25日付読売新聞13面の「論壇キーワード」で、慶応大学の神保謙准教授が「Third Offset strategy」を「第3の相殺戦略」として紹介しています。
これまでも折に触れ、神保氏は米国防戦略の解説を同コーナーで実施されており、「Cost imposing」との概念も「費用賦課戦略?」として以前紹介されていたような記憶があります・・・
「Third Offset strategy」については、重要概念として「ちまちま」とWork副長官講演をご紹介しながら取り上げてきましたが、背景も踏まえた短節で平易な解説ですので概要をご紹介します
「相殺戦略」の背景と過去の相殺戦略
●「米国は主要な戦闘領域における優位性を失う時代に入った」・・米国防省が2014年11月に公表した「防衛革新イニシアチブ」(DII:Defense Innovation Initiative)は、潜在的な敵国が、米国の軍事力への明白な挑戦となっていることに警鐘を鳴らした
●また、国防予算の削減により研究開発投資が圧迫され、(従来の延長では)米国が将来に亘って世界で軍事的優位を保つことが難しいとの認識が示された
●米国防省はこれらを踏まえ、軍事技術、作戦コンセプト、兵器調達、兵站などにまたがる全省的な改革が必要だと訴え、「第3の相殺戦略」と総称される改革を中核に据えて取り組んでいる
●「第3の相殺戦略」を知るために、まず米国が冷戦期に掲げてきた「第1」と「第2」の相殺戦略の概要を把握する
●「第1の相殺戦略」は、1950年代にアイゼンハワー政権で推進されたニュールック戦略であり、冷戦下での「東側」の通常戦力優位を「相殺」するため、核兵器による大量報復能力で抑止しようとした事を指す
●「第2の相殺戦略」は、1970年代にソ連による核兵器の大量配備で東西の核戦力がバランスする一方、依然として「東側」が通常戦力優位を維持していた環境で生み出された。ステルス技術やネットワーク技術(精密誘導兵器技術もか)で、東側の優位を相殺しようとしたものである
「第3の相殺戦略」とは
●翻って「第3の相殺戦略」は、伝統的な作戦領域における米国の優位が自明で無く、米国の戦力投射に対する(中国やロシアによる)A2ADが拡大する環境下で、米国の先端軍事技術の優位性を維持し、米軍のアクセス確保が目的である
●具体的には、無人機(空中と水中)能力、海中戦闘能力、長距離攻撃能力、ステルス性兵器、伝統的戦力と新たな技術を結びつける統合エンジニアリングなどの重要性が提唱され、国防省内で構想検討やシミュレーションが続けられている
●しかし、以上の取り組みがどこまで伝統的戦力を「相殺」できるのか、独占的に技術開発の優位を長期維持できるのか、米軍の前方展開戦力をどう位置付けるのか・・・等々、米国の軍事的優位性維持にはかくも困難な道が控えているのである
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対中国に絞って考えると、上記では触れていませんが、西太平洋地域では米軍の作戦基盤基地が少ないことや、兵站支援や補給が米本土から遠くて困難な事が、対処をより困難にしています。
ですから、「第3の相殺戦略」では、防御能力強化に人工知能による自動化、兵站負担の少ないレーザー兵器等の開発、長距離や無人化兵器への期待が高くなっています
また、米国側に立って対中国の仲間になってほしいASEAN等諸国が、中国の経済圏にあって立場が微妙な点も対応を難しくしています。この点は、対ロシアで欧州に米軍の拠点や物資集積の動きが迅速に進んでいるのとは対照的です。
神保氏が最後にさらっと触れている、「米軍の前方展開戦力をどう位置付けるのか」は、極めて重大な問題です。
軍事的合理性からすれば、早い段階で中国の弾道ミサイルや巡航ミサイルの餌食になる事が明白な、西日本や南西諸島に米軍戦力を配備する事(又は有事初動でそこに戦力が存在する事)はあり得ません
同盟国との関係に置いて、この問題をどう位置付けるかは、極めて切実です。翁長沖縄県知事に「米海兵隊は抑止力にならない」と指摘されるまでもなく、日本として腹をくくる必要があるでしょう
Third Offset Strategy解説by副長官
「CNASでの講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-15
「11月のレーガン財団講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15
「9月のRUSI講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-12
「Three-Play Combatを前線で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-09