馬車の客車を馬の前に置くようなもの
20日付「Defense News」が、湾岸戦争当時の空軍戦闘コマンド司令官で、米空軍戦闘機パイロットの「ボス」として君臨したロー退役大将(R-Gen. John Michael Loh)の意見記事を掲載し、爆撃機やミサイルばかりでなく空中指揮統制(BMC2:battle management, command and control)能力に投資しなければだめだ、と主張しています。
なお冒頭の言葉は、今の空軍の投資優先順位をロー氏が皮肉った表現です
ロー氏の指摘が本当に事実に基づくモノか判断しかねる部分もありますが、興味深い指摘としてご紹介します。
特に興味深いのは、アジア太平洋地域には韓国の航空作戦センター以外に地上固定の指揮統制施設がないと指摘し、空中指揮統制機が多数必要だと訴えている点で、在日米軍基地が当初から指揮統制面で期待されておらず、米軍はハワイから対中国作戦をコントロールしようとしていることが伺えます
老兵ロー退役大将のご指摘は・・・
●アジア太平洋地域への米軍の方向転換は、東アジアからインドにまでわたる、広大なエリアの監視と陸海空作戦の管理をどのように行うかという課題を突き付けている
●アフガン等では限定されたエリアでの戦闘管理でよかったが、太平洋地域では地上基地数が限定され、予想戦闘地域が遠方であることから、全天候型の広範な地域をカバーできる空中指揮管制機が必要となるが、そのような機体は少なく、将来計画もない
●アジアを考える上で、対リビア作戦が参考になる。リビア作戦時、周辺には指揮統制所は無く、近傍に空軍基地もなく、広域監視装備もない状況であったが、これは広範なアジア太平洋地域を考える上で参考になる。
●リビア作戦の指揮官だったハム・アフリカ軍司令官も空戦力司令官だったウッドワード少将も、NATO各国の指揮官も、皆が空中BMC2無くして作戦の成功はなかったと事後語っている。アジア太平洋地域は大量の空中BMC2を必要としている
●このようなBMC2の重要性にかかわらず、現状の注目は次期爆撃機や長距離ミサイル、新潜水艦や水上艦艇にのみ向かっており、戦いの前提必需品たる空中監視やBMC2には向いていない。
●米空軍は2009年12月からBMC2等の任務遂行に関する調査分析を実施し、本年6月2日議会に対し、費用対効果等の検討結果、ビジネスジェットに監視センサーとBMC2能力を搭載するのが最適と報告した
●しかしシュワルツ前空軍参謀総長は、新装備計画の余裕はなく、現有のグローバルホークやJSTARS等を活用して行かざるを得ないと結論づけた。空軍は増大するアジア太平洋の要求に答える能力向上に消極的姿勢をとった
●多額の資金を投入して装備したA2AD対処の一連の装備品が、目や頭脳の欠落で無駄にならないことを祈るばかりである。国防省の関係者はこの欠落能力に目を向けるべきである
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シュワルツ前空軍参謀総長が選択した現有グローバルホークやJSTARS等の活用での妥協が、どのような不具合を生むのか? ビジネス型の監視・BMC2機がどれほど有効なのか?・・・・等々の疑問は残りますが、広範で地上拠点が少ないアジア太平洋地域で指揮統制が困難なことは想像に難くないところです。
敵は我の指揮統制システムを初動で狙ってくるでしょう。弾道ミサイルや巡航ミサイルで、またサイバー攻撃や対衛星兵器で・・・。被害を受けた状況での戦いを前提とすべき対中国作戦では、何らかの対策が必要でしょう。
なお、ロー退役大将は複数の軍需産業の顧問です。この点も忘れてはいけません。
「1/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28
「2/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-1
「補足米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-2
「有事直前嘉手納から撤退?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-13
「米と豪が被害想定演習を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-02
「グアムで大量死傷者訓練」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-08-1