6日付のWedgeサイトで岡崎久彦氏が、エアシーバトル(ASB)による対中国戦争の戦術的・技術的検討にとどまらず、いかにして中国に勝利を収め得るかと言う対中戦争全体の戦略を考える時期ではないか・・・と問題提起をしています
そして岡崎氏の意見として「西側にとっては経済封鎖が最大の武器であり、ASBは、そうした大戦略の中における効果的な補助手段として考えるべきだ」との考え方を提示し議論を呼びかけています。
総選挙での票目当ての、「尖閣」や「竹島」にだけ焦点を絞ったような目先の議論が「満開」な中、大御所らしい正々堂々とした姿勢の問いかけですのでご紹介します
記事「エアシーバトルを対中戦略に高めよ」は・・
●10月19日付ウェブNational Interest誌で、Hammes米国防大学主任研究員は、ASBを単にA2/ADに対抗するためと説明するだけでなく、全般的な対中戦略の中に占める位置づけをはっきりさせるべきである、と述べている。
●また同研究員は、ASBは対イランと対中国と言われているが、イランについてはホルムズ海峡封鎖能力を破壊するという戦略的目的達成が可能であるが、中国に対しては、何が勝利かのシナリオが全く見えていない、と述べている
●更に、米の国防関係者は、ASBの戦術的・技術的説明だけでなく、対中国勝利のための軍事戦略を示す必要がある、と論じている
岡崎氏の対中国戦略案は・・・
●今後、対中戦略を考えるとすれば、戦術的にはA2/ADを含めた、大規模な経済封鎖戦略でしょう。
●経済交流が絶たれれば、中国の主要輸出入産業は操業停止、大量の失業者が街に溢れ、社会不安を生み出します。中国保有の米国債など、敵性財産として、償還利払いが停止されれば紙くずです。
●今の中国は、国民が中国共産党を信頼して、穴にこもっても長期戦を戦い抜くというような人民戦争の時代ではありません。
●上層部の汚職などで一党支配の正統性を失っている中国政府にとって、唯一の正統性である高度成長が止まれば、政府の基盤も危うくなるでしょう。
●追い詰められ、在日米軍基地や米本土に自暴自棄的戦略攻撃を試みても、それは真珠湾と同じで、反撃の方が遙かに破滅的であることは明白です。
●イランの場合もそうですが、西側にとっては、経済封鎖が最大の武器であり、ASBは、そうした大戦略の中における効果的な補助手段として考えるべきだと思います。
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このような大局的な視点に立った議論は大いに歓迎です
地理的に広大で人口も多い中国は、狭く細長い日本に比して軍事的には圧倒的に有利であり、例え日本が核武装しても軍事的なパリティー(平衡状態)は望めません。
この点からも岡崎氏の案は議論に値すると思います
一方で、岡崎氏の「在日米軍基地や米本土に自暴自棄的戦略攻撃を試みても、それは真珠湾と同じで、(西側諸国による)反撃の方が遙かに破滅的であることは明白」との主張には、少し注意が必要だと思います
少なくとも、「自暴自棄的戦略攻撃」によって受ける被害は、中国に近い日本と遠い米国では大きく異なり、日本はその点をよく念頭に置きつつ米国との対中軍事戦略すり合わせを行うべきです
米軍が進めるASBは、遠方からの攻撃を中心にしつつ、味方戦力を分散する等して敵攻撃に対する強靭性(Resiliency)を追求するものです
言い換えれば、緒戦における中国のミサイルによる先制攻撃を何とか最低限の被害でしのぎ、反撃の足場を確保しつつ遠方から反撃を試みようとするものです
日本は大陸に近く「逃げられない」位置に存在し、分散にも限界があることを肝に銘じ、軍事戦術・戦略を見直す必要があるでしょう。空中戦しか頭にない「戦闘機命」・「実質戦闘機だけに投資」からの脱却は、「1丁目1番地」にある喫緊の課題です
「1/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28
「2/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-1
「概要海空軍トップのASB論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19
「脅威の変化を語らせて」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08