6日付DODBuzzが、新型空母フォード級の開発建造コスト管理に疑問を呈する米会計検査院GAOのレポートを紹介し、併せて米海軍関係者の反応を取り上げています
2008年時点からコストが2割上昇し、技術的に未成熟な新装備を搭載して無理矢理建造スケジュールの辻褄合わせをしているとか、不確かな点が多いので2番艦の契約はもう少し待つべきだとか、米国防装備品に付き物の「いつもの話」です。
フォード級空母に関しては、約2ヶ月前に業界宣伝のような記事でその特徴を、より広い甲板、最新の原子力動力機、2バンドレーダー、改良型の着陸装備、飛躍的な発電量増加、電磁式のカタパルト(EMALS)等々の視点からご紹介したところです。
新空母フォード級を学ぶ
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-20
「Cool head but warm heart」を信条とするまんぐーすですが、業界への「warm heart」だけではバランスを欠くので、「Cool head」でフォード級空母の状況を概観いたします
6日付DODBuzz記事はフォード級空母の状況を
●GAOが発表した5日付「Ford Class Carriers: Lead Ship Testing and Reliability Shortfalls Will Limit Initial Fleet Capabilities」とのレポートは、国防省に対し、要求性能や試験要領、更にはコスト効果分析を実施するよう勧告している
●レポートは、同級空母の一番艦(CVN 78)であるUSS Gerald Fordが、2008年時点より2割もコストが上昇し、現時点で約1.3兆円になっていると指摘している
●同レポートはまた、試験手順の疑問を呈し、更に鍵となる新型電磁カタパルトEMALSのような装備の成熟度にも不信感を隠していない。レポートは「1番艦の緊要な技術に関し、海軍はまだら模様の成果しか上げていない」と指摘している
●具体的には「より効率的に航空機を離陸させる装置(EMALSのこと)などに、技術的不透明さや建造企業の低成果から来る更なる経費増加を招く可能性がある」との記述されている
●同レポートは「1番艦の建造は非効率な工程、材料資材の不足、緊要なシステム技術や開発の遅れ、建造技術上の課題等の影響を受けている」と指摘し、ヘーゲル国防長官に対し、海軍長官に多方面からコスト効果分析を行わせるよう勧告している。例えばGAO、高価なEMALSが航空機の離陸効率や省力化にどの程度繋がるかを検証したいと考えている
●レポートは「1番艦の建造スケジュールに無理矢理併せるため、システムの成熟度を十分確認する前に搭載するという、GAOが手戻りによるコスト増要因と指摘したリスクを冒し、艦艇全体の搭載重量制限に余裕をなくす結果となっている」と分析している。GAOは要求性能の引き下げも検討すべきとしている
●2番艦USS John F. Kennedyの建造についてもレポートは「建造企業は1番艦の経験を生かして効率的に製造すると言うが、残された技術的リスクは海軍の経費見積もりを妨げ、楽観的な見積もりを導いている」と警戒感を示し、「米海軍に対し、設計や建造契約を延期や中断するよう勧告する」としている
これに対し米海軍関係者や建造企業は
●新しいカタパルトEMALSは、航空機を加速する力を微妙に操作でき、機体に過重な負担をかけることなく離陸させることが出来る。種々の新技術により、50年の寿命の中で4000億円の経費を節約できる
●ニミッツ級空母に比し、フォード級は25%戦闘能力が増し、通常の航空機や将来の無人機、更にビーム兵器の運用を通じて更に優れた能力を発揮する
●米海軍フォード級空母責任者のモール少将は、「2番艦は1番艦より1000億円安く建造可能である。これからも継続的に工程を見直し、より効率的になるよう取り組む。終わりなきプロセスだ」と語っている
●2014年度予算案では、1番艦のフォードに588億円、2番艦のケネディーには945億円を要求している
13日付米海軍協会web記事:2番艦契約サイン延期
→http://news.usni.org/2013/09/13/report-construction-contract-second-ford-carrier-delayed-year
●米海軍の開発契約部署の空母担当海軍少将が海軍協会記者に語ったところ、本年9月に締結されるといわれていたフォード級空母の2番艦J.F.Kennedy建造契約を行わず、現在有効な建造準備契約を約300億円で延長する模様
●同少将は、準備計画延長により、現時点で本契約を結ぶことにより問題となる可能性がある材料の調達や建造計画の精査を可能にし、より最適な契約を結ぶことが出来る
●約300億円の支出により、関連零細企業や製造基盤施設を保護することが出来、最終的な空母建造コストを抑えることが出来る。
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1番艦(Ford:CVN 78)の進水式は本年11月に予定されており、その後各種試験や訓練を経て、2016年後半には運用を開始する予定です。
なお2番艦(John. F. Kennedy:CVN 79)は2025年までに、そして3番艦(Enterprise:CVN 80)は2027年までに運用を開始する計画で、この間かなりの時間差があります。
米海軍はこの空母と並び、戦略ミサイル原潜の更新を計画していますが、この潜水艦も価格が高騰しており、近い将来の行き詰まりが火を見るよりも明らかですが、放置されています。
F-35に対し「放置プレー」を続ける我が国も同類ですが・・・
中国空母関連の過去記事
「中国空母艦載機J-15の評価」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-26-1
「画像中国空母Shi Lang施琅」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-08
「論争:中国空母は脅威か?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-28
「中国海軍の何を恐れる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-08
「石破茂・元防衛大臣の疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-21