注目すべきミニ論文登場です!
米海軍大学を代表する論客で、中国軍事力の増強に警告を発してきた日系の準教授が、「在日米軍基地は今後重要となる戦域から遠すぎるうえ、中国のミサイルの射程内にあって非常に危険」だとする論文(4ページの小論文)を発表しています。
インド海軍と中国海軍が衝突とか、マラッカ海峡辺りで衝突とかの論理展開には「?」な部分もあるのですが、岡崎氏の言にあるように「日米同盟それ自体が、第一に地理的有用性を失い、第二に戦略的耐久性を減じつつある」とも読み取ることが出来、無視することは出来ません。
また確かに、QDRには「海外での海軍艦艇展開拠点の確保」も入っていたので、豪での海軍プレゼンス拡大もその範疇かもしれません。(てっきりイラン対応の湾岸諸国での海軍強化かと思ってました・・反省)
・・・反省箇所・・・
「QDRでの中国対処8項目」→http://t.co/ofTogpw
戦闘機ばっかりに投資している日本は馬鹿、とまでは言ってくれてませんが、日本に警鐘を発する貴重な論文ですので確認いたしましょう。以下は同論文の概要を最初に紹介した岡崎久彦氏のブログ「世界の論調批評」の7月8日付記事の概要紹介です。
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Yoshihara准教授の論点
●豪州ローウィ研究所(Lowy Institute) のウェブサイト7月8日付で、Toshi Yoshihara米海軍大学准教授が、在日米軍基地は今後重要となる戦域から遠すぎるうえ、中国のミサイルの射程内にあって非常に危険だと断じ、米海軍力の少なくとも一部を豪州に移管する必要を強く説いている。
●すなわち、インド、中国両国が海軍大国として台頭する中で、覇権争いはユーラシア大陸の東と南の周縁部で生じることになるだろう。つまり、米国はその海軍力を東アジアと南アジアの双方で行使しなくてはならない。
●よって米海軍は今後、実質上、インド・太平洋海軍となることを意味し、それに適合する基地の配置を考えなければならない。
●インド、中国という2強国の海軍力がぶつかるとすると、それはインド洋と太平洋の交錯する地帯、典型的にはマラッカ海峡となる。要するに、海軍力の角逐は、もはや北東アジアに限定はされない。
在日米軍基地の問題と豪の利点
●在日米軍基地の問題は、まず日本は東ないし北にあり過ぎて、南シナ海からインド洋方面へ出て行くには遠すぎる上に、途中に通行の難所がいくつもある。次に、在日基地はすべて中国短中距離ミサイルの射程内に入り、嘉手納など数時間で無力化されかねない。
●一方例えば、シンガポールは地理的に好ましく、米空母専用の停泊所まで設けて便宜を図ってきたが、中国をおもんばかるところが強く、米海軍の恒常的基地にはなれない。
●豪州は、①太平洋・インド洋の双方に近く、かつ途中に通行の難所もない、②中国も豪州は大陸間弾道弾を用いなければ攻撃できない、③ローウィ研究所の世論調査によれば、豪州では、国民の「55%が豪州に米軍が来ることを支持、うち20パーセントが強固に支持」しており、これらのことから、今後は豪州を米海軍の基地として検討すべき。
岡崎氏のコメント
●これは、日米同盟それ自体が、第一に地理的有用性を失い、第二に戦略的耐久性を減じつつある、と読み替えることができ、それも第一級の専門家の言だけに、この先ありうる変化について非常に予言的。
●ヨシハラは目下、米海軍大学を代表する論客の1人で、中国海軍力の増強によって米海軍の優位が危うくなることに強い危機意識を抱いて書いた共著、”Red Star over the Pacific: China’s Rise and the Challenge to U.S. Maritime Strategy”は、ブッシュ政権時代のある日本担当の米国防総省高官に、「日本人の多くに読ませたい」と言わしめた。
●ヨシハラは、横須賀や佐世保が現在のまま続くとは思っていないでしょう。少なくとも、在日米軍基地が今後、規模拡大、能力拡充に向かう可能性は、ほとんど彼の考慮の外と見てよさそう。
●中国のミサイル戦力は、それほどまでに在日米軍基地の価値について再考を強いつつあります。米軍が今の規模でいつまでもいてくれることを無前提に信じ、これに反対したり、騒音発生源扱いしてきた日本は、いきなり冷水を浴びせられることになりはしないか、とつくづく考えさせられる論文。
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岡崎氏のブログ記事で言及がない重要点
●豪の潜水艦はその能力が不十分だが、豪西南部の海軍基地を拠点とする米(攻撃型)原潜は、南シナ海や関連水域で効力を発揮できる。
●豪への米海軍配備の合理性は、1全体から見て地理的均一分散に供する、2残存性が高く継続運用性に優れ作戦を支援可能、3政府もその国民も受け入れに寛容な政治的環境
(上記の3要素は、「地理的に分散し、作戦面で打たれ強く、政治的に持続可能な」との米国防省の基本指針を言い換えた表現といえる)
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Yosihara准教授の主張を裏付けるように、ゲーツ前長官は昨年11月豪との覚え書きを締結し、豪の港湾施設への米海軍の寄港強化や訓練の増加を検討する方向を本年のシャングリラ・ダイアログでも明確にしています。 ↓ ↓ ↓
「豪でのプレゼンス等を強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-09
Yosihara准教授は冒頭で、昨年11月のAustralia-United States Ministerial Consultations (AUSMIN)での覚え書き推進のため、合理的な説明が求められる・・・としてこの論文を書いたと説明していますので、豪国内でも色々反対勢力もいるのでしょう。
岡崎氏が本論を取り上げたのは、米国の政策担当者からの紹介又は依頼があったためかもしれません。それほど公の施策と一致する部分が多いです。
一研究者の論文と言うよりは、米政府が公に言えない政策の方向性を「替わりに言わせている」種類の論文とも見ることが出来ます。
まぁ・・・日本もそろそろ「震災モラトリアム」から自分で抜け出し、いろいろと真剣に考えなければならない局面です。
「前中国で北東から南東アジアへ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-03-1
「後中国で北東から南東アジアへ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-04
「グアム基地を強固に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-12
「嘉手納基地滑走路の強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-09
「中国の南シナ海進出を如何に防ぐ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-07
「2011シャングリラ詳報」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-01
「石破茂・元防衛大臣の怒り」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-24
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「2CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20
「3CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20-1
「4CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21
「5CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21-1
「6CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-24
「最後CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-30
「番外CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-02-1
「Air-Sea Battleの状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1
「Air-Sea Battleの起源」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-24-1