日本時間の今日まで、米国は引き続きThanksgiving休暇ですので、少し昔を・・・原点を振り返り、しみじみしたいと思います。
「温故知新」といっては著者に失礼かもしれません。その論文はそんなに古くなく、2009年1月・2月号に掲載されたゲーツ前国防長官の「A Balanced Strategy」です。
この論文は、大統領に選出されたオバマ氏が史上初のケースとして、政党の垣根を越えて国防長官留任をゲーツ氏を依頼し、留任を受けた直後にゲーツ氏が「決意表明」(戦いののろし)として発表した論文です。
発表当時、日本でどれだけ話題になったか記憶がありませんが、オバマフィーバーの中で注目する人など無かったかもしれません。今となっては「その通り」の指摘も、イラク情勢の混乱とアフガン情勢の悪化の中で「目が泳いでいた」当時、その意味するところを肌で感じていた人がどれだけいたでしょうか・・・
本日はそんな「A Balanced Strategy」の一部をご紹介します。
備えるべき脅威の変化と能力のずれ
●全ての潜在的敵対者、つまりテログループ、ならず者国家、ライジングパワー、これら全てが共通に学び得たものは、米国と通常戦の手法で正面から対峙するのは賢明ではないとの認識である。
●過去40数年にわたって米軍が関わってきた戦いを振り返るとき、おおよそ終始通常戦であった点で湾岸戦争は唯一の例である。・・・西側の軍隊は、溺愛している「湾岸戦争の息子」ではなく、望まない「チェチェンの嫡子」に直面している。
●朝鮮半島であれ、ペルシャ湾であれ、台湾海峡であれ、必要性が生じれば、侵略を抑止して懲らしめるに足る豊富な(通常)戦力を我が海空軍は保有している。
ここは09年4月に補足で・・
★私は全てのスペクトラムの紛争・戦争に備えなければならないと考えているのである。・・・間違わないでいただきたい。私はこれまで整備してきたものを、不正規戦対処能力に置き換えようとしているのではない。私は単に、不正規戦対処能力にも他の能力と同じ地位を与えたいと考えているのだ。
極めて制度化され硬直化した軍民の体制
●ローテクでも現場ニーズに則した装備が必要で、そのような装備を現場にいち早く供給することを考える時が来ている。
●伝統型の軍事力整備へのサポートが「国防省予算、官僚機構、軍需産業そして議会にも深く根付いている」
●敵を撃破殲滅するために訓練していた軍隊が、相手を説得して(反政府活動を)思いとどまらせ、地元の治安機関を育成する任務に迅速適切に適応できるだろうか。
●海外の軍に助言して訓練し、装備品を提供するような重要な任務が、米軍内の優秀と目される幹部にとって、キャリア管理上魅力無いものと見なされているのではないか。
西太平洋地域の情勢認識と対応
●中国の投資に対応して、米国は、見通し線外からの攻撃力やBMD配備に重点を置き、また短距離システムから次世代爆撃機のような長距離システムへのシフトを求められるだろう。
●(日本と韓国に)パートナーとして完全に準備し、全ての、くり返すが、同盟国としての全ての義務を果たすことができるパートナーでなければならない。
この部分に関しては09年9月に補足し・・
★中国のような軍備増強している国を考える際、対称的な挑戦、つまり戦闘機対戦闘機や艦艇対艦艇のような挑戦を米国が懸念する必要はそれ程ないだろう。しかし、彼らが我々の機動を妨げ選択肢を狭める能力には懸念をもつべきであろう。
★彼らのサイバー戦、対衛星・対空・対艦兵器、弾道ミサイルへの投資は、米軍の主要なプロジェクション能力と同盟国の支援能力を脅かす。特に前線海外基地と空母機動部隊に対して顕著である。
またそれらへの投資は、足の短い戦闘機の有効性を殺ぎ、どのような形であれ遠方攻撃能力の重要性を増す。
そして日本など地域の同盟国には同年5月
★米国は、地域でのプレゼンスや直接行動へのコミットメントを維持する一方で、これまでにも増して、パートナーがより良く自ら防衛任務を果たせるような能力構築に力点を置いていく。
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確認ですが、●印は「A Balanced Strategy」からの引用、★は同論文発表後のゲーツ氏の発言です。
いまの米国の国防政策や予算削減の方向性、更に日本など同盟国への要求は、全てこの論文にさかのぼることが出来ると思います。
ちょうど3年前の今頃発表された論文です。しみじみ・・・。
→http://www.foreignaffairs.com/articles/63717/robert-m-gates/a-balanced-strategy#
→http://www.comw.org/qdr/fulltext/0901gates.pdf
「戦車、空母、戦闘機に捕らわれている」→http://t.co/tyFxLrq
「ロシアでCIAの思い出を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-28
「リーダーたる者は:最後の卒業式」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-28
「空軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
「前:陸軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07-1
「後:陸軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07-2