Holylandが尊敬する茂田大使のブログ「国際情報センター」に、表題に関する記事の紹介がありました。その概要を紹介し、僭越ながら若干補足・コメントさせていただきます。
1月8日付ロンドン・タイムズ紙は「イスラエル、“鉄のドーム”ミサイル防衛の実験は成功したと発表」との記事を掲載している。その概要、次の通り。
「イスラエルはガザや南レバノンの戦闘員が発射するロケットを迎撃する“鉄のドーム”対ミサイル防衛システムが成功裡に実験されたと発表した。・・・軍事専門家はこのシステムは飛来するミサイルをレーダーで探知、到達場所を判別し人口のある地域へのミサイルを撃墜する。(中略)“鉄のドーム”は4kmから70kmの射程のミサイルを止められ、ガザからの迫撃砲弾からレバノンのヒズボラが使うイラン製のファジール・ロケットにも対応し得る。
(中略)
この“鉄のドーム”システムの有効性は今の段階では判断しがたいが、こういう防衛システムができれば、理論的には昨年のガザ攻撃のように発射源を叩くということで猛烈な爆撃をする必要がなくなるし、ヒズボラなどの有効な攻撃手段が無害化されることになる。よいことであろう。
(中略)
北が韓国に近いところに配備した大砲その他からの砲弾は止められない、発射後に位置測定をして大砲を破壊することはできるが、最初に発射されたものはどうしようもない・・・この“鉄のドーム”技術はそういう状況を変える可能性を秘めているかもしれない。(中略)この“鉄のドーム”も、日本の技術者が、機会が得られるのであれば、見てくる価値はある。(以上「国際情報センター」からの引用)
(以下、Holyland補足)
脅威になっているロケット弾は、極めて原始的で誘導装置もなく破壊力も限定的ですが、安価で製造も簡単であり大量に入手可能なことから、ヒズボラやハマスなど過激派組織がイスラエルへの兵器として使用し、先のヒズボラとの紛争でイスラエルは手痛い被害を受けました。茂田大使もご指摘のように、ガザから発射される「カッサム・ロケット」でイスラエルはガザ侵攻せざるを得なくなりました。
僭越ですが、大使のご意見に若干コメントさせていただきます。
●「鉄のドーム」システムは、ロケット弾を迎撃するためにミニ迎撃ミサイルを発射するのですが、対処時間に余裕のないロケット弾発射から4km以内の地域では迎撃が出来ません。更にガザ周辺の「カッサム」被害地域のほとんどが4km以内にあることから、代表的な被害都市スデロットの住民が以下で述べるレーザーシステム導入を要求して裁判を起こすなどしています。
●安価なカチューシャやカッサムロケットに、その百倍もするミサイルで対抗するのか? 相手の思うつぼでは? との議論があります。
●近距離地域で期待されていたのがレーザー光迎撃システム(The Nautilus / Skyguard 写真左)で、初期投資は多少掛かりますが、かなりの迎撃成果を期待できることからこちらのシステムを押す関係者が多いそうです。実際、ヒズボラ正面の北部ではレーザーシステムの試験が進んでいたとも報じられています。
●ハアレツ紙は、イスラエル政府は本迎撃システム輸出時の投資回収を選定の重要事項と捕らえ、イスラエル国産に近い「鉄のドーム」を選んだのでは・・との分析をしています。レーザーの方はノースロップ・グラマンが主体だそうです。
●複数ロケットへの同時対処能力やコストの比較ができるデータがないので、単純な比較が難しい面も残されています。組み合わせるのが最適かもしれません。
●北朝鮮の砲弾は、ロケット弾より飛翔速度が遙かに早いので「鉄のドーム」では困難と考えます。ただし、北朝鮮が配備を開始した短距離弾道ミサイル(KN-02 射程100km程度)への対応の参考になる可能性はあるかもしれません。ただし、ロケット弾と弾道ミサイルでは飛翔速度の違いから迎撃の難しさが格段に異なるので注意が必要です。
●イスラエルの技術にはおもしろいものが多いので、積極的に日本も参考にすればよいと思います。完全に大使に同意です。
日本の22年度防衛費に、「巡航ミサイル攻撃等への対応」予算が計上されました。通称CMD。「防空用高出力レーザー」と「中距離SAM」の組み合わせを検討していくようです。全く新しい概念なので今後が注目されます。
コメント