4月号のAF-Magazineが「エアシーバトルの戦い:AirSea Battle’s Battle」との記事を掲載し、各軍種の縄張り争いや予算獲得競争により、エアシーバトル(ASB)の議論が理念からかけ離れた「泥試合」の様相を呈している様子を紹介しています。
陸軍と海兵隊がASBに対抗するようなコンセプトを発表したり、ASBを利用して装備品をねじ込もうとしたり、A2AD以外の脅威を強調したりする典型的な組織防衛運動が展開されており、ある意味「マイナスの期待」を裏切らないのですが、読むにつれ気が沈む内容です
また、統合参謀本部が発表したJOAC(Joint Operational Access Concept)が、総花的で何ら各軍種を統合する役割を果たせていないことも示唆されています
ASB関連の現場での訓練は・・・
●ゲーツ及びパネッタ前国防長官等の下でコンセプト検討が進められてきたASBは、ペーパー上での検討から、前線でどのように遂行可能かを考える段階になっている
●しかし「クリスマスツリーに関係の薄い飾り物を付けようとする者」や、意図的又は無意識にASBを「誤認識:misperceptions」して否定的な姿勢を取るものが多数存在する
●国防省のASB検討室(大佐以下の20名程度で構成されている)の関係者や海空軍司令部の担当幹部たちは、内外からの「海空軍はASBに夢中になり過ぎ」との批判に対応しつつ、前線部隊との議論や検証訓練を行っている
●昨年11月、空軍の救助部隊が海軍第3艦隊と共同訓練を行い、敵脅威下での海上救助訓練を実施した
●本年2月、米海軍・海兵隊・空軍と英空軍が参加し、米東海岸で経空脅威下での海上進行作戦を多国籍環境にまで拡大して訓練した
●本年2月から3月中旬にかけてネリス空軍基地で実施されたRed Flag空軍演習に海軍航空部隊が参加し、ASBが機能するかを確認し、次のレベルへコンセプト検討を進める資を得た
●「A-10が艦艇攻撃訓練」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-07-25-1
●しかし海空軍間のすき間は依然大きく、潜水艦が浮上時に空軍無人機から情報を入手したり、イージス艦が空軍爆撃機に目標情報を提供するような作戦には、両軍を結ぶネットワークや間隙を埋める装備品、訓練や要領の設定が必要である。
国防省内のASB検討室の評価
●複数の関係者によれば、ゲーツ前長官等は、統合参謀本部の官僚的なプロセス(JCIDS process)に乗せてASBが「でたらめ」になることを避けるため、小規模な検討室方式をとった
●50ページ以下にまとめられたASBコンセプト(非公開文書)は、JCIDS processから切り離して検討したことで成功裏に完成したと広く考えられている。
●一方で、ASB検討室は予算決定に関し権威を持たない大佐クラスの集まりであり、各軍種はそれぞれの論理で検討室と関与し、派遣した要員にそのラインで検討室勤務するようさせている。シュワルツ前空軍参謀総長は「ASB検討室の特徴は、統合職のボスが不在なことである」と表現している
●また既にそれぞれ8万人と2万人の兵員削減に直面している陸軍や海兵隊関係者は、海軍と空軍を中心に据えるASBに対する懐疑的な見方を隠そうともしない。
陸軍を中心とした動き
●陸軍と海兵隊は国防省内がA2AD対処議論に支配されていることに神経質になっており、今はASB検討室に代表者を送り込んでいる
●陸軍は昨秋、地上兵力戦略検討室:Office of Strategic Land Power(OSLP)を特殊作戦軍と協力して立ち上げると発表し、陸軍参謀総長は「将来戦において、我々に必要な能力が何かを検討する」と主張している。海空軍は、OSLPがASB監視と対処をが役割としていると表現している
●OSLPはA2AD対処に関する陸軍の唯一の明確な対応だが、本年3月、陸軍と海兵隊は「アクセスの獲得と維持:Gaining and Maintaining Access(GAMA)」とのコンセプトを発表した。
●約20ページからなるGAMAには、アクセスの脅威となる陸上脅威の制圧と海洋チョークポイント周辺の陸上要衝確保等が将来必要になる等と記されている
不信感を隠さない海兵隊
●海兵隊は公の場でも慎重な姿勢を示している。例えば海兵隊の中将は「ASBが懐疑的なコンセプトだと表現するつもりはないが、戦略にはなっていない」と述べ、ASBは軍が注視すべき能力の一部だけを示しており、当初の狙い以外に活用してはならないと語っている。
●同海兵隊中将は「人々がASBを戦略と捉え、何のために何が必要かを決めるために用いるのではないかと懸念している」と語った
●また複数の海兵隊士官は、ASBに気乗りしない様子を表現し、中国との核戦争に発展する恐れや、リビアやマリで発生した不正規戦を無視するものだと語った。
●ある(海兵隊)高級幹部は陸軍や海兵隊が度々持ち出す主張を繰り返し、ASBは海軍と空軍が大きなシェアと握ろうとするためのコンセプトだと呼んでいる
●陸軍と海兵隊幹部は、各軍種のトップが参加する国防省での会議では、我々の主張を通して予算を獲得するため戦い抜くと語っている
統合参謀本部の微妙な姿勢
●統合参謀本部はJOAC(Joint Operational Access Concept)でASBもGAMAもカバーすると言っているが、JOACは単に統合参謀本部の存在を主張したに過ぎず、ASBに制限を加える結果になっていると考える者もいる
●JOAC作成時の担当海兵隊将軍は、「ASBの範囲を狭めようとする意図はなかった。我々はASB以外の分野をカバーするコンセプトの必要性も議論していた。沿岸戦闘や地上戦闘などである」と語っている
●ASBは特定の装備品と関連図付けて議論される傾向にあるが、もっと広範に海空軍が保有する能力を結びつけ、相互理解を深めて運用するコンセプトであると海空軍の担当将軍は説明している
●ASB推奨者は、「海空軍による海・空・宇宙やサイバー空間の制圧無くして、また海空軍が兵力を展開できなければ、どんな作戦コンセプトも形にならない」と説明する。
●海軍と空軍はASB実現のための必要装備品の長いリストを示しているが、どこまでが正しいのか、どのあたりまでが適当なのかは依然として疑問として残っている
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ゲーツ元国防長官と言う強力な推進役を失い、ASBが漂流を始めています。
中国やイランのように、各種弾道ミサイルや巡航ミサイル、強力な防空網、艦艇攻撃能力、サイバーや宇宙戦能力等々を保有した新たな脅威に対し、限られた予算の中で、海空軍を中心として緊密に連携して戦うコンセプトを考える「素朴な」ASBの原点が埋没しています
この記事は、賛成と反対陣営を対立軸で描き、読者を引き付けようスタンスで書かれており、その読み方は注意が必要です。
しかし予算削減の中、各軍種の組織防衛意識と変革を拒む軍人の本性丸出しの、ドロドロの愛憎劇が繰り広げられていることは事実でしょう。
かなり長い記事ですので、相当意訳してご紹介しました。いろんな事象が紹介されていますので、「軍人観察」にご興味のある方はご確認ください。
ASBの概要を理解する
「エアシーバトルのシナリオ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-30
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
ASBの必要性を訴える
「概要海空軍トップのASB論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19
「ASB担当将軍が訴える」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-02-23
「小論エアシーバトルの実行」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-28
「エアシーバトル批判者に語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-08-29
ASBの限界と代替案を提示
「オフショアコントロールを学ぶ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-13
ASB関連記事
「Offshore balancingの解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-27
「統合ドクトリンJOAC等」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-01-29
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