昨年12月17日の訃報後、北朝鮮の金正日後が何となく見えてきたとの論調が増えてきました。そこで本日は、独断と偏見で整理を試みます。
まずは防衛研究所の阿久津博康氏の見解をご紹介
一般的な態勢や軍事施策について、
●結論から言えば、金正恩体制は当面は金正日なき金正日体制とも言うべきもの
●名目的な最終決裁者を金正恩とするが、集団指導体制の中で名目的領導者の地位に甘んじざるを得ない。おそらく、党・軍・情報機関の有力者等から成る集団指導体制がとられるであろう。
●具体的には、全体的統括と政治面では張成沢(労働党政治局・中央軍事委員会・行政部、国防委員会要職兼任)や金敬姫(金正日妹、張成沢夫人)
●軍事面では李英鎬人民軍総参謀長、といった人物を中心とした統治形態がとられる。ただし、「先軍政治」が継承される以上、軍の影響力は相対的に高く維持される
●中国の支援を受けながら体制崩壊を回避しつつ、北朝鮮は今後も「先軍政治」を基調として「強盛国家(又は大国)」建設に向けて邁進する
●金正恩は、金日成や金正日が行ったように、粛清と恐怖政治を基盤に独自の統治思想や指導スタイルを作り上げていくかも
米との関係と軍事施策
●最大の脅威である米国との関係では、「核抑止力」を維持しつつ、従来通り「対北朝鮮敵対政策の終焉」を最優先課題とする
●一方、核・ミサイル開発はもとより、通常兵器や生物・化学兵器開発を継続し、特殊作戦能力やサイバー戦能力の向上を継続していく可能性が高い
●軍事行動の選択肢としては、ミサイル発射・核実験、サイバー攻撃、黄海における挑発、韓国大統領選挙に対する工作等
●核兵器の権限は、平時については諸説あるが、実戦配備とその後の管理については上記の李英鎬人民軍総参謀長が大きな影響力を有するかも
AEIのMichael Mazza氏の各種シナリオ(岡崎久彦氏が紹介)
継承成功以外のシナリオには・・・
②親族内の対立:とりあえず張成沢が摂政の役割を果たすが、金正恩が間もなく自己主張を始めて張成沢と対立、それに金敬姫も巻き込まれ、軍や労働党も割れる、
③軍によるクーデター:軍が金正恩の支配に抵抗する、
④韓国への挑発と報復:金正恩が強者として軍の信頼獲得のために韓国を挑発、韓国は北の思惑に反して北の基地を攻撃するなど報復に踏み切る。その際、金正恩には全面戦争を阻止する権威なし
⑤中国軍の侵入:北朝鮮からの難民流入を懸念する中国は、北が国境閉鎖と難民流出防止に失敗した場合、人道的危機を理由に北朝鮮に軍を派遣する
岡崎氏は中国と日米韓の考え方の相違に着目
●中国は盛んに半島の「平和と安定」を強調していますが、これは要するに、現状維持を願う立場からの「平和と安定」です
●他方、日米韓は、金正恩への権力継承が上手くいくように応援する必要はありません。日米韓は、北の暴発は困るが、北が良い方向で変化することを希望すべき
●中国は難民流入懸念だけでなく、マッザの言う第2、第3、第4のシナリオの場合も、介入し、安定化を図る可能性が高い
●NK政府又はその一部の要請を受け、軍を北朝鮮に入れることはありえますし、中国には北に要請をさせる根回し能力はあるでしょう。ソ連がハンガリーやチェコに介入した例のように
●そうなった場合、このままでは日米韓は手をこまねいていることになるのではないかと思われます。
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オバマ大統領就任以来、朝鮮半島対応ははっきりしませんし、具体的行動に出る余裕も無いでしょうから、中国による実力介入にも日米間が「手をこまねいて・・・」の可能性は高いと思います。
韓国は叫ぶでしょうが日本は決断できず、米国も米国人保護や脱出支援に軍を派遣する程度で「口先介入」の域を出ないことが十分にあり得ると思います。
「韓国の米軍再編は順調」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-27
「在韓米軍司令官の交代」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-09-04
「1/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28
「2/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-1
「補足米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-2