「欧州が、米国と共にアジア太平洋への防衛関与を増加し深化させると信じている」
「我々の21世紀の安全保障は、共に戦うか、別々に戦うかに懸かっている」
18日、パネッタ国防長官は長官として最後の海外訪問を締めくくるべく、英国のケンブリッジ大学King’s Collegeで「最後の主要政策」講演を行い、同校「War Studies」の学生や教授陣を中心とする聴衆にNATOの将来について訴えました。
NATOの方向性を巡る議論が続く中、財政危機を迎えた欧州各国が国防費を削減し、ゲーツ前長官が退任間際(2011年6月)にアフガンやリビア作戦での欧州の姿勢を厳しく批判、「欧州諸国の皆さん、今からでも決して遅くない。国防機関のあり方と同盟との関係を正常に戻すことが出来るはずだ」と警告してから早幾星霜・・・。軍事費削減は加速し、F-35への及び腰も顕著になりつつあります。
特に、冷戦やNATOの生い立ちを知らない若い世代に軍事同盟維持に消極的な傾向な顕著であり、「War Studies」学生を聴衆に場を設定し、今や単独では対処できない世界共通の脅威への取り組みを訴えています
サイバーにアフリカや中東、そして真打として「アジア太平洋」が登場します。欧州の一番の貿易相手は中国、2番が東南アジア、3番が日本、4番が韓国だろうと・・・
King’s Collegeでパネッタ長官は・・・
NATOは歴史的転換点
●設立から60年以上を経過したNATOは、米国の世界的パートナー関係の基礎であり続けているが、同盟は歴史上の転換点を迎えていると考える
●もし同盟が引き続き有効で永続的な安全保障同盟であり続けるには、厳しい財政圧力の下でも、迅速に多様な脅威に対応できなければならない
●NATOを深化変革させるためには、革新的な協力関係を編み出し、新規分野に投資し、地域の協力関係を構築しなければならない。重要なのは、一国では脅威に対応できないとの事実である。
●米軍は欧州から2個旅団を撤退するが、革新的で柔軟なローテーション配備でプレゼンスを構築する。また地域関係国との訓練・演習を強化して部隊の即応体制を隙間無く維持する
●スペインのロタ島にイージス艦を配備し、ポーランドに新たな航空戦力を配置。また陸軍をローテーション展開させる。新たな協力体制の目に見える投資を費用対効果の高い方法で実施する
新たな分野への取り組みを
●新たな戦線にサイバー空間防衛がある。知的財産の略奪、私企業への攻撃や重要インフラへの攻撃等、サイバー攻撃は我々の政治、経済、生活活動を麻痺させうる。NATOは本分野での役割を考えるべきである
●サイバー防衛の新たな同盟に向け必要な手を打たねばならない。今年、NATOでサイバー防御策を検討する大臣レベル協議をスタートさせたい
●将来鍵となる投資が必要な分野には、無人ISR、宇宙防衛、特殊部隊があるが、国家間でこれら能力を共同保有する時が来ているのではと思う
●欧州以外の国家や地域同盟等と強固なパートナー関係を構築するため、決意を固め積極的でなければならない。
●すでにNATOはアフガンで域外国と協力し、リビア作戦ではアラブ連盟やGCC(湾岸協力会議)とNATOの傘の下で活動している。アフリカや中東での課題に対処するため、アラブ連盟やGCCとの協力を進化させ、アフリカ連合や西アフリカのECOWASとも協力する必要がある
アジア太平洋地域に共に
●また特に、欧州は米国と共にアジア太平洋への防衛関与を増加し深化させると信じている。米国がアジアに軸足を移すことが、欧州諸国に懸念を与えているかもしれないが、安全保障や米国の関与はゼロサムゲームではない。
●欧州の一番の貿易相手は中国、2番が東南アジア、3番が日本、4番が韓国であり、米国も似たような状況である。アジアとのつながりは益々強くなっているのだ。
●2015年には、中国の国防支出が欧州主要8カ国の合計を上回るとの見積もりもあるが、中国との対話は我々共通の関心でもある。NATO加盟国は平和と繁栄の理念を示して前進させる責務を負っている
●このため、米国と欧州諸国は協力し、アジア太平洋地域の安全保障問題に共に努力して行かねばならない。NATOは世界平和と繁栄のモデルであるが、同盟は強くそして大胆に変革できなければならない。
共に戦うか、バラバラか
●今回南欧州を歴訪し、財政問題が厳しいことを目の当たりにした。しかし財政危機によって我々の決意を損ねてはならない
●恐らく後任の国防長官はWW2を直接知らない世代であり、若い聴衆の皆さんもベルリンの壁崩壊後の世代だろう。しかし世代を超え、大西洋をまたぐ同盟は我々の安全と繁栄の基礎である。
●次世代の子供たちの、より良く安全な生活を確保するのは、若い聴衆の皆さんの責務である。我々の国の21世紀における安全保障は、共に戦うかバラバラに戦うかにかかっている。皆さんの選択に懸かっている。
//////////////////////////////////////////////////////////
前任のゲーツ長官も最後の海外訪問は欧州でした。ロシアも含め・・・。やはり、最後に頼るのは欧州です
それにしても、ここまで「アジアへ共に」のメッセージが明確に出るとは思いませんでした
日本人にとってちょっと複雑なのは、パネッタ長官が欧米団結の象徴のように1943年のカサブランカ会談に言及し、原点を思い出そう・・と言ったニュアンスで語っている点です。
この会談は、ルーズベルトとチャーチルがWW2後の枠組みを議論し、枢軸側に無条件降伏を要求することを決めた会議ですから・・・。 チャーチルが当時使用した机に座る写真なんかを公開してみたり・・・
締めの言葉をもう一度
The future security of nations in the 21st century rests on whether you decide to fight together or fight separately. That decision rests with all of you.
トランスクリプト→http://www.defense.gov/transcripts/transcript.aspx?transcriptid=5180
パネッタ長官最後の海外訪問の概要
「欧州4カ国訪問の概要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-01-16
米国防省特設ページ→http://www.defense.gov/home/features/2013/0113_panetta1/
ゲーツ前長官のNATO批判と露訪問
「警告する、NATOの2極化を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-12
「ロシアでCIAの思い出を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-28