防衛研究所の発行する紀要の第13巻第2号(2011年1月)に、剱持暢子(けんもちのぶこ)1等空佐(統合幕僚監部総務課)による「米国の備蓄核兵器に関する一考察」との論文が掲載されています。
この論文は、防衛研究所第57期一般課程提出論文(優秀賞を受賞)に、加筆・修正したものだそうですが、なかなか普段話題にならない(少なくとも日本では話題にならない)分野ですので、その「さわり」をご紹介したいと思います。
米国の核兵器運用部隊の「劣化」については、まんぐーすも何回かご紹介し、Global Strike Commandの設立と部隊の立て直し努力と苦悩を取り上げてきましたが、より本格的に米国の「核兵器の現状」について興味のある方はどうぞ。
論文「米国の備蓄核兵器に関する一考察」の概要は・・・
●米国が現在保有する核弾頭は、冷戦期に製造されたものが大部分であり、製造時に想定された設計寿命を既に大きく超えている。したがって、その劣化対策として核弾頭内の構成部品について継続的な検査を含む信頼性の維持が喫緊の課題とされている。
●その有効な手段の一つには核実験の実施があるが、米国は1992年以降のモラトリアムにより、現在核実験の計画が中止されており、この方法以外でこれら備蓄核兵器の信頼性をいかに維持するのか米国内で議論が継続されてきた。
●また、米国は核実験だけでなく核弾頭を組み立てや新型の核弾頭開発も中断していることから、近年では核兵器に関する米国の技術水準低下やその生産に関する産業基盤の弱体化に対する懸念も聞かれるようになっている。
●オバマ政権のNPR(核態勢見直し)は、核兵器削減と現存する核兵器の安全で効果的な備蓄の維持を目標とし、これまでの課題にある程度応える内容となっている。
●例えば、核弾頭の寿命延長の方法をこれまでより柔軟にし、新たな設計による代替の余地を加えるとともに、弱体化が懸念されていた核兵器コンプレクスや人的資源への投資を盛り込んでいる。これらにより米国の備蓄核兵器の信頼性が向上すれば、備えとして保有している核兵器を削減することができ、他の核兵器国の軍縮にも影響を与えることが期待される。
●また、核実験なしに備蓄核兵器を維持できるのであれば、米国のCTBT批准の大きな原動力となり、ひいては国際的核不拡散体制の強化につながりうる。
●このように米国の備蓄核兵器については、その信頼性の維持のみならず、波及する分野も考慮し継続して注視していく必要があると考える。
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概要だけ紹介すると「抽象的」な内容なのですが、論文には具体的な数字やグラフ、種々の核弾頭維持や試験プログラムが詳しく紹介されており、何かと参考になります。
参考文献の脚注もしっかりしてますので、ご専門の方はどうぞ
核兵器関連の記事
「米核運用部隊の暗部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-29
「米軍核戦力は大丈夫か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-11-28-1
「米空軍核専用コマンド創設へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-08-08
「START条約:露の動きを見極め」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-22
「F-35は戦術核を搭載するか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06
「核抑止の代替?CSMについて」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-25
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