6月15日、管内閣が閣議で伊藤忠商事の丹羽宇一郎相談役を次期中国大使に決定したとの報道があり、初の民間人起用とのことで現在も賛成反対さまざまな意見が飛び交っています。
批判的なサイドからは「中国との取引No1商社の幹部に、商売以外の外交まで仕切れるのか」、「経済優先で真の国益を損なうのではないか」との懸念の声が挙がっています。
そんな中、偶然なのか計画的なのか・・・文藝春秋7月号の中国特集の筆頭に、丹羽氏の一文「2015年中国バブルに日本の勝機あり」が掲載されていますので概要をご紹介します。
7月号は6月10日発売ですが、同誌同月号の「霞ヶ関コンフィデンシャル」では、最終的に次期中国大使を藪中事務次官と予想し、岡田大臣も「最後は折れる」と断言調になっているところです・・・
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「2015年中国バブルに日本の勝機あり」の概要は・・・
●「中国はバブル経済だから上海万博が終わったら崩壊する」という苦し紛れの予測は、私から見れば「負け犬の遠吠え」だ。99年から北京市の経済顧問を勤めている体感からして、バブル崩壊はないし、今後も成長し続ける。これが私の答え。
●中国の経済成長を活用することで、日本は再び経済大国になれると考えるべき。日本復活の根本は中国にある。
●「改革・解放」により1980年頃始まった中国の「高度経済成長」期は、あと5年ほど続く。
●しかし2015年以降は、資源調達やインフラ整備の遅れ、また人口増加率減による高齢化で、成長率4-5%の「中位安定経済成長」期にはいる。この時期にはかつて日本が経験したように中間層の消費傾向が変化し、高品質やサービス消費への指向や第3次産業への移行が始まる。そしてこの「中位」期は35年ほど続くだろう。
●2020年には中国のGDPは10兆ドル。つまり日本の倍規模の市場が出現するのだ。
●中国建国以来、中国経済成長の唯一の阻害要因は政治起因の混乱であった。大躍進、文化大革命、天安門事件がそれに当たる。そして現代の問題、地域格差、民族問題、腐敗、水不足等々に対し、中国政府が適切に対応できるかに悲観的な見方もある。
●だが、「弱み」と見られてきた「中国一党独裁」は、今の中国の「強み」となっている。議会などに邪魔されない強力な権限を持つ「国家資本主義」により、国が工業化に力を十分に発揮している。
●しかし「国家資本主義」の「強み」は、「中位安定成長」期に入った時には「弱み」に転じるだろう。その時こそ日本のチャンスである。「世界の工場」だった沿岸部は「世界の市場」になる。
●人々は「中位」期に入ると、高品質、多種多様、良質なサービスを求めるが、中国が国営企業と国有銀行の連携で維持してきた「世界の工場」体制ではこの変化に対応できない。
●このような変化の時期にこそ、日本企業が持つ消費者のニーズに応える開発生産力や迅速な経営判断の能力が、中国市場への大きな武器になる。中国の追い上げは、かつて日本が米国を追いかけたのと同じ。くよくよしても仕方がない。
●日本は新技術と新産業の開発で国際競争力を高めることに勢力を向けるべき。そのため、教育と先端技術に国家予算を向けるべき。
●政府は、日中韓で自由貿易協定を結び、ヒト・モノ・カネの交流を盛んにすべき。自らのビジネスの核を持ちつつ、中韓と協力して利益を出さないと生き残れない。日中韓が一つの巨大市場になれば、日本が東アジアのビジネスセンターとして世界に返り咲くことも可能。
●ユニクロ、アサヒビール、伊藤忠のカップ麺等々、中国との強力で成功した例はいくらでもある。自国で生産し、輸出して利益を出すやり方は、賃金差からもう限界。
●中国でビジネスする際、中国人に対して性善説では必ずしもうまくいかない。お金の力で何とかしようと思ってはいけない。信頼を気づくことが重要。「仁」と「信」、つまり愛と信用が大切。
(以上が丹羽宇一郎氏の主張)
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無論、これは経済人の立場、つまり商社幹部として日本企業の中国進出を促進したいとの立場での文章ですから、あまりつっこんでも仕方がないでしょうが、気になります。「家族ぐるみのつき合い」や「愛と信用」を文章の締めにされては・・・
中国と巧くやっていきたいのは山々ですが、そうでない側面とどのように折り合いを付けていくのか・・・。ガス田や領土問題、軍事力増強や靖国・・・。その辺りを含めてトータルにお話を伺わないと、中国側の思うつぼでは・・・。
これを読んだ中国の人は、経済を餌にすれば日本を思い通り操れる、と考えそうな気がします。
もう一つ・・・「バブル崩壊はない」はちょっと極論では・・影響の大小はともかく、世界経済は「崩壊」を折り込み始めているのでは・・・
更に・・「中国政府が適切に対応できるかに悲観的な見方」が、一部でも現実化した場合の対応を考え提案するのが現場の大使です。どうも沿岸部の繁栄ばかりに目を向け、リスクに関する議論を避けたような感じです。
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