ゲーツ国防長官は、非対称でない伝統的な戦力分野で、米国は中国に対して当面の間それほど懸念を持つ必要はないだろうと述べています。
例えばフォーリンアフェアーズ誌論文(09年1/2月号)
●朝鮮半島であれ、ペルシャ湾であれ、台湾海峡であれ、必要性が生じれば、侵略を抑止して懲らしめるに足る豊富な(通常)戦力を我が海空軍は保有している。
また、ゲーツ長官が作成した2008年「国家防衛戦略」では、
●通常戦の世界における米国の圧倒的優位は不可侵なものではないが、現下の情勢からすれば中期的には優位は維持される
更に昨年9月空軍協会総会で・・・
●中国に関して言えば、中国が最初の5世代機を保有する時点で、米国はF-22とF-35を併せ1000機以上の5世代機を保有しているのである。そしてその差は2020年代にも拡大するであろう。
●他国との差は、技量や兵站部門で見ればより顕著である。昨年米軍は35000回の空中給油を行ったが、ロシアは30回のみである。我がF-22、F-35と既存機のコンビは航空優勢を将来にわたり確保するであろう。
●活躍の場が飛躍的に拡大している無人機は5世代機とともに相手を蹴散らし、米国の戦いに新たな次元を加えるであろう。
しかし、上記のような表現のみを断片的に捕らえていては、全体を誤解します。
ゲーツ長官の中国軍事力への視点は以下に凝縮されています。
●中国のような軍備増強している国を考える際、対称的な挑戦、つまり戦闘機対戦闘機や艦艇対艦艇のような挑戦を米国が懸念する必要はそれ程ないだろう。しかし、彼らが我々の機動を妨げ選択肢を狭める能力には懸念をもつべきであろう。
●彼らのサイバー戦、対衛星・対空・対艦兵器、弾道ミサイルへの投資は、米軍の主要なプロジェクション能力と同盟国の支援能力を脅かす。特に前線海外基地と空母機動部隊に対して顕著である。
●またそれらへの投資は、足の短い戦闘機の有効性を殺ぎ、どのような形であれ遠方攻撃能力の重要性を増す。(以上空軍協会での演説)
同様の表現はフォーリンアフェアーズ誌論文にもあり
●中国の投資に対応して、米国は、見通し線外からの攻撃力やBMD配備に重点を置き、また短距離システムから次世代爆撃機のような長距離システムへのシフトを求められるだろう。
(関連記事)
「ゲーツ改革のまとめと整理」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-17
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しかし軍全体のスクラップ・アンド・ビルドを目指すゲーツ改革の全体を見ない批判も多く見られます。その多くは、中国の軍事力近代化を列挙するタイプで、財源を明確にしません(身近にもそんな例が・・)
最近も米議会主催の米中経済安保再検討委員会で、以下のような理由でゲーツ長官のF-22や次期爆撃機や各種システムへの慎重姿勢を批判しています。
「Air Force Magazine」8月号の巻頭言より
Wayne A. Ulman, the China issues manager at the National Air and Space Intelligence Center
中国空軍の進歩はめざましく、技術的に劣る空軍から、よく装備されかなり訓練された空軍に変わりつつある。2020年には世界でも最強レベルの空軍となるだろう。また中国はF-22と同等の戦闘機をゲーツ長官の見積もりよりも早く2018年には保有するだろう。
Richard D. Fisher Jr., a China airpower expert of the International Strategy and Assessment Center
中国の軍事力近代化により、米空軍のアジア地域での確実な航空優勢確保は終わりを告げ、圧倒的なプレゼンスは失われる。
Roger Cliff, a RAND Corp. analyst
中国は既に、米国のアムラームや露のAA-12クラスの空対空ミサイルを生産し、レーザー、TV、衛星使用の精密誘導兵器を製造している。
ドクトリン、訓練、兵站等の分野は未知数だが、中国空軍は多くの分野でめざましい進歩を遂げている。防空システムにも膨大な経費が注入されており、2000年以降、SA-20や同等のSAMを導入開始している。
Jeff Hagen, engineer-analyst from the RAND Corp.
中国の弾道ミサイルは米軍の地域拠点空軍基地の脅威である。中国は韓国のオーサンとクンサン基地を480発の弾道ミサイルと350発の巡航ミサイルで、日本の嘉手納、三沢と横田を80発の弾道ミサイルと350発の巡航ミサイルで攻撃することが出来る。
これらの攻撃により、米軍は明らかにかなりの期間、中国周辺にほとんど作戦基盤基地が無い状況に置かれる。
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最後の弾道ミサイル関連は新たな見積もりで大変興味深く、他の指摘も間違っていないのですが、財源や改革手法を示さないで「軍事増強」のみを訴えるスタイルです。
脅威を訴えるだけでは・・大戦略に勝る中国に負けますよ・・。
これらの批判は、先日紹介した京大教授・中西輝政氏のVOICE論文と同類です。
「中西輝政氏に助言する」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-27-1
「Air-Sea Battle」等のコンセプトを打ち出し、新たな装備体系への移行を図ろうとしてる途上なのですから・・
まぁ・・うまくいくかどうかは別の問題として・・・
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