米空軍ICBMの寿命を気にしつつ

James Kowalski.jpg13日、空軍協会と軍需産業会が主催した会議で、米空軍の大型爆撃機と核戦力部隊を指揮するGlobal Strike Commandのコワルスキー司令官(中将:James Kowalski)が講演し、米空軍の核戦力部隊の建て直しに取り組んでいるが、例えばICBMの品質維持だけでも更なる予算措置が必要だと訴えています。9月14日付AFより
コワルスキー司令官は・・・
議会から命じられいるミニットマンICBMの2030年までの維持を達成するため、同ミサイルのブースターを最近交換した。
●しかし、本交換をもってしても10年間延命できるに過ぎない。2030年までの維持にはもう一度ブースターを交換しなければならず、その計画や準備は今からスタートしなければ間に合わない。
●この他にも、W87 弾頭の信管更新も課題である。2020年代の半ばまでの維持が限界であり、長期的な視点で何が必要なのかを考えていかなければならない
Minuteman Ⅲ.jpg●米露間で合意した新START条約が定めた展開核弾頭の上限1550発は「comfortable」である。
しかし、仮に米国が更なる核弾頭削減を追及しようとするならば、ロシアとの戦力構成のバランスなど種々考慮しなければならい点がある
●今我々が存在する世界は、核兵器全廃の準備が出来ていない。核兵器の能力を比較するには、従来の政治的や抑止力の観点以外にも、人的、知的、工業力的視点等を含めた総合的な議論が必要である。
以上のコワルスキー司令官の講演を理解するため、米空軍核戦力が「どん底」状態(今も僅かに浮かんだ程度)にあった約3年前の記事をご紹介します
/////////////////////////////////////////////////////////////
記事「米空軍の核戦力は大丈夫か?」
2007年、誰も気づかないまま核爆弾を搭載して米国を横断した事案や台湾へICBMの先端部分を誤って輸出する不祥事が明らかになり、ウィン空軍長官とモズレー空軍参謀総長が同時更迭される直接的な引き金になったわけですが、米空軍核戦力の建て直しは容易ではないようです。
Air Force Magazine 2009年11月号の「The “Balanced” Air Force」等より
●組織面での建て直しは
B-52.jpg2009年8月、空軍の保有する核戦力(ICBM,B-52,B-2)運用部隊を一元的に束ねる新たなGlobal Strike Command創設し、態勢の一新をスタート。
ただし、単純にそれだけでは終わらず、将来ビジョン、ミサイル、弾頭、試験設備といった広範にわたるケアが必要とされています。この予算縮減の折りに
●弾 頭
現在の核弾頭は15~30年以上以前に製造されたもので、その品質や威力が保証できない時期を迎えつつある。現弾頭の品質確保と核実験を不要とすることを目的にした更新プログラム(RRWP)が準備されていますが、議会に不評で2010年度予算案から削除(現在も)。
●ミサイル本体
1970年代の代物である450基の現有Minuteman Ⅲミサイル自体も老朽化が進行。誘導装置とロケットモーター部の改修を約6000億円かけて実施し、2020年までの延命を空軍は計画していました。
しかし議会は、本改修を機に2030年までの使用を求めており、空軍補給コマンド司令官は「そこまでは十分な自信がもてない」と述べているところです。
●各種試験・支援施設
Global Strike Command司令官は「空軍は長年にわたりこれら施設に十分投資してこなかった」と語り、現在の施設は「使い古され、疲弊し、骨董品状態だ」と表現。
●人的側面(士気・能力)
Global Strike Command.jpg最も深刻なのが本分野ですが、事件の後の調査では「核戦力運用に当たる部隊や兵士の士気は著しく低く、人事上も低い扱いを受け、核爆弾を扱う専門の兵士の離職が相次いでいた」との状況。
シュワルツ前空軍参謀総長は、新コマンド創設の目的を明確に「核任務に携わる人達に、その働きが重要で価値があり、国家の安全に大切であり、その必要性が将来も変わらないことを再確認すること」と述べるなど問題は根深く、一朝一夕に解決できない問題であることを暗示
●ビジョン
空軍は15年ぶりにICBMシステムのロードマップを最近作成した模様も、上で述べたようにロードマップが簡単に実行できるような状況には無い模様。
シュワルツ参謀総長は「我々は、率直に言えば“無視されてきた”この分野に約4000億円を投資することとした」、「仕事が終わったとは考えていない。我々の仕事は今後も続く」と継続的なフォローが必要なことを強調。
////////////////////////////////////////////////////////////
パキスタンや北朝鮮の核管理を心配する声をよく耳にしますが、「灯台下暗し」のような状況にあることにも目を向けていただきましょう。
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
「米核運用部隊の暗部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-29
「F-35は戦術核を搭載するか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06
「START条約:露の動きを見極め」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-22
「韓国への戦術核導入議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-18-1
Twitterもよろしく→https://twitter.com/Mongoose2011

タイトルとURLをコピーしました