後半:陸軍士官学校で最終講義

現場で多くの部下の命を預かり、また裁量範囲の広い現地プロジェクトに取り組んだ発想豊かな若手士官が、本国で過去のパワポの微修正や事務的な恒常業務をやらされている現実が私を震撼させる
westgates2.jpg昨日に引き続き、2月25日にゲーツ国防長官が陸軍士官学校で行った「最後の講義」の後半をスピーチ原稿からご紹介します。
昨日は、「どう訓練し何を装備するか」と「陸軍の文化を現実の戦略環境に如何に適応」について、本日は「最大の懸念、昇任や補職制度を変えられるか」と「士官候補生に激励と感謝を」の部分です。
3:最大の懸念、昇任や補職制度を変えられるか
●私の最大の懸念は陸軍の凝り固まった官僚的で制度的な人材配置と評価制度を、戦場経験豊かな若くて優れた人材を育てるべく、陸軍自らが改革していくことが出来るかにある
陸軍はイラクやアフガンへの部隊のローテーションに手一杯であり、若手士官も目前の任務を遂行するのみ精一杯である。
westgates.JPG●また一方で、現場で多くの部下の命を預かり自身の采配をふるった現場や多額の資金を自ら運用して現地プロジェクトに取り組んだ経験を持つ若手士官が、本国の部隊で過去のパワポスライドの微修正や事務的な恒常業務をやらされている現実は私を震撼させる
●あるレポートによると、現場から帰国した中堅若手士官が陸軍を去る大きな原因の一つは、個人の業績を評価せず、皆を同一に評価するやり方にあるという。
●数十年間に渡り公的機関を率いた経験からすると、組織の上位2割と下位2割に注意を特に払う必要がある上位2割には責任とチャンスを、下位2割には適切に評価され淘汰(transition out)されるよう注意しなければならない。
●大組織にはびこりがちなリスクを回避し過ちを避ける文化と戦うため、より改善改革を評価し、個人に注目する士官の評価制度が求められている
陸軍の文化を変えるには、「経歴管理や昇任評価基準を変えるのが一番効果的」との研究がイラク戦争経験者によって成されているし、アフガン米陸軍の指揮官からも「グーグルと人材獲得を競い合って優秀な人材を確保するには、陸軍の評価システムを改革することがmust doである」との意見が提出されている。
士官候補生に激励と感謝を
●ここまで陸軍が抱える課題や若手士官の欲求不満について触れたが、それでも私は、君たちが陸軍士官の道を選んだことが正しい決断だったと信じている
westgates3.JPG困難や苦悩、犠牲は現実のものであろう。しかし君たちには限りなく大きい機会が与えられる。それは多くの人命を預かると言ったことだけではなく、その任務や決断が歴史の方向をも変えうる点である。
●また、君たちが指揮しリーダーシップを発揮し、責任を負い、自己を抑制する時、君たちの可能と思う領域は更に拡大されるのである。
より安全で、より快適な、そしてより高給な職ではなく、陸軍士官の道を志してくれたことに感謝する。私が国防長官である限り、私は君たちが誇りを持って任務に就き、無事帰国することを唯一の祈りとし、最善を尽くす。
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「空軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
「陸軍の明日を指揮幕僚大学で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-08
「前:陸軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07-1
現在のペンタゴンや各軍種の参謀本部は、主に戦争準備のための機構になっており、戦争遂行用にはなっていない」と士官候補生の前で言い切るゲーツ長官ですが、困難な時代に志願して難関の士官候補生になった若者へのメッセージには「凛」とした使命感と責任感が漂っています。

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