3月29日、防衛省の研究機関である防衛研究所が、恒例となる「東アジア戦略概観2013」を発表しました。本日は「東京の郊外より」のメインテーマである米国防政策に関する第8章について、僭越ながらコメントさせていただきたいと思います
でもまんぐーすの勝手な意見の前に、これだけの貴重な資料を提供していただいた防衛研究所の方々に敬意を表し、2013年版の特徴等をまずご紹介します。
2013年版の特徴等は・・・
●まず何と言っても「要約」(約20ページ)が設けられたこと。かつて読み飛ばし率が高かった「序章」に代えての「要約」。素晴らしいです。
●今回はトピック章として、インドとオーストラリアの安全保障政策を採り上げている。ともに地域の「変数」に成りかねない2国であり、タイムリーな企画です
●更に、日本語版と同時に英語版「要約」も発表する関係者の地道な努力により、対外・国外発信の強力な武器としても活用が可能となっています。
また本年も同様に・・
●防衛研究所の研究者が内外の公刊資料に依拠して独自の立場から分析・記述したものであり、政府あるいは防衛省の見解を示すものではないとの断りと、
●地域別に2012年1月から12月までの1年間を中心に生起した安全保障にかかわる重要な事象について分析、だとの前提で編集されています。
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第8章米国は約30ページで、5つのパート、「「財政の崖」回避と今後の国防費削減」、「リバランスと地域諸国との関係強化」、「戦力シフトと海兵隊分散配置構想」、「南シナ海問題への取り組みとUNCLOS 批准」、「アジア太平洋リバランスの課題」からなっています。
第8章内容は「要約」部分に3ページでまとめられており、中身はそちらを参照願います
要約→http://www.nids.go.jp/publication/east-asian/pdf/eastasian2013/j01.pdf
まず「東アジア戦略概観2013」全体への感想
●全般には、アジア及びアジアに関与する主要国の「2012年の記録」として、他に類を見ない「網羅性」と「バランス感覚」と「コンパクトさ」と「読みやすさ」を備えた稀有の出版物。これがネット上で「無料」読み放題とは素晴らしい限りです。
●特に第8章では、地域の専門家しか顧みないASEAN諸国と米国の軍事関係強化を国別に整理しており、ASEAN諸国との業務に当たる多様な人々に貴重な視点を提供しています。
次に第8章米国への僭越なコメント
●一方、森本前防衛大臣が大臣経験を踏まえて文芸春秋4月号で「安倍政権の最大の課題は、米国を極東に引き留めておくこと」と喝破し、「パネッタ長官が昨年6月発表した海軍艦艇の太平洋重点配備など、全体が縮小する中での比率増に過ぎない(実質マイナスもあり得る)」と断言した中、2013年版は必死に米国の「アジア太平洋リバランスや回帰」は本物だと強調しすぎています。
●頑張りすぎて「そんなに無理してヨイショしなければならないほど、「遠ざかる米国(オフショア)」は深刻なのか??? との疑問を誘発する結果に成らないかと余計な心配をしてしまいます。
「退任後大いに語る森本氏」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-22-1
●特に、主要な国防省高官発言の引用が、「アジア太平洋リバランス」打ち出した昨年6月のシャングリラ・ダイアログ当時の都合の良い高官発言に偏り、昨年秋ごろから本年2月にかけて国防省や米軍幹部が議会に再三訴えた、強制削減が発動された場合の戦力削減や能力への影響について全く触れていないのが異様です。つまり「遠ざかる米国(オフショア)隠し」が余りにも露骨に見え透いてしまうのです。
●強制削減の影響については、最終決定ではないにしろ、未確定部分と注釈をして具体的に触れるべきで、第8章の冒頭での「社会保障が予算削減の中心的議論の対象だった」との言い訳のような意味のない記述や、最後の「課題」部分で「ふんわり」触れるだけでは、憂国の士には受け入れられません
●同時に、米国防政策が大きく揺れ動くこのタイミングに、「2012年を中心に」といった前提に「逃げ込んで」しまっては、発表時点で既に、将来の政策や諸問題を考察するための資料としては不十分な中身となってしまいます。
