中国の空母や戦闘機開発等、ここ最近は本質的な「脅威の変化」や「戦いの変化」から目をそらす事象が多数発生し、本当に考え真剣に取り組む必要のある課題に目が向きませんでした。
特に年末のF-35購入決定は、まさに奈落の底に突き進む暴走列車を加速し、大東亜戦争時の大本営を思い起こさせます。
「石破茂・元防衛大臣の怒り」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-24
年始に当たり、もう一度日本が置かれている戦略的環境を見つめ直すため取り上げるのが、2010年5月にシンクタンクCSBAが発表したレポート「AirSea Battle: A Point of Departure Operational Concept」です(説明スライドも)。
本レポートは、最近停滞気味のAir-Sea Battle(ASB)を提唱したモノですが、本レポートが分かりやすく描写した中国軍の予想行動は、脅威認識として米国防政策や各軍種の装備品開発や調達の基礎を成す一貫したモノとなっています。
「Air-Sea Battleの状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
その他、その2~6、番外編など
2回目の本日は、前回紹介した中国による接近拒否体制確立を防ぐため、CSBAのレポートが推薦する米軍と同盟国(日本が一番重要)の戦い方をご紹介します。
A2AD阻止の鍵「盲目化」作戦
●中国は、接近する敵を遠方で発見・識別・攻撃することで拒否戦略を成立させており、ISRシステムが中国のアキレス腱となる。逆に、米国にとってもISRが重要であり同時に弱点であるから、双方が相手を「盲目化」させる事を追求する。
●一朝有事に相手を盲目化させるための「偵察競争」は既に平時から始まっている。サイバー、宇宙、水中領域においても同様である。
●中国を盲目化することにより、中国の攻撃精度・能力が低下し、更に戦果確認能力も低下することから中国は余分な弾道ミサイルの使用を余儀なくされる。特に水上目標の位置評定は中国にとって難しい課題であり、盲目化は我への脅威減殺に重要である。
●米側にとって盲目化の重要目標は中国の宇宙関連システムである。中国の軌道上アセットへの攻撃や中国の衛星攻撃能力の破壊が重要である。
●宇宙目標以外では、中国の長距離攻撃を可能にする陸上設置の海洋監視OTHレーダーやISR関連中継施設が重要攻撃目標になる。
●また、中国軍が導入を計画している高々度長期在空無人機は宇宙アセットのISR能力を補完する装備として注意が必要である。
中国の弾道ミサイル対応
●盲目化で既に触れた対処以外では、空海軍のステルス長距離攻撃機と潜水艦発射兵器で中国防空システムを攻撃し、スタンドオフ電子攻撃兵器で弱体化させ、通過可能なコリドーを切り開いて弾道ミサイル攻撃パッケージを投入が鍵となる。
●この際、スタンドオフ兵器で固定ミサイルを攻撃し、有人無人の長期在空ステルス機で移動目標を破壊する。
中国海軍への対応
●情勢が緊迫し中国の先制攻撃の可能性が高まった時点で、日本にある海軍イージス艦は事前指定のBMD配備に就き、空母は中国の脅威レンジ以遠に移動する。
●潜水艦は前進配備し、同盟国の潜水艦とASW(対潜水艦作戦)を第1列島線内で実施。巡航ミサイル潜水艦や攻撃潜水艦、同盟国潜水艦は大陸沿岸エリアでISRや攻撃(SEAD)任務に備える。
●紛争開始後、友軍潜水艦群の総合能力を考えれば、あまり中国艦艇への攻撃は期待出来ない。そこでASBでは航空機による艦艇攻撃に依存する。
●防空システムが強固な艦艇には空中発射巡航ミサイルが必要だが、中国艦艇自身の対空防御力は限定的であるため安価な兵器で対応できる。米海軍の航空攻撃アセットは、開発中の無人艦載機ステルス機N-UCASを除き足が短く、空軍の戦闘機やUAVは、搭載量が少なく他の任務もある。
●そこで、対空脅威がない前提で、在空時間が長く武器搭載量が多い空軍爆撃機に対応させる手法もある。
中国潜水艦への対応
●まず第一列島線の東側の中国潜水艦排除に努める。次に、米と同盟国による「琉球バリア(第一列島線のラインをイメージ)」を通過する中国潜水艦を捕捉して対処する。
