その2:CSBA提言の台湾新軍事戦略に学べ

2014年で最も印象深いレポート!
通常戦で到底太刀打ちできない中国対策を考える
Taiwan-China.jpg12月21日、シンクタンクCSBAが「Hard ROC 2.0: Taiwan and Deterrence Through Protraction」とのレポートを発表し、中国軍との圧倒的戦力差に直面する台湾軍に対し、従来の戦闘機や潜水艦や大規模陸軍を重視した国防投資を根本的に改め、対艦ミサイル、ミニ潜水艦、機雷、移動式防空ミサイル、隠蔽掩蔽などの消極防空、サイバー、電子戦、ISR妨害、心理戦等を重視した軍事戦略を追求すべきと提言しています
ありがちな総花的国防費増額論や、F-35導入に代表される惰性的で無責任な現有装備近代化の追求路線ではなく、国家資源の現状を冷徹に見据えて取捨選択を図り、実行可能性を突き詰めて選択肢を提示すべきとの使命感あふれた提言です。
昨日の総論に続き、各論をご紹介します
ゲリラ的「海洋拒否」とは・・・
Taiwan-Sub.jpg●「Hard ROC 2.0」の最初の重要要素はゲリラ的「海洋拒否」である。しかしここで台湾は完全な海洋支配を追及する必要はない。海洋支配や海洋阻止、又は台湾に侵攻する中国海洋戦力の主要な一部を攻撃できることが明確な戦力を「維持」することが重要である
●この目的達成のため、台湾軍はミニ潜水艦(midget submarine)、地上配備沿岸防衛ミサイル、攻撃的機雷を重視すべきである
●現在台湾は米国に8隻の通常型潜水艦(千から2千トン)を要望しているが、この代替として北朝鮮やイランが保有する42隻のミニ潜水艦(120t程度)を保有してはどうか
●この規模のミニ潜水艦は8隻の通常潜水艦を運用すると同規模の人員で運用でき、台湾国産で製造可能であり、経費も通常潜水艦8隻以下である。
●ミニ潜水艦は敵の攻撃や情報収集にも有効だが、かなりの中国軍海洋戦力をミニ潜水艦対処に拘束する役割も大きい。
CSBA-Taiwan.jpg●ミニ潜水艦が入手する敵情報は、沿岸配備の対艦巡航ミサイル部隊で活用できる。中国軍の着上陸艦艇32隻と60隻の護衛艦艇群を想定すれば、1200発の対艦巡航ミサイル(ASCM)で対応可能
ASCMは、トラックに4発づつ格納したコンテナで搭載することで、相手からの発見と攻撃を困難にして中国軍に大きな負担となる。
●ゲリラ的「海洋拒否」の3つ目の柱は、攻撃的配備の機雷である。雑音の多い台湾海峡や中国海軍の主要港湾施設の近海に事前配備した無人水中艇や高度な機雷は、中国海軍の活動を大きく制約する。また中国戦力に対処のための戦力配分を強要し、中国海軍の海洋封鎖作戦や侵攻作戦を遅滞できる
●(強調したいのは、)ミニ潜水艦42隻、1200発のASCM、更に相当数の機雷を調達して運用しても、現在台湾が追求中である8隻の通常型潜水艦予算よりも明らかに安価である点である。そして「海洋拒否能力」は、8隻の潜水艦より高まると想定できることである
台湾による「非通常型の防空」
TaiwanF-16-.jpg●「Hard ROC 2.0」の2番目の要素は、ゲリラ的な「非通常型の防空」である。これには、移動可能な重層的な防空網と、偽装、隠ぺい、ぎまん等の組み合わせが含まれる。これらは中国軍に時間と浪費を強要する消耗戦を強いる
●また中国軍によるISR活動と戦果確認(BDA)を非常に困難にし、更に余分な戦力を無駄に投入させることが出来る。
●中国軍は作戦当初に海空での行動の自由を確保するため、台湾の防空網を制圧しに掛かるだろう。従って、台湾の防空組織が長く効果を維持できれば出来るほど、中国軍は台湾の巡航ミサイル軍等の制圧に時間を要することになる
●台湾軍は、空軍の戦闘機を更新するために多額を投入するよりも、高度に分散した抗たん性・耐久性のある地上防空ミサイル網構築に力を入れるべきである
●この際、台湾軍防空網は侵攻する全ての中国軍機を阻止する必要はない。可能な限り長く防空任務を継続することを念頭に、中国空軍に消耗とその脅威を与え続けることが求められる
Tiwan-F-16Up.jpg台湾は米国にF-16C/D型を66機を約7000億円で要望しているが、中国への配慮もあり、米国は145機の現有F-16A/B型への能力向上を4000億円で提案し、必要なエンジン換装を1000億円で議論している。
この差額を上記の移動式防空網に投資できれば、更にゲリラ的「海洋拒否」で浮いた数千億円を再投資すれば、1800発の防空ミサイル(20発搭載可能な50台の移動発射機を含め)を購入可能である(シースパロー級を想定)。
●再度述べるが、ここで提言する台湾ミサイル防空網は、緒戦での最大戦力発揮ではなく、サバイバル:長期継続運用を重視する。これはベトナム戦争時の経験から導いた提言である
北ベトナム軍は、米軍の飛行89回に1発の割合でしか地対空ミサイルを発射しなかったが、これにより米軍は爆撃機の援護に倍の援護機をエスコートさせることを強いられた。防空網がサバイバルすることで、中国軍機に多くのコストと労力を強いることが出来るはずである
CCD(偽装、隠ぺい、ぎまん等)で効果増幅