●また、第8章米国のタイトルは「オバマ第2期政権の挑戦と課題」ですが、第2期政権の布陣へのつっこみが甘あまです。これに関しては最後の「課題」部分で、「ケリー国務長官がクリントン前長官の路線を引き継ぐか不明確妙だ」との記述はありますが、せめてケリー氏が議会承認を求めた際の上院での衝撃発言(中国が小躍りして喜んだ・・・)は紹介し、今後注目に値する・・との記述が必要だと思います
●14日来訪予定のケリー氏曰く→「中国の軍事力の増強は、まだ、決定的ではないと信じている。非常に慎重に調べてみたい・・・大統領は、豪州に駐留する海兵隊を増やすという宣言をした。中国人は、それを見て、米国は何をやっているのか、我々を包囲するつもりなのか、と言っている・・・我々は、どう進むべきかについて、思慮深くなければならない」
●海兵隊の分散配置やローテーション派遣や、豪州への空軍機のアクセス強化などの説明でも、「遠ざかる米国(オフショア)隠し」が感じられます。
●これら施策は、肝心な中国から遠ざかることでのResiliency(強靭さ)強化や駐留経費削減が狙いの核心でありことを研究者なら冷徹に分析評価すべきです。米国防省の説明のママ、「政治的持続性」に配慮しつつ、地域同盟国との訓練機会を増やす効果がある「コミットメントを維持する米国」の素晴らしい施策、とのイメージ受け売りスタンスで描かれている点は寂しさを感じさせます。
●また、強制削減の影響の可能性についてほとんど触れていない一方で、同様に未確定部分満載でありながら、海兵隊の再配置やローテーションに関し丁寧に説明する姿勢は極めて不自然です。「遠ざかる米国(オフショア)隠し」の香りがプンプンです
「オフショアコントロールを学ぶ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-13
「Offshore balancingの解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-27
番外編:動的防衛力と元閣僚発言
●最後に動的防衛力について。本年4月2日、前防衛副大臣:長島昭久議員は衆議院安全保障委員会で質問に立ち、自身が政務官や副大臣として深く関与した「動的防衛力」について「実を言うと特に新しいことでもなく、基盤的防衛力時代の昔から動的に運用してきたと言われればそれまでなんですが・・・」と自嘲気味に語りました。
●謙遜しての発言でしょうが、その軽さと無神経さに無性に腹が立ちました。民主党の「これ以下は無い」レベルの防衛大臣群の記憶とともに、空虚な「動的防衛力」という言葉を背負わされている防衛省・自衛隊の人々にとっては、小馬鹿にされたようにしか聞こえない開き直り発言でしょう。
●こんなに軽い本音発言で誤魔化される中、中身無き動的防衛力に義理を果たす必要はないと思います。長島議員から「動的防衛力の記述がイマイチ・・」などと言われる所以はなく、むしろ「東アジア戦略概観」が本当に「研究者が内外の公刊資料に依拠して独自の立場から分析・記述したもの」であるならば、言葉遊びではない「動的防衛力」を塗り替えるコンセプトを打ち出してはいかがでしょうか
動的防衛力に関する長島議員とのやりとり
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-28-1
防衛官僚の論文:動的防衛力が本格有事を想定していない
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-02-26
ちょっと喋りすぎました・・。反省かな・・。
でも結論は良い資料で、良い読み物です。新大学生の皆さんなどに、ぜひお奨めです。
強制削減の影響を語る
「海軍は空母活動停止も示唆」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-01-26-1
「太平洋軍が強制削減の影響を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-06
「空軍2トップが強制削減策を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-01-15
「サンダーバード飛行中止」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-05
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