1ヶ月以上前になりますが、9月14日シンクタンクCSBAのガンジンガー上席研究員(Mark A. Gunzinger)が、レポート「Sustaining America’s Strategic Advantage in Long-Range Strike」(以下LRSレポートと呼称)を発表しました。
米軍の将来の長距離攻撃能力(LRS)に関しては、これまで細切れに高官の発言等を紹介してきたところですが、ガンジンガー氏のLRSレポートはこれら発言等をほぼ網羅した包括的なLRS構想の説明となっており、CSBAがQDRや最近のゲーツ長官の発言に大きく関連していることを踏まえれば、国防省内部でのLRS検討原案だとHolylandは考えています。
この点は、カンジンガー氏自身がLRSの元となるAie-Sea Battle関連CSBAレポートの共同執筆者であったことからも明らかだと考えます。
LRSレポートは、米空軍はいま曲がり角に差し掛かっており、本レポートの提案を実行しなければ、これまで米国が維持してきた長距離攻撃能力での優位性を維持できなくなり、必然的に拒否戦略を図る相手に後れを取ると主張しており、今後2012年度予算案を米国防省がまとめる中で大きな争点となると思われます。
なお、ガンジンガー氏のLRSレポートはこちらをを参照下さい
本日は、まずLRSレポートの中身紹介前の「序論」として、本ブログで長距離攻撃能力に関して紹介してきた事項の概要を振り返り、明日以降、LRSレポートの内容を本論として紹介していきたいと思います。
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問題認識の確認
以下のようなゲーツ国防長官発言が示す米軍西太平洋戦略の大転換を前に、日本は冷戦当時(戦後か?)から全く変わらない従来型の防衛力強化を進めていて良いのだろうか・・・との疑問に向き合う必要があると考えています。
「中国のような軍備増強している国を考える際・・・(中略)彼らのサイバー戦、対衛星・対空・対艦兵器、弾道ミサイルへの投資は、米軍の主要なプロジェクション能力と同盟国の支援能力を脅かす。特に前線海外基地と空母機動部隊に対して顕著である。またそれらへの投資は、足の短い戦闘機の有効性を殺ぎ、どのような形であれ遠方攻撃能力の重要性を増す。」(09年9月16日の空軍協会演説)(上図はLRSレポートの使用のイメージ図)
「中国の投資に対応して、米国は、見通し線外からの攻撃力やBMD配備に重点を置き、また短距離システムから次世代爆撃機のような長距離システムへのシフトを求められるだろう」(09年1/2月フォーリンアフェアーズ誌論文)・・・・・
第1歩としてのQDR2010
以上のような考え方を具現化する第1歩として、2月にQDRが発表されました。拒否戦略を遂行する相手への対処として米国防省が掲げた方向性の中核は・・・
●Develop a joint air-sea battle concept
対中国の新作戦コンセプト(対イランも少し)を、空軍と海軍アセットを中心に開発中。洗練された拒否能力を持つ敵対者に対抗するための、陸海空宇宙とサイバー領域にわたる全ての海空軍能力を使用するコンセプトであり、米国の行動の自由を確保し、今後の能力開発の指針となるもの。(左図はLRSレポートの対象イランのイメージ図)
●Expand future long-range strike(LRS) capabilities
今後20~30年のパワープロジェクションを考える検討が進行中。その中には、バージニア級潜水艦の長距離攻撃能力、米空母に搭載可能な無人機N-UCAS(写真左)の偵察・攻撃力、空軍の爆撃機後継に関する生存性を有する長距離偵察攻撃力、海空軍共同の新型巡航ミサイルの検討等が含まれる。
Air-Sea Battleは既にかなり紹介
まだまだ細部が不確定ながら、Air-Sea Battleの概念とその取り組みについては何度も取り上げてきたところです。
(代表的記事)
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「嘉手納から有事早々撤退」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-13
「2 QDRから日本は何を読みとる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-01-1
「Air-Sea Battleの状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1
「どんな兵器:Anti-Access対応」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-04
「Anti-Access環境への対応概念」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-03
「QDRから日本は何を読むべき」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-07
LRS(long-range strike)の状況は?
例えば、空軍の将来爆撃機の検討は、ゲーツ長官が2008年に一端中断して根本的に見直すべきと指示し、仕切直しになりましたが、QDRやJoint Air-Sea Battle Concept検討の中で「ISRと攻撃の一体化」のようなイメージが発信されつつあります。
空軍参謀総長は以下のようなイメージで、2012年度予算には具体的な開発費等を計上したい意向のようです。その方向性は・・・・
●開発リスクの低い、現状で証明済みの技術を用いた長距離ステルス型を念頭に
●有人タイプはオプションとし、他の兵器システムとの組み合わせ(A family ofsystemとして)で総合的に能力発揮
●B-2のように製造コストの高騰で十分な数を調達できなかった例を反面教師とし、十分な数量を確保できる単価で
具体的には・・6月24日、ブリードラブ米空軍作戦計画部長(Lt. Gen. Philip Breedlove, deputy chief of staff for operations, plans, and requirements)が空軍協会主催の朝食会で本件について語っています。なおブリードラブ中将は、まもなく大将に昇任して空軍副参謀総長に就任することが承認されている人物です。
●次世代爆撃機との言葉は死語である。もう次期爆撃機とは呼ばない
●今検討されているのは、ステルス機ではあるが、次期爆撃機のイメージより小型で、濃密なSAMベルト地帯を突破するようなデザインにはなっていない。
●今検討されているのは、より多様なポジションをこなせる選手(utility infielder)である。
●長距離攻撃や突破型プラットフォーム議論の論点の一つは、高コストのプラットフォームと低コストの敵防空網との対峙をどう評価するかである。
●新たな兵器システムに関する議論を明らかにすることも問題になっている。なぜなら相手は公開情報から学び、より強力になるからである。
●歴史上初めて、主要な作戦機の要求が、戦闘コマンドからではなく国防長官室から降りて来ている。
「次期爆撃機とは呼ばない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-24
また・・9月15日カーター国防次官(取得技術兵站担当)はAFA航空宇宙会議で、LRSは電子攻撃、ISR、攻撃、スタンドオフ又はイン、友人・無人等々の複雑なモザイクである。そしてコストとの関係で、最近は見られなくなっていた、国防省をあげてのトレードオフ議論を行っている。ゲーツ長官が望んでいた議論である「AFA航空宇宙会議」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-09-16-1
そして・・・
ついにCSBAがLRSレポート発表
紙面の都合もあり、LRSレポートの概要は明日から2回に分けて紹介します。
長距離攻撃(LRS)システム構想
「本論1:長距離攻撃(LRS)システム構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-26
「本論2:長距離攻撃(LRS)システム構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-26-1
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