Taiwan2.jpg●台湾ミサイル防空網は、多数の偽目標を設置することで中国軍に更に負担を強いることができる。これには光学及び赤外線センサーを欺くデコイ、高度な通信電子機器妨害装置やデコイ等が含まれる
被害を受けた台湾の飛行場や滑走路を、修復したかのように見せかける装備はとりわけ効果的であろう。航空基地や滑走路は優先度の高い目標であり、中国側に再攻撃を強いることが出来る
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ベトナム戦争での米軍の対応と中国軍の対応を同様に見積もるのは、情報分析の世界で戒められる「ミラーイメージ」の過ちの可能性もあります。
またSAMの出し惜しみに関し、台湾の重要インフラ(発電、通信、ダム、交通)がどれだけ耐えられるか、には疑問も残ります
でもCSBAの見積もりの大前提には、高価な戦闘機や艦艇に投資をしても、中国軍の初動攻撃で飛行場を含めて無効化されるから、それよりはこちらの方がまだ有効だと言いたいのでしょう。
現実を冷徹に見据え、地に着いた対処を考えておかないと、有事にパニックになるよと・・・
CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶシリーズ
「その1:総論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
「その3:各論:陸軍と新分野に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2
最近の台湾関連話題
「台湾が国産潜水艦を目指す」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-17
「台湾F-16能力向上問題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-09
「台湾の巨大な中国監視レーダー」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-28
「親中の国民党が大敗」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-09
「台湾が兵士2割削減へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-22
「台湾の防空ミサイル投資」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-01
「中国空母対処の台湾演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-26-1
「潜水艦用のハプーン受領」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-08-1
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日本対しても、既に同様の提言が!!!
2014年9月、中国軍の権威である米海軍大学のヨシハラ教授は、CNASから日本への軍事施策提言レポートを発表し、日本に非対称戦でA2ADを目指せ、現在の国防政策や装備品整備の方向は不適切だと警告しています
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18
その結論は端的に言うと
●日本は、中国の攻勢能力に専守防衛では対処できない
●称賛に値する(自衛隊の)戦術的職人技は、不釣り合いに高価で、発揮困難
対称戦は、敵に対して財政的・技術的優位を持つ大国のやり方。日本にそんな余裕はない
つまり、日本もA2AD戦略を採用し、中国軍の初動を邪魔して米軍の増援部隊が戦域に到着するまでの時間を稼ぎ、中国にA2AD遂行のコストを負わせよ、との提言しているわけです。
更に海上自衛隊については
Yoshihara22.jpg●中国の作戦計画者は、作戦当初に、嘉手納、岩国、佐世保、横須賀等の基地にミサイル攻撃を仕掛ける。つまり、日本の現在の防衛態勢は、中国が日本にだけ多大なコストを課すことを許容している。
●例えば海自の対潜能力ASWは世界第二の固定翼ASW戦力を持つが、中国のミサイル攻撃に脆弱だ。ASWの例は、海自が劣勢な分野のひとつに過ぎない
●海自は「ひゅうが」や「いずも」といったヘリ空母へ投資しているが、中国のミサイル攻撃の格好の標的となる。
そこで「日本による接近阻止戦略」を提案
●潜水艦戦 ●機雷戦 ●小規模艦艇による防衛 
●沿岸配備の各種ミサイル ●抗たん性強化 ●分散と代替施設確保
の分野でそれぞれ提言を行っています
関連する主張は他からも
「森本元防衛大臣の防衛構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05
「CSBA:陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「脅威の本質を見極めよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08

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