「歴史認識に関する首相談話」を学ぶ

ShojiNIDS.jpg18日発表の防衛省防衛研究所のNIDSコメンタリー」が、戦史研究センター長・庄司潤一郎氏による「歴史認識に関する首相談話」との解説文を掲載しています。
安倍首相が2月1日に国会で、「村山談話」を引き継ぎつつも「21世紀にふさわしい未来志向の談話を発表したい」と述べ、新たな「安倍談話」を発表を示唆したことが背景の解説で、過去の「首相談話」を学ぶ良い教材ですのでご紹介します
以下は概要の紹介ですので、ぜひ原文をご覧下さい
原文→http://www.nids.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary031.pdf
村山談話:1995年8月15日
戦後50 周年に際して
murayama.jpg●社会党の村山富市首相が行った「戦後50 周年の終戦記念日にあたって」と題する談話
●特色の第1は、「植民地支配と侵略」によりアジア等諸国に「多大の損害と苦痛を与えた」ことに対して、「痛切な反省」と「心からのお詫び」を表した点である。更に、不幸な歴史を二度と繰り返さないという「平和・不戦」の決意が表明されてい
た。
●従来も、文書、会見やスピーチなどにおいて、しばしば「反省」、「謝罪(お詫び)」、「不戦」は示されてきたが、これを集大成し、閣議決定の「重み」が付与された
第2に、「国策を誤り」云々の文言が、初めて挿入された点である。「国策を誤り」を明確に認めたため、その後、責任の主体や対象となる具体的な政策・時期について活発な議論がなされた。
murayama2.jpg●(村山談話に反発する勢力により)同年6 月の衆議院で出された「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」(不戦決議)では、「侵略」、「謝罪」の文言が、それぞれ「侵略的行為」、「深い反省」に置き換えられ、「過去の戦争についての歴史観の相違を超え」との文言も加えられた。
●ただし全会一致を旨とする国会決議であるにもかかわらず、与野党から多くの欠席者が出て、全議員数の半数以下の賛成を得たのみ
●注目すべきは、村山談話は官邸主導ではなく、実は長期的な戦後処理政策の一環として外務省により入念に推進され、さらに、対象国としては特に中国、韓国、アメリカ、イギリスが念頭に置かれていた点である。(談話発表と同時にこの4カ国に村山首相の書簡が発出)
●以後、同談話は自民党を含め歴代内閣によって踏襲され、現在にいたっている
小泉談話:2005年8月15日
戦後60 年に際して
koizumi.jpg自民党の首相が表明した点に意義があったとも言われる
特色の第1は、「村山談話」で議論を呼んだ「国策を誤り」、「国民を存亡の危機に陥れ」、「独善的なナショナリズムを排し」などの戦争期に関する文言が姿を消し
●代わりに、戦後日本の平和国家・平和主義の実績に多くが割かれ、政府開発援助(ODA)や国連の平和維持活動(PKO)などを通じて世界の平和と繁栄に貢献した点が強調された。
第2に、こうした戦後日本の平和主義を踏まえつつ、「一衣帯水の間にある中国や韓国をはじめとするアジア諸国とは、ともに手を携えてこの地域の平和を維持し、発展を目指すことが必要」と、中韓両国の国名を明記しつつ、「未来志向の協力関係を構築していきたい」と結んだ点である
第3に冒頭で日本の戦没者に言及しつつ戦没者の追悼と平和祈念が表明され、小泉首相の靖国神社参拝の論理に通じる表現となっている点である。
参考:靖国初参拝時の談話
koizumi2.jpg小泉首相の靖国初参拝(2001年8月)の談話では、「多大の損害と苦痛」を「計り知れぬ惨害と苦痛」へと表現を変更し、さらに「癒しがたい傷痕」を加筆するなど、「村山談話」を超えるものと言われる。
●なお中国側は同談話を高く評価、江沢民国家主席は、「これほど話のできる日本の首相は初めて」と驚き、小泉首相はもう靖国神社を参拝しないとの期待感を持ったと言われている
菅談話:2010年8月
韓国併合100周年に際し
kannN.jpg●韓国だけを対象として、かつ民主党によって出された初めての談話
●「村山談話」を踏襲しつつ、具体的に朝鮮植民地支配に触れ、3・1独立運動に言及、「当時の韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、民族の誇りを深く傷付けられました」と、植民地支配の強制性を認め、「痛みを与えた側は忘れやすく、与えられた側はそれを容易に忘れることは出来ないものです」と、韓国国民の心情に対する配慮もなされた
一方、談話の過半(特に後半部分)では、両国の2000年来培われてきた交流・友好も踏まえ、未来志向の日韓関係を構築すべきであると述べ、緊密な隣国同士として、東アジア共同体をも念頭に置きつつ、「幅広く地域と世界の平和と繁栄のために協力してリーダーシップを発揮するパートナーの関係」の必要性が説かれた
談話を対外発信の契機に
中国では「村山談話」も充分に知られていないのが実情である。
●特に、小泉首相の場合は靖国神社参拝の印象が先行しているため、種々の談話や発言の内容が、ほとんど中国人研究者に知られていないのが実情
YasukuniSakura.jpg●「安倍談話」について、その時期、内容や形式などは今後検討するとのことである。時期については、慣例通り戦後70年の節目となる2015年も一つの選択肢と言われている。
●内容について安倍首相は「戦後70年にふさわしい、戦後日本の歩み、これからの歩みを含めた談話を出すべきだ」と述べ、菅官房長官は「未来志向を重点にしたものが・・・必要だろう」と述べている。
●いずれにしても、今後こうした一連の談話をより一層対外的に発信していく必要があるだろう。
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小泉首相(当時)は、十分に反省や謝罪の意を表明している、だから靖国へ行く(又は、いくら言っても聞いてくれないなら、行きたい時に靖国へ行こう)との姿勢でしたが、中国側に「聞く耳」が(将来的にも)無いのは明らかなようです
現職公務員である庄司センター長の文章ですので、「不完全燃焼」感を持たれる方もいらっしゃるのでしょうが、事実関係を丁寧に説明した点において素晴らしい教材だと思います。まず事実を踏まえる意味でも良い資料です
再度申し上げますが、上記はまんぐーすが勝手にまとめた「要旨」ですので、是非原文をご覧ください。
→http://www.nids.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary031.pdf
なお、21日付時事通信は
首相は21日付の米WP紙のインタビューで、村山談話を踏まえて発表したいとしている「安倍談話」について、「歴史認識に立ち入るべきではなく、政治家は未来を語るべきだ」と述べ、歴史認識の見直しには踏み込まない考えを示唆した
●中国などに加え、米国でも村山談話が塗り替えられるのではないかとの懸念が出ていることを考慮したとみられる
●首相は「自分は歴史認識については基本的に歴史家に任せるべきだというのが基本姿勢だ。第1次安倍内閣のころから言い続けている」と強調。「(新談話では)日本がアジアでこれから果たしていくべき役割を語るべきだ」とした
「あの戦争を何と呼ぶべき」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-26
「中国で反日デモが出来ない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-09

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