもF-35に関し厳しい指摘をしていますし、「東京の郊外より」でもGilmore試験評価部長の発言を何度かご紹介しています
前置きはさておき、海兵隊F-35Bが昨年IOCを達成以来、何となく楽観的な雰囲気が漂うF-35事業ですが、1月の試験評価部レポートはそんな雰囲気に「冷や水」を浴びせる厳しいもので、「見せかけのIOC」を批判し、早くても2022年頃までまともに戦えないと糾弾しています
本レポートに対し米国防省F-35計画室は、「記述された内容は事実として正確だが、我々の問題への取り組みをよく理解していない」と懸命の反論を試みていますが、「記述された事実」はかなり衝撃的ですのでご紹介します
7日付POGOのweb記事によれば
●当初計画では、F-35は2010年に完成機が実現し、2012年に部隊配備が開始される予定だった。度重なる遅延で現在に至っているが、今も各種試験で「先送り」や誤魔化しが続発している
●例えば、最も重要な兵器発射・投下試験の場合、海兵隊F-35BのIOCに向けたソフト「2B」試験では、15項目の試験の内11項目で開発関係者の介入が必要となり、基準を緩めて試験を終えたものもある。
●15項目の内の3項目は後のソフトに開発が先送りされ、結果として、海兵隊F-35は限定された狭いシナリオの範囲内で、限定的な能力の相手にのみ勝利を収めることが出来る
●このように、F-35の大多数の兵器の実戦的な環境における試験は、完成版ソフト「3F」が準備できると予想される2021年以降にしか実施できず、50個の試験イベントが必要とされている
●国防省F-35計画室は、ソフト「3F」の試験を2017年5月に終了するとしているが、その為にはより複雑で高度な試験を現在の3倍のペースで実施する必要があり、多くの試験を省略するか「先送り」するしかないだろう
●現状でも、試験100個に5カ所の問題が発生しているが、対処数以上に問題が見つかっており、試験が複雑化する今後は雪だるま式に問題が膨らむ可能性がある
●高度な要求性能を掲げるF-35は、当初から実環境だけでは試験が行えず、F-22のAir Combat Simulation (ACS)の様なシミュレーション機材「Verification Simulator (VSim)」を準備して試験を進める計画だったが、2001年以降、担当がたらい回しで全く進展していない。つまり本格的試験の場の設定さえも目途が立っていない
●機体の「異常振動:buffeting」が機動性を低下させ、HMDの使用が困難になる等の問題を生み、第4世代機F-16との空中戦で大敗を喫する結果となってる。
●翼から「空気の流れが剥がれる」ことを防止して高機動時の振動を防ぐため、スポイラー付加が対策とされているが、更なる重量増加と限定的な効果に疑問が残っている
●安全上の問題点が依然91個指摘され、そのうち27個が重大な事故や乗員の生命に関わる「Category I」の問題である。数少ない良いニュースとして、燃料タンクの問題から、雷エリアから25マイル以内での飛行が禁止されていたF-35Bの制約が解除された
●しかし依然として、F-35全タイプが、雷発生地域での地上滑走や離陸が禁止されている。燃料系のソフトの機能不全が原因で、雷により火災や爆発が発生する可能性があるからである
●自動兵站情報システムALISの現状は大変厳しい。ALISが「異常」と指摘する機体の問題の8割は誤りである。その度に整備員は人力で再度問題を位置から確認し無ければならず、楽になるはずの整備作業が大変な負担となっている
●サイバー攻撃への備えが不可欠な今の時代に、国防省F-35計画室はF-35関連ソフトの脆弱性や問題点を特定するための「サイバー試験」を拒否している。
●国防省のテストチームが部分的なサーバー試験を行っただけで重大な欠陥が見つかったと言われている中、F-35計画室はALIS等の重要部分に対する試験を「ソフトを傷つける恐れがある」と拒否している。
●通常の米軍の航空機の稼働率は8割程度だが、2015年のF-35稼働率は51%であった。過去2年間が37%であったことを考えると改善しているが、当初計画の6割を下回っている(ただし多くの完成機が改修のため非可動になっており、この機体の統計処理がどう扱われているか不明)
●また、整備記録が集積されているLockheed Martinデータベースへのアクセスが制限されており、十分に検証できていない
●整備性の問題を示す好例として、IOCを宣言した海兵隊F-35B部隊が行った昨年12月の訓練「Operation Steel Knight」が挙げられる。
●F-35の能力を示すため、IOC後の3ヶ月を賭けて入念に準備された演習にもかかわらず、計画された61回の飛行の内、28回しか飛行できなかった。演習参加の8機が毎日1回飛行する予定が、2.3日に1回しか飛行できなかったのだ
●今年8月から最悪12月に予定されている米空軍F-35AのIOCだが、本レポートがIOCを宣言した海兵隊F-35を「敵の脅威を避け、味方の他の航空機の援護を要請する必要がある」と酷評したような状態となるだろう
●米空軍がIOCに使用するソフト「3I」は、海兵隊の「2B」と実質同じソフトながら、処理回路が最新CPUに置き換わるだけと言われていたが、実際試験を開始するとレーダー等に問題が続発しており、当初の514試験項目が、追加で364試験を行う必要に迫られている。当初計画の甘さとソフトの問題が深刻なことを示している。
●燃料満載時の機動が「3G」以下に制限されたり、速度マック1.2以上では内部弾薬庫のミサイル等を発射できない等々の問題も残されたままである
●このようにF-35は、ほとんど期待された戦闘能力が発揮できない状態にあり、以上のような問題対処のため多くのパイロットが十分な飛行時間を確保できなくなるだろう。それでも、予算獲得のための「見せかけのIOC」宣言が、早ければ今年8月に、遅くても12月に行われるだろう
●開発と製造の同時並行は、完成したはずの機体に後で2度3度と改修を施す必要を生むが、機体構造部材の強度や金属疲労の問題は、経費的にも現実的にも改修不可能な可能性があり、将来「開発と製造の同時進行が生んだ孤児」になりかねない
●F-35計画室は、購入経費節約を目的として、2018年から海外購入国を巻き込んで465機のまとめ買い契約を進めようとしているが、計画の安定性や経費削減効果、国家安全保障への貢献度等を勘案しても、まとめ買い条件をクリアーするとは考えにくい
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上記は、「米国防省試験評価部長レポート」をPOGOのwebサイトが紹介した記事の概要です。従って、米国防省が「内容は事実として正確」と評価したレポートとF-35に批判的なPOGOのコメントが混ざっています
まんぐーすも可能な限り「POGOのコメント」部分は排除し、「事実として正確」な部分を抽出したつもりですが、レポートの記載と区別できない部分もあって玉石混淆なご紹介になっている可能性もあります
本レポートが発表される直前、米国防省試験評価部長の流失したメモをご紹介した覚えがありますが、その内容より遙かに深刻なF-35の実態が浮かび上がっています
防衛白書も航空自衛隊幹部も最近ほとんど触れない(触れたくない)F-35ですが、誰か取り上げた方が良いですよ・・・「センテンス・スプリング」・・・には堅い話題過ぎるし・・・
米国防省Gilmore試験評価部長のメモ
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-23