1月17日付産経新聞の文化面が、イスラエルを支える思想を根底から否定する本『ユダヤ人の起源』の紹介を、著者であるテルアビブ大学のシュロモー・サンド教授(64歳Shlomo Sand:現代欧州史)への取材を交えて行っています。
欧米でベストセラーとなり、イスラエル国内でもベストセラーとなった本の論点は・・・
サンド教授が否定する歴史の通説
●聖書の時代から現代まで続くユダヤ民族は、約2千年前にローマ帝国によって古代ユダヤ王国(ソロモン王などが登場)が滅ぼされ、故郷を追放された後、離散と流浪の末に「約束の地」に帰還して再び自らの国を興したとされている。
●1948年にナチスによるユダヤ人虐殺を受けて始まり、イスラエル建国の原動力となったシオニズム(“エルサレムのシオンの丘に帰る”という祖国建設運動)がこの具体的現れである。
●19世紀末に欧州諸国の排外主義的ナショナリズムに刺激されて発生したこの思想は、旧約聖書を根拠として「神が与えた約束の地カナン(パレスチナ)」をすべてのユダヤ人が帰るべき場所と定め、いまもイスラエルの国家理念であり続けている。
サンド教授の主張
●サンド教授は、この物語に徹底的な批判を加える。2千年前にローマに反乱を起こして敗れた後も、7世紀以降にイスラム勢力に支配されてからも、農民である古代ユダヤ人の子孫たちが農地から離れるのは難しかった。古代ユダヤ人の多くはイスラム教に改宗し、パレスチナの地にとどまった。追放と帰還の物語は、後世に「発明」された話だ。
●「パレスチナ占領の際、『ユダヤ人』という存在がなければ正当性を証明できなかった」と指摘するサンド教授は、現代イスラエルのユダヤ人と古代ユダヤ人の連続性を否定する。
●皮肉にもイスラエル建国の際に住む土地を奪われ、いま同国内で「アラブ人」と呼ばれているパレスチナ人こそが、シオニズム運動を主導し、社会の上層部を占めるヨーロッパ系ユダヤ人よりも、古代ユダヤ人の子孫の可能性が高いという。
非難を浴びながらもサンド教授は・・・
●「シオニストからはユダヤ人の否定者だと非難されたが、彼らこそ“イスラエル人”の存在を否定する者たちだ」と反論する。教授は反シオニズムの態度を取りつつも、イスラエル国家の存在自体は認める“穏健派”の立場だからだ。
●「(ユダヤ人国家という神話に固執する)シオニストたちがかえってイスラエルそのものを危うくしている。ユダヤ人国家という考え方を突き詰めていけば、イスラエルは(凄惨(せいさん)な民族紛争が起きた旧ユーゴスラビア連邦の)コソボのような状況になってしまう」////////////////////////////////////////////////////
出典の記憶が不明確ですが、イスラエルの研究者が、DNAレベルでイスラエル国内のユダヤ人とパレスチナ人を遺伝的に比較したところ、異なる民族どころか兄弟と見るのが適当、との結論に至ったとのことです。
「ローマに敗れても、イスラム勢力に支配されても、農地を離れるのは難しかった・・・」との説明は、移動が今のよう容易でなかった当時の状況を踏まえれば、十分にあり得そうな事であり、自然なことのように思えます。
パレスチナ人は難民のイメージが強いかも知れませんが、イスラム世界の中でも飛び抜けて子弟への教育意欲が高く優秀で勤勉であり、イスラエル建国で追い出されてもイスラム世界の各国で医師・弁護士・教師・技術者として大活躍しています。この辺りもユダヤ人と似ているところです。早く仲良くなってもひいモノです。
『ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか』
(武田ランダムハウスジャパン・3990円)
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