米軍需産業の懸念:政府手続き鈍重で顧客を失う

Dubai Airshow.jpg11月29日付Defense-News記事は、米国軍需産業が海外への装備品売り込みに際し米政府の承認等手続きに時間がかかるため、顧客をロシアや中国や欧州に奪われると危機感を強めていると紹介しています。
武器輸出の承認には、国防省だけでなく国務省等も関係し、議会の承認を経るものもあり、国防省内でも問題視されてきた課題ではあります
一方で記事は、国務省関係者の話として「企業は利益最大化を追求するため、いつも不平を言う」とのと発言も紹介し、米国政府内でも温度差がある問題のようです
記事は、今年秋のドバイ航空ショーで軍需産業界側の危機感は更に高まったと報じています
11月29日付Defense-News記事は
●米軍需産業は長年に亘り、より安価で納入が迅速な競争相手の出現に危機感を覚えており、特に11月のドバイ航空ショーではその危機感の拡大を湾岸諸国からの不平を聞くことにより強めている
湾岸諸国はシリアやイエメンでの作戦行動を支えるため、新装備や兵器の導入を米国に要求しているが、米国内手続きが迅速に進まないのだ
●米軍需産業関係者は中東諸国の顧客から「米国製装備が欲しい。米国と共にやっていきたい。でもいつまで待ったら良いのか?」と問い詰められており、要望を聞いても何時までに対応出来るか答えられず、顧客は他の代替を追求し始めると不満をあらわにしている
特に軍需産業関係者はFMSを問題視し、国防省と国務省と議会の承認に時間がかかることを不満に感じている
Rixey DSCA.jpgFMSを管轄する国防省国防協力庁(DSCA)長官のJoseph Rixey中将は、2015年度の輸出額が過去最高レベルになると語り、米国が顧客を失うと訴えるのは騒ぎすぎだとしながらも、ドバイでの関係者の雰囲気が変化しつつある事は感じている
米航空工業界AIAのRemy Nathan国際関係担当副会長は、「顧客が米国以外に目を向ける懸念は常ずね存在したが、これほど広範に鮮明になったのは初めてだろう」と語っている
●同副会長は「多国の売り込みに大きな変化は無いようだが、顧客が迅速性や必要性を強く要求する傾向が強まり一方で、米国の迅速性への態度に変化がないため、より多国の提案が魅力的になりつつある」と分析している
●James米空軍長官や調達担当次官も海外顧客の不満を認識しており、「私も長官も、軍需産業や関係国から手続きの迅速化要望を耳が痛くなるほど聞かされている」とLaPlante次官も発言している
●米空軍のLaPlante調達兵站次官はまた、同盟国等はISRや指揮統制システム、またF-15やF-16の能力向上を求めているが、「彼らが戦っているISやアルカイダ対処に必要な、弾薬への要求も非常に大きい。スピード感ある対処が極めて重要だ」と語っている
中国製兵器にひかれる顧客
AIA2.jpg●AIA副会長は、湾岸諸国の関係者から、米国の手続きや返答が遅いので我々は最高のシステムを追求出来ないと不満を訴えられていると訴えた
●Textron社の社長は無人機需要が急増している事に触れ、「湾岸諸国の顧客は、安かろう悪かろうの製品にも目を向けている。中国製の無人機は、米国製無人機1機の予算で10機購入可能だ。仮に10機のうち8機が役に立たなくても、2機は使えると考える。こうなると迅速に納入してくれる方を選択する可能性がある」と訴えた
●また同社長は「米国が半年待ってくれと言って、相手が待てなければ、他国と契約が成立して30~40年の関係となる。逆に言えば30年チャンスを失いかねない」と危機感を語った
●一方で国務省のScott Nathan通商事業代表は、軍需産業界の不満は認識しつつも、企業の利益追求のために騒いでいるのだとの認識を示し、「懸念と言えば懸念だろうが、米国企業は顧客が求める能力や製品を保有しており、だから顧客は返答を待つのだ」と語っている。また「せかすのが企業のやり方だ」とも表現、現在のFMSシステムに満足感を示した
●ただし「常に改善の余地は残されており、効率性向上に向けた努力は継続されるべき」とは述べている
イラン核合意を受けた湾岸諸国の兵器渇望
Dubai Airshow2.jpg●本年初め、オバマ大統領と湾岸諸国首脳(GCC)がキャンプデービッドで湾岸諸国サミットを開催した際、イラン核合意に懸念示す湾岸諸国対策の一つに、武器輸出の円滑化をオバマ大統領は掲げた
●しかし湾岸諸国は、米国の施策の進捗が遅いことを懸念し、不満に思っている。イスラエルに対する配慮が議会の動きを遅くしているとも見られており、これに対する湾岸諸国の目も厳しい
●今後の湾岸諸国の動向に関し、AIA副会長は、今後半年から1年が、米国の湾岸地域への武器輸出の転換点となり得ると懸念を示している
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概して国防省や政府側は、懸念がある事は認識しているが、軍需産業側の主張を100%聞く必要はないとの姿勢でしょうか。
政府側としては、技術流出の懸念や他国とのバランス配慮から、政府内各機関のコンセンサスを得る時間も必要なのでしょう
「今後半年から1年が、米国の湾岸地域への武器輸出の転換点」になるのかどうか、見極めたいと思います。

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