Airforce Magazine8月号の編集長による巻頭言が「The False Death of Airpower」とのタイトルを掲げ、エアパワーに漂う悲観論に反論しています。
この巻頭言掲載のきっかけは、軍事歴史家Martin van Creveld氏による「The Age of Airpower」とのエアパワー衰退論を主張する本の出版で、本の主張に反論する形で巻頭言がまとめられています。
議論がうまく噛み合っていないような気もしますが、「視点の提供」との趣旨で巻頭言の概要をご紹介します。エアパワーへの疑問と反論をピックアップして・・・
編集長の導入コメント
●1957年10月、ある雑誌に「空軍飛行部隊に近づく死」と題する記事が掲載され、誘導ミサイルの登場で有人飛行機が無用の長物になる瀬戸際にあると警告を発した
●この頃、ペンタゴンの廊下のあちこちで同様の会話が聞かれ、記事が述べる「あと10年で空軍はミサイルに取って代わられる」との主張は軍や産業界に強く響いていた。
●このような懸念は定期的にこれまでも表面化したが、最近「The Age of Airpower」との書籍がこの懸念を取り上げ、見せかけの証拠を挙げて議論を進めている。
エアパワーへの疑問と反論
疑問1:高価で少数しか導入できない航空機を導入しても、あまり効果に変化はない。敵も同様の能力の航空機を装備して対抗してくるから。また、例えば現在の近接航空支援CAS要求から支援航空機到着までの平均時間25分は、第2次大戦時の英空軍による北アフリカ作戦での平均時間から進歩がない。
反論1:第2次大戦時のデータが不正確。仏軍の記録では1時間以内に支援が得られることは希だった。25分は大きな進歩である。更に、攻撃の精度は飛躍的に向上し、友軍相劇の危険は激減している。
疑問2:装備品が余りにも高価になり、作戦指揮官が高価な装備品(B-2やF-117)を作戦で使用することをためらう。
反論2:B-2やF-117はセルビアやイラクやリビア作戦で戦闘に参加し、活躍したではないか。
疑問3:対テロ掃討やCOINにエアパワーは非効率・効果も少ない
反論3:対テロ分子や非対称戦に苦労しているのは、陸・海・海兵隊も同じ。一般市民の中に紛れる敵対応は誰にとっても困難。そのような敵に対しても、敵が集結していれば、エアパワーによる攻撃が最も効果的で我への被害も少ない。
疑問4:衛星や無人機が有人航空機と同様の任務が可能で、無人機は有人機より安価で人命を危機にさらすこともない。有人航空機は取って代わられるのでは。
反論4:米空軍は、衛星や無人機の研究開発を担当し、その運用も担っている。衛星や無人機はエアパワーだ。
疑問5:エアパワーは第2次大戦でピークを迎え、その後は衰退の道にある。
反論5:「The Age of Airpower」には空軍が決定的要素となった戦いを多数紹介しているのに・・・。1967年の6日戦争でイスラエルが圧倒的勝利を空軍力により収めたこと。ベトナムでのラインバッカー作戦は「制空無くして大規模戦闘行動は実行できない」を証明した戦い。湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦では空軍力でイラク軍を破砕したため地上戦闘はわずか100時間で終了した。
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疑問1はその主張が細部不明ですが、単価がべらぼうに高騰する中でも、本質的に効果が劇的に変化していない・・との主張のようです。いずれにしても、編集長サイド(反論側)が書籍著者(疑問側)に徹底的に反論していく構図となっています。
疑問4への反論は、全く反論になっていないような気がしますが・・・。書籍側は有人飛行機の時代、つまりパイロット優位の時代の終焉を主張しているような気がするのですが・・・。
エアパワー自体が衰退傾向にあるとは思いませんが、エアパワーへの対応手段が多様化し、拡散し、非対称化する中で、視野の狭いパイロットが支配する各国空軍が、この変化を乗り切れるかは大いに疑問です。
「空軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
「ゲーツ長官が空軍へ最後通牒」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-09-17
「空軍士官候補生に厳しく語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-06
「空軍は単に飛んでいたいのか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-02
「ロシアで米軍を戒める」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-28