INF条約締結25周年に条約破棄を願う

INFGorvy.jpg12月8日は、米国とソ連が相互に射程500kmから5500kmの地上発射弾道ミサイルと巡航ミサイルの廃棄と保有禁止を約束したINF(Intermediate-range Nuclear Forces)条約署名25周年に当たりました
1987年12月8日、当時のレーガン大統領とゴルバチョフ首相によって署名された条は、翌年6月1日に施行され、米側はGLCMとPershing IIミサイルを、ソ連側はSS-20中距離弾道ミサイル等を両国総計2689発廃棄することに合意したわけです
12月8日は真珠湾攻撃の日として日本人には特別な日ですが、今日の周辺軍事情勢を考えると、INFを考える特別な日にもしたいものです
まんぐーすは少なくとも米国にはINFを保有してもらう必要がある考えています
つまり、ロシアがSS-20のようなミサイルを極東に配備することになったとしても、訳の分からない中国や北朝鮮のミサイルに対抗する抑止力を西側として保有すべきと考えます
そこで本日は、昨年夏の記事を再掲載し、INF条約破棄を考えたいと思います
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「INF条約を破棄すべき」
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-18
sigetaH.jpg上記の過去記事は、2011年8月16日付の茂田宏氏のブログ「国際情報センター」を紹介したものです
茂田氏は、同年8月15日付WSJ紙に掲載された論説「害を与える冷戦時代のミサイル条約」を紹介しつつ、米露のみがこの条約に縛られ、その間に条約外の中国、イラン、北朝鮮が米同盟国の脅威となる中距離弾道ミサイルを保有するに至っている状況に警鐘を鳴らしています。
ボルトン元国連大使らのWSJ紙論説
1988年署名された米ソINF条約は500km-5500km射程に地上発射弾道ミサイルと巡航ミサイルの保有を米ロに禁止しており、今のままではその有用性を過ぎてしまっているので、変更されるか、廃棄されるべきである。
chinaecono.jpg●88年当時の冷戦の戦略的状況は過去のモノになった。今日の脅威、中国、イラン、北朝鮮はこの条約の枠外にあるのに、米とロシアはこの条約で制約され続けている
●91年までに米ロの2500基以上の中距離弾道ミサイルは廃棄された。91年以降、この条約の枠外の国は着実にミサイル能力、特に中距離ミサイル能力を増やしてきた。中国は特に急速にそうして、台湾、西太平洋における米軍基地や海軍力に脅威を与えている。
核廃絶を望んでいるオバマ政権は加盟国拡大を好むと思われるが、中国、イラン、北朝鮮がこの条約に参加する見込みはない。
ロシアはINF条約の加盟国拡大がない場合、その遵守を停止すると思われる。その場合、米はロシアの条約侵犯を無視せず、米による遵守を停止するか、完全にこの条約から脱退し、INFミサイル能力の再建を考え始めるべきである。
茂田氏の分析コメント
INFinspection.jpg2008年4月にプーチンがINF条約存続について疑義を出していることを書いた。いま米にもINF条約廃棄論が出てきたことに我々は注目すべきである。この論はそれなりの論理を持っている。
●当時の経緯を復習すると・・
ソ連が80年代初め、SS-20という中距離ミサイルをソ連の欧州部と極東部に配備した。
–当時のドイツのシュミット首相が、ソ連がこのミサイルで欧州の諸都市を攻撃した場合、米はNYやDCを犠牲にする覚悟で、米本土からソ連の諸都市を攻撃してくれるの
かとの問題提起をして、このSS-20の配備で米と欧州の安全保障がデカプリング(切り離し)されることを問題視した。
米国は西ドイツの主張などを踏まえ、結局核搭載パーシングーⅡと巡航ミサイルの欧州配備に踏み切った。それを梃子にSS-20の廃棄をソ連に要求した。紆余曲折があったが、中距離核ミサイルをグローバルに全廃することで米ソは合意した。
●当時、日本はデカプリング論はしなかったが、ソ連極東部へのSS-20には異議を唱えた。当時中曽根総理が力を入れた問題であった。グローバル・ゼロ合意に私は少し関与したこともあり、当時もろ手を挙げて歓迎した。
ASBM DF-21D2.jpgイランや北朝鮮も弾道ミサイルを開発している。その射程はINFの射程に至る。直ちに米本土への脅威にはならないが、わが兵力や同盟国などに脅威になる
ロシアは中国と北朝鮮と国境を接しており、イランにも近いので、この問題を我々以上に深刻に考えている。この条約は今の勢いでは廃棄と言うことになる可能性がかなり高いと判断している。
ロシアが中距離核ミサイルを持つ脅威と、中国などが中距離ミサイルを展開している現状への対応策をどうバランスして考えていくのか、国際情勢判断としても政策問題としても難しい問題であり、真剣に取り組むべき問題である。
非核3原則の問題も新たな角度から考えることが必要になる問題である。
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中曽根総理はよくご存じだったようですが、当時の別の総理はSS-20のことを何も知らずに欧米首脳との会議に臨み、その無知ゆえに恥をさらした・・・。との過去を思い出しました。
CSBAのAir-Sea Battleのレポートや米国の2010年QDRの中にも「INF」の再考を促す記述がありましたが、是非お願いしたいモノです。
長距離攻撃システム(LRS)やPGS(Prompt Global Strike)構想も予算削減でどうなるか極めて不透明ですし、日本での国内議論を活性化させる必要もありますし・・。
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DF-21-1.jpg米国にINF再配備を期待するだけでなく、日本も考えるべきでしょう。日本は、21世紀における米国との脅威の「デカップリング」問題を真剣に考え、自らその対処を考えるべきでしょう
日本の複雑な山岳地形を利用し、移動可能な中距離弾道弾を巧みに隠し、日本自らがA2AD能力を高めることで抑止力を高めることは検討に値すると思います。極めてぜい弱かつ高価な戦闘機への投資に比較すれば・・・
補足&おまけ
「台湾防衛は非対称戦略で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-25
AEIのDan Blumenthal氏による台湾防衛の軍事戦略の提言を紹介
●この戦略には巨艦や最新戦闘機は必要なく、中国のような「接近阻止」能力の獲得を目指し、台湾の周囲を機雷、潜水艦、高速攻撃船、高度の対空防備網、ミサイルなどで固めて台湾を城塞化する考え方
●台湾と日本では、地理的な位置取り、経済的重要性、国土の大きさ等々、いろいろな面で細部に違いがありますが、大陸国家に面した小さな島国である点では変わりなく、台湾に適応されようとしている「戦略」や「戦い方」は、日本も参考にせざるを得ないモノと考えます
「1/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28
「2/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-1
「概要海空軍トップのASB論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19
「脅威の変化を語らせて」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08

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