●中国潜水艦は長期活動能力が低いため、母基地へ頻繁に帰投する必要があることからこの作戦が有効であろう。
●なおこの琉球バリア形成には、海上自衛隊の対潜水艦作戦能力が極めて重要な役割を担う。また米空軍ステルス爆撃機による潜水艦基地周辺への機雷投下や攻撃も有効。その他、水中無人システムとして開発中のUUVや移動型機雷なども有効。
戦闘空域での航空優勢の確保
●嘉手納、グアム、マリアナ諸島の米空軍基地や自衛隊の基地に被害が出た場合、東日本の基地へ米空軍戦闘機とミサイル防衛部隊の増強を送り込み、中国軍対処を支援する。これにより日本国内の目標防護と日本の防衛意志を強固にする。
●米戦闘機等を早期に日本に増強すれば、それだけ中国側の損耗を増加でき、日米のBMD用ミサイルを防空に使用せずミサイル防衛に使用できる。
●西日本から琉球列島にかけては、特に中国の弾道ミサイルや航空攻撃を受け脆弱なので、米日の大部分の戦闘機等は東日本から長距離運用を行う。
●航空優勢を東シナ海から琉球列島まで拡大し、琉球列島にある幾つかの滑走路を使用できれば、中国軍機を損耗させ、我のISRアセットの運用が容易になる。
●航空優勢拡大により、我の海上戦力による地上目標攻撃や突破型作戦の支援も容易になる。
その他のアセットや抗たん化
●確実な我の攻撃戦果確認や追加攻撃のため、ステルス長距離ISR攻撃機は高価であるが有効であり、また中国に対応策のための出費を強要する意味でも重要である。
●テニアン、サイパン、パラオの空港施設は改造すべき。陸海空軍が合同で定期的にBMD訓練を実施すべきであり、日本との訓練も増やすべきであろう。
陸軍や海兵隊の役割
●地理的環境からも能力上も、米国は中国大陸で大規模な陸上作戦を行う意図はなく、西太平洋地域は主に空軍と海軍の活動する戦域である。
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2回に渡ってご紹介したCSBAの本レポートに関し、その信頼性を下げているのが、同レポートの航空優勢確保に関する具体的提案、つまり「日本の第4世代戦闘機を増やし、5世代戦闘機を提供する」の部分(今回は未紹介の部分)です。
少なからず心ある者は「これだけ丁寧にかつ正直に各種ミサイルの脅威を認識していながら、脆弱な飛行場と多くの関連システムに依存する戦闘機への投資を日本に迫るのか」との純粋な疑問を持っています。
そしてまんぐーすの認識は・・・「この部分は軍需産業から資金を得ているシンクタンク特有の筆滑りだな」です。もちろん著名な研究者の皆様は、政府との関係もあり正面切って多くを語りませんが・・・。
日本自身がもう一度再考し、現在の方向性を大幅に見直すべきと考えます。レポートが描く将来戦の様相が完璧なモノでなくても、2回にわたってご紹介したシナリオは、納得できる情勢認識の上に立った分析に成っていると思うからです。
専守防衛、戦闘機重視、予算シェアの黄金律、正規戦のみの防衛論議、サイバーや宇宙を巡る縦割り行政等々・・・大いに再考すべきと考えます。(まんぐーすも思案中です)
明日は番外編として、CSBAのレポートが描いた「シナリオ」が米国の国防政策とリンクしている様子を垣間見たいと思います。
「1/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28
「補足米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-2
「どんな兵器:Anti-Access対応」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-04
「序論:長距離攻撃システム構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-25
「米無人機の再勉強」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-09-05
「米海軍航空戦力の将来・後編」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-12-27