4月25日付「Defense-Tech」が、中国空母の艦載機として訓練を行っているらしいJ-15を中心に中国空母について、米海軍大学Andrew Erickson氏の分析を掲載しました。
ステルス機?と話題のJ-20戦闘機に関する分析も継続的にご紹介いますが、J-15についても信頼できそうな専門家の視点を紹介します。
J-15は、旧ソ連の艦載機を目指したSu-33のレーダー、センサー、兵器を改良した航空機で、米空軍のAESA radarやAIM-120 AMRAAM級の装備を搭載し、Super Hornet級の推力重量比のエンジンを持ち、戦闘行動半径は430マイルと言われています
結論的にはJ-15と中国空母は・・・
●米空母のようなカタパルト発進ではなく、ski-jump方式の現中国空母では、J-15は燃料や兵器を十分搭載できず、E-2のような重いAEW機を発進させることが出来ないため、また空中給油能力も限定的なことから、限定的な戦力発揮しか望めない。
●勿論、かなりの「威圧」を南シナ海沿岸国など中国周辺国に与え、米国への信頼感を浸食し、中国よりに偏向させる可能性もあるが。
●ISRシステムの充実や長射程ミサイル等の搭載で補完するにしても、米艦隊やグアム島等の施設攻撃の脅威を誇張するべきではない。この欠点を克服するためには、中国は将来カタパルト式の空母を目指すことになるだろう
●米海軍は空中給油を主に空軍に依存しているが、中国にはこの能力が不十分。米海軍F-18は給油用のPODを搭載できるが、それでもわずか4000ポンドしか給油できない。
●中国空母は中国艦艇にエアカバーを与え、中国艦艇のミサイル射程内に米空母群や米軍基地を捕らえるまで前進するために役立つだろう。それでも中国作戦担当者は、少数機で長距離攻撃を行うか、空母をリスクにさらしても攻撃目標に接近するかの困難な選択を迫られる。
●いずれにせよ中国のJ-15開発は、中国海軍による長期にわたる航空部隊建設の一部分、つまり冷たい塩水に「つま先を浸す」段階にある。
細部の課題や関心事項をを8つ
●ski-jumpはカタパルト式に比して、離陸重量が制約を受ける。中国の限定的で中国沿岸部しかカバーできない空中給油能力では、例えばホルムズ海峡からマラッカ海峡間での艦載機の作戦行動は制約を受ける
●J-15が空母着艦の衝撃に耐えられるのか疑問が残る。機体の脚部や機体全体の強度が激しい着艦の衝撃に耐えうるのか、キチンと検証されているのかが怪しい。また、着艦時に機体を引っかけるワイアーが、適度な弾力性を備えたものであるかも不確かである。ワイアーの欠陥は大惨事に繋がる。
●E-2C等AEWや空中給油機(米海軍は米空軍に依存)が無いと艦載機の活動範囲が制約を受けるが、中国はこの点で不十分。仮に中東エリアで空中給油機を陸上から運用するには、関連国との協議から始める必要がある
●今後数年で中国が、目標位置情報を入手するISRシステムを確立し、射程300km級の長距離空対空ミサイルや空対艦ミサイルを装備できるかもはっきりしない。これが装備されればski jump式からくる航続距離不足も幾分かはカバーできるが。
●現状ではJ-15はロシア製のAL-31エンジンを使用していると推測されるが、もし中国がJ-15を完全国産したいなら中国産のWS-10エンジンの信頼性を上げなければならない。これには塩水へのエンジンの耐久性向上も大きな課題である。
●J-15への改良可能点は、可変排気ベクターノズルの装備や空気取り入れ口のレーダー反射率低減などがある。搭載アビオニクスは今後5年程度で大きく進歩するだろう
●J-15を何機ぐらい製造する予定だろうか? この数量により、周辺国に与えるインパクトは大きく違ってくる。ヘリ搭載を主にする場合との差は歴然である
●中国空軍J-10戦闘機の艦載機バージョンが製造されるかに注目している。かつて米はF-16の艦載機型を検討したが、不適だったように、艦載機の機体への大きな負担を考えると容易な話ではないが、J-10型艦載機の噂は以前から途絶えることがない
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南シナ海や東シナ海に存在するだけで、大きな威圧感を与え、摩擦を恐れる国にとっては十分な厄介者になるでしょう。
しかしそれはそれとして、米海軍大学の準教授としての純軍事的な視点でその能力評価をご紹介しました。やはり空母を使いこなすこととは、艦載機、AEW、空中給油機、カタパルト、降着装置等々の装備品充実を含めた総合力だと言うことでしょう。
「中国の脅威を誤解するな」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-28
「映像:中国艦載機J-15?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-13
「中国内陸の武漢に空母出現」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-02
「画像中国空母Shi Lang施琅」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-08
「論争:中国空母は脅威か?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-28
「中国海軍の何を恐れる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-08
「石破茂・元防衛大臣の疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-21
「空母はまだ有効なのか?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-08-1
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