14日、ジョージ・ワシントン大統領研究図書館の開館式にゲストスピーカーとして招待され、自身が座右の銘としてきたワシントンの言葉やエピソードを交えつつ、今日も変わらず米国が直面する課題、すなわち米国の理想と世界の現実の乖離にどう向き合って対応していくかについて語りました。
ゲーツ長官のこのようなスピーチを初めて読みました。大統領候補に担がれる可能性も否定できないと感じる内容です。国防省HP記事とスピーチ原稿
ズバリ主題は、中東・北アフリカで最近数ヶ月盛り上がりを見せている、変化を求める民衆暴動と米国の対応です。
長年、米国が地域安全保障の要として友好関係を築いてきた国が直面する、「民主化」や「国民参加」を求める国民の叫びを前に、米国はどう対応すべきなのか・・・。結論は、そう慌てないで、じっくり構えて長い目で見ていきましょう、のようです。
非常に慎重で婉曲的な表現が続くのですが、まんぐーすの独断でまとめると・・
●米国は、その掲げる「自由」や「平等」の信念を忘れてはならない。テログループやならず者国家に対する時、苦しい時こそ、その理想が生む価値を信じてともに進まなければならない。
●一方で、我々の理想と相容れない国があり、そして変革を求める民衆の動きに直面している場合でも、米国はその国を厳しく批判する前に、自身が現在に至るまでの長い道のりを振り返らねばならない。フランス革命に背を向け、奴隷制度を維持した国が、アフリカ系米国人大統領を持つまでに至った長い道のりを・・・。
●同時に我々は、完全な理想型が限定的な場合にしか実現できないことを肝に銘じつつも、理想の追求を捨てることは許されない。
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格調高いスピーチですので、後は使用されたエピソードをランダムにつまみ食いさせていただきます。
●建国間もない米国で、過激な民衆運動のフランス革命を支持するか、英国等を支持するかで国論が2分されたことがあった。その際ワシントンは、フランスには中立の立場を取り、英国との平和条約に進んだ。建国の理想を捨てるのか、との激しい非難をワシントンは浴びたが、脆弱な米国経済基盤を考慮した末の決断だった。
●理想主義と現実主義のバランスを取った決断であった。今日オバマ大統領は同じ問題に直面しているのである。ワシントンが直面したジレンマは、米国が持つ民主主義の理想と願望、それと他国との関係をどのように折り合い付けていくかにあり、今日もそのジレンマは変わらない。
●同様の図書館をニューヨークに設けたルーズベルト大統領はこう述べた。「過去から学ぶ能力の容量によって、どれだけ未来を切り開いていけるかが決まる」
●1778年、ワシントンは当時の議会の状況を次のように描写した。「政党内外のごたごたや個人間の言い争いが主要な仕事になってしまっている。一方で膨大な負債が累積し、財政は破綻し掛かり、通貨の価値が下がり、信用が低下している。しかしこのような課題の解決は、日々、毎週、それがまるで素晴らしいことであるかのように先延ばしされている」
●ワシントンが大統領当時の初代国防相ノックスは、当時最大の課題であった海賊対処のため、米海軍初となる艦艇6隻の建造を進めた。しかし利害渦巻く議会との交渉の末、6隻を、6つの異なる州の、6つの異なる造船所で建造することになった。ものごとはそう簡単には変わらない・・今でも。
●独立戦争さなかでも、ワシントンは自身の戦争指揮に関する意見を聞く機会を定期的に設けた。そして反対意見や批判が出るのを抑えようとは決してしなかった。彼は「私は、私が犯したミスや失敗を聞くことに堪えることが出来る。他人の意見に向き合いたい向き合えると願う者はそうしなければならない。なぜならそうすることで人は誤りを正すことが出来るからだ。」
●私は国防長官として、ワシントンの信念を胸に刻んでいる。「平和を保つため、戦争に備えなければならない」
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まんぐーすは「米国大好き」で本ページをやってるのではありません。「他人の振り見て、我が振り直せ」でやってます。念のため。
ゲーツ長官の外交関連講演や会見
「米国の理想と世界の現実」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-16
「他国はなぜ米国と付き合うか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-12-02
「米外交の軍事化を警告」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-15-1
学生の卒業式や少年への講演
「CIAでの失敗を高校で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-25
「大学で「公への奉仕を」」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-12-22
「ボーイスカウトの精神を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-29
「ROTC学生へ 4軍が抵抗」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07
「空軍は単に飛んでいたいのか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-02