20日、中立国のオーストリアで行われた「徴兵制」存続の是非を巡る同国史上初の国民投票の結果、6割の賛成票を得て徴兵制が維持される方向になりました。
厳密には国民投票に拘束力はないようですが、徴兵制反対を主張していた与党・社会民主党は結果を尊重せざるを得ない模様です。連立与党の政党間でも賛否が分かれる微妙な情勢のようですが・・。
冷戦終了後、欧州では徴兵制を止める国が相次ぐ中(仏は1996年、独は2011年に廃止)、なぜオーストリア国民の過半数が徴兵制維持を支持したのか・・・その疑問に20日付Defense-Newsが様々な視点を提供してくれています。
非常に興味深く、考えさせられる記事ですので、概要をご紹介します
まずオーストリア軍と徴兵制の概要
●オーストリアの人口はや840万人だが、軍は5.5万人で、その中に6か月間徴兵される若者が毎年約2.2万人含まれる
●徴兵制を拒む者は、その代りに9か月間、身障者施設、老人施設や病院で働くことを義務づけられる。その数毎年約1.4万人
●オーストリアの国防費はGDPの0.6%で、EU内で最も低く、陸軍戦車の2/3を削減する等の装備品削減を迫られている
徴兵反対派の主張
●国防大臣は「対テロ、サイバー犯罪や破たん国家が脅威となる時代に、徴兵制はフィットしない」
●冷戦終了で大きな脅威はなくなっており、大きな軍は必要ない。
●志願兵のみにした方が、練度が高く、士気の高い部隊となり、災害対処やPKO等で活躍できる
徴兵賛成者の主張
●内務大臣は「徴兵制は我が国に手袋のようにフィットしており、将来の課題に最も適応している」
●軍参謀総長は「徴兵制を廃止し、志願兵だけにした場合、軍の質、兵員数、能力の低下が避けられない」
●志願制のみの場合、軍事費は増加するし、現状の規模を維持することは困難。これにより災害対処、コソボやレバノン等で行っているPKOに負の影響を与える
●志願者のみのプロ軍隊になった場合、軍がNATO加盟に誘導し、中立政策を脅かす。
●徴兵を廃止すると、徴兵拒否者が現在老人施設等で行っている業務に穴が開く可能性が高い
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志願制のみで、軍の質や能力が維持できるのか? この点には定説がないようですね。
それにしても、徴兵に毎年2.2万人、拒否者1.4万人が老人施設等で労働・・・。なかなか興味深い制度です
僅か6ヶ月の徴兵期間では、兵士として出来る任務は限られますが、近代国家における若者の徴兵制がその後の人生に与える影響はいかほどなんでしょうか。
興味深い研究になると思うのですが・・・
イスラエルの場合は、徴兵された有能な人材に国家として集中投資し、軍のみならず産業界をリードする技術者に育てたり、徴兵によって築かれた人脈がベンチャー起業を促進したりしているようですが・・
「イスラエル起業大国の秘密」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-20
「画像:イスラエルの徴兵女性兵士」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-20