何度もここで取り上げた様に、2010QDRに示された対中国を意識した「Anti-access(接近拒否)」環境への対応は、空母搭載の無人機、長距離ステルス巡航ミサイル、潜水艦発射ミサイル、無人潜水艦、それに加えて検討に着手したばかりの米空軍爆撃機の後継など、無人機やミサイルが中心です。また、敵防空網の制圧に必要な電子戦機は海軍のEA-18G又は無人デコイMALDといわれています。
更に、空軍爆撃機の後継は単純な「B-3」ではなく、復数システムの一端を担う、成熟技術の組み合わせで製造されるであろう無人と有人機の組み合わせのようなものになるといわれています。つまり、米空軍のパイロットが華々しく活躍する場面がありません。つまり、米空軍操縦者の出番は極めて限定されて行くことが見えてきています。
シュワルツ米空軍参謀総長は昨年9月、「過去数十年の間には、空軍が戦いをリードし、他が我々をサポートすることもあった。しかし、今現在の戦いは地上部隊の力を必要としている。我々は躊躇無く地上部隊の成功を支えねばならない。そして彼らに成果を語らせよう」と正面から空軍関係者に語りかけ、地上作戦支援のためのCAS(近接航空支援)の戦技開発やIED(簡易爆弾)を無効化する電子戦装備に優先投資を行っています。
そんな中、湾岸戦争当時の戦闘機パイロットの親玉、ロー退役空軍大将(John Michael Loh)が3月号のAir Force Magazineに「The Simulation-Reality Mismatch」との論文を寄せ、最後の「あがき」を見せています。
ちなみに、当時画期的といわれた湾岸戦争の航空作戦計画を「挑戦的すぎる」と反対していたのがロー元大将です。シュワルツコフ将軍が大賛成だったので良かったのですが・・・
その概要は・・・・
●(QDR等の描くAnti-access環境では、)ステルス戦闘機やB-2でも受け入れがたい損害を被ると仮定し、無人機や長距離巡航ミサイルによる対処を念頭に置いているが、その見積もりは間違っていないか。
●過去において、多くの場合シュミレーションは損害率を大げさに見積もってきた。例えば・・・
ベトナムのラインバッカーⅡ作戦 予想33% 結果2%
ベッカー高原(イスラエル空軍) 予想10-20% 結果ゼロ%
湾岸戦争 予想70機 結果27機 0.4%
●このようにシュミレーションは、どの要素が戦いに影響を与えるのかを分析するには良い面もあるが、戦い全体の損耗を予想するには誤差が大きすぎる。1対1の戦いの積み上げ計算では、実戦の複雑な環境をシュミレートすることは困難。
●シュミレーションは年々発展しており正確性は向上しているだろう。しかし米空軍は、継続的な新技術への投資、人知を結集する伝統と厳しい訓練、更には有人機が持つ変化への適応性と操縦者の柔軟性によって過去予想を3回(上記の例)くつがえしてきた。
●脆弱なリンクに頼り、状況認識能力と対応力の低いスタンドオフ攻撃兵器や無人機だけでは任務は遂行できない。引き続き、爆撃機、戦闘機、電子戦能力、兵器等々に投資を続けなくてはならない。(以上記事概要)
米空軍現役戦闘機操縦者等の代弁者たるロー元大将の記事が示すこと2つ・・・
●米空軍自身が、現行のAnti-access環境対処方針では、もはや過去のような栄光ある出番がない、ことを痛切に認識している。
●ロー元大将の意見が100%正しくても、かなりが無人機に置き換わることに対し有効な反論は不可能、であることを返って明確にしている。
最近の日本の航空関係雑誌が、しきりに戦闘機や湾岸戦争を取り上げて部数確保に走るのは人情ですから仕方がありません。大空へのあこがれは戦闘機やジェット機がはぐくんできたのですから・・・。
しかし時代はもっと「どす黒い」「陰湿な」脅威を生み出しました。そこは切り替えていかなければならないところです。今の時代に生きるつらさ・・・です。
「嘉手納から有事早々撤退?」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-13
(付録)
「Air-Sea Battle Conceptの状況」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1
「(Ver.2)QDRから日本は何を読みとるべきか」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-01-1
「QDRから日本は何を読みとるべきか(Ver.1)」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-07
「米の対中国新作戦は「Joint Air-Sea Battle」」)
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-05
「Joint Air-Sea Battle Conceptは平成の黒船」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-09
「どんな兵器を:Anti-Access環境対応」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-04
「Anti-Access環境への対応コンセプト」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-03